出航 4話
ビュッ!
ドアを開けると何が僕の顔をかすめた。
振り返ると、腐ったトマトが壁に当たって潰れている。
ビュッ!
また何か飛んできた。
今度は卵だ。
家の前には、狂気じみた目をした群衆が押し寄せていた。
ピーターパンの信者達だ。
まぁ、予想はしていたさ。彼は正義ヒーローらしいし、僕は、悪役らしいからね。
プラカードには、言葉に出すことも躊躇するようなひどい言葉が書かれている。
僕は、妻を庇うように馬車に乗り込んだ。
馬車にも容赦なく色んなものが飛んでくる。
馬車は猛スピードで走りだした。
「私たちは、悪いことをしてるのかしら」
妻が消え入りそうな声で聞いてきた。
「僕達は信じる道を行く。それだけだ」
「信じる道?」
「家族を取り戻す」
「あなた」
寄り添う妻を力強く抱き締めた。
一つ、気がかりなことが残っている。
妖精のウインガーベルだ。
本来なら、ケンジントン公園まで迎えに行ってから出発するつもりだった。
ある程度予想はしていたけど、まさか、あんなに人に囲まれるとも、狂気に取りつかれてるとも思わなかった。
ピーターパンがあんなにも支持されているなんて。
信じられない。
僕は、何げに馬車の窓のカーテンをつまんで外を見た。
さすがに追ってきている人は居なかった。
窓にへばりついた割れた卵が嫌な気分にさせるくらいだ。
ん?
空で何か光っている。
馬車の遥か上空に白銀の帯ができている。
あの子は、妖精なのに律儀で賢いみたいだ。
大抵の妖精は、気紛れで物忘れが激しいのに。
ティンカーベルも気紛れで嫉妬のかたまりみたいだったもんな。
とりあえず、僕は、胸を撫で下ろした。
港が心配だな…