ジャック・ザ・リッパー 2話
「トーマス・・・」
僕は、下水道の中でおぞましい風景の中に立つ紳士に声をかけた。
『おや、これは珍しい客人だ。確かピーターパン退治に出かけるとかいう不敬な詐欺師さんじゃないですか。こんな所にくるなんて怪しいですな』
「怪しいのは、貴方の方では?トーマス・アーノルド警視」
『私の担当は、例の切り裂き魔の捜査ですから。ヤツのアジトに居てもおかしくないでしょう?』
彼は、トーマス・アーノルド警視。
スコットランドヤードの警官だ。
「よく考えたものだ。追う側が追われる側なら決して捕まらない。高貴な方も案じる訳だ」
『おいおい、笑えない冗談は、止めてくれ。私が犯人な訳無いだろう!私は、警官だ』
「ひとつ、ここはヤードの管轄外。ふたつ、僕はここが切り裂きジャックのアジトだとは言ってない。みっつ、貴方はネバーランドを望みながら叶わなかった」
途端に、アーノルド警視の顔つきが残忍で無邪気な笑顔に変わった。僕はこの顔を良く知っている。
そう、あいつにそっくりな笑顔。
警視が真似をしているだけかしれないが。
『なぜ、そのことを知っている』
「僕は、ご存知の通り彼を憎んでさえいる。だから、彼に関する事は調べ尽くした。その昔の新聞の中に貴方の事が書かれてましたよ。[親殺しのアーノルド少年、ピーターパンに見捨てられる]とね」
警視は、変わらず笑みを浮かべている。