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TSFシリーズ

TS娘と親友くんは、階段の踊り場でお弁当を食べながらお喋りします

作者: 伊巻てん

「ほら、弁当。作ってきてやったぞ」

「……は?」


 学校の昼休み。前日にアイツと昼は学食へ行こうと約束していたものの、呼び出しを受けた先はなぜか屋上へ向かう階段。

 そこで待っていたアイツから突然差し出されたそれ(・・)に、思わず素っ頓狂な声を上げてしまう。

 アイツの手には、やたらファンシーな布に包まれたなにか。弁当、と言ったのだから弁当箱なのだろうか。


「……お前、料理なんかできたっけ?」

「最近、母さんに将来のために覚えろって言われて、練習してる」

「……そうなのか」

「母さんがお前に作ってやれってうるさくてな。今日は朝五時に起こされた」


 なんだか、聞き捨てられない台詞が聞こえたような気がしなくもないが。

 男だったとき(・・・・・・)のアイツは、そんなことするやつじゃなかった。一人のときは、夜更かししてまでゲームや漫画を読むような奴だ。そんな奴が家事などするなんて、思いもよらなかった。


 世界でもまれなTS病とやらで、三か月ほど前のある日突然女になってしまったアイツ。色々苦労していたようだが、そんなことまでさせられていたとは。――将来のため、ねえ。


 短髪だったアイツは、今では肩まで黒髪を伸ばしている。顔付きは整っており、イマドキ膝丈までのスカートを穿き、端から見るとスポーツイベントのイメージガールっぽい清楚系な女子高生である。ただし、喋らなければという枕詞が付くが。


 俺は布に包まれたそれを受け取り、踊り場の隅に腰掛ける。屋上は閉鎖されているため、滅多なことがない限りここを訪れる学生はいない。そもそも、屋上があることすらしらない生徒もいると聞いたことがある。まあ俺も、こんなところへ来ることはほとんどないが。


 丁寧に結ばれた結び目を解くと、二段重ねになった弁当箱が現れた。それぞれを開くと一段目は白米に梅干し。二段目には卵焼きにきんぴら。丁寧に――いや、少し歪なタコの形を象ったウインナーまである。プチトマトとブロッコリーに、唐揚げが四つ。定番のおかずが並んでおり、ボリュームは十分である。


「これ、全部お前が作ったのか?」

「ああ。唐揚げも冷食じゃないぞ」


 そう言ってふんす、と腰に両手を当て勝ち気な態度を見せるアイツ。相変わらず見た目と態度が一致しないが、態度はアイツそのものである。


「……食ってもいいか?」

「ああ。どれからでも食ってくれ。あ、オススメは卵焼きだぞ。毎日作ってたからな。父さんからもう勘弁してくれって言われたぐらいだ」


 それは味的な意味で言われたんじゃ――と喉まで上がってきた言葉をグッと堪える。少々嫌な予感はするが、自信があるようだからそれから手を付けるべきだろう。


 その卵焼きは、見た目はよくできている。綺麗な黄金色をしていて、焦げてはいない。箸で掴んでみると、ふっくらとして美味しそうだ。

 それを口に運ぶと、甘みが口の中に広がる。だしも少し入っているのか、ご飯にも合いそうだ。


「……美味い」


 素直に感想を述べる。横で固唾を呑んで見守っていたアイツがよかった、と胸を撫で下ろしていた。


 他のおかずにも手を付けるが、どれもこれもはっきり言って美味かった。あのアイツが作ったとは、到底思えないのだが。


 だが弁当を食べている途中、アイツの人差し指に絆創膏が巻かれていることに気付いた。それを見てしまうと、アイツが作ったのは本当なのだろうと思えてきた。恐らく、包丁の扱いに失敗したのだろう。ウインナーの形が歪だったことを考えると、十分にありえる。


 とはいえ、ここまでになるには相当母親に仕込まれたんだろうな、と思う。そのまま食べ続け、アイツが半分食べ終わる前に弁当箱を空にしてしまった。


「ごっつぉさん。正直不安だったけどどれもこれも美味かった。作ってくれてありがとな」

「そうか、それはよかった!」


 アイツはそう言ってにへら、と微笑んできた。美少女スマイルに少しやられそうになるが、中身はアイツである。外面に騙されてはいけない。


 そしてスマホを取り出して、何か文字を打っているようだった。どうしたのか聞いてみると、母親に俺が美味かったと言ってくれたと報告しているらしい。

 なぜ、母親に報告する必要があるのだろうか。


 アイツが食べ終わるまでおかずそれぞれの感想を述べ、さて教室へ戻るかというとき。


「……なんで弁当箱もったままなんだ?」

「いや、洗って返そうと思ったんだが。さすがにそれぐらいはするべきだろうと」

「……んー、それはいい。それだと、明日作ってこれないじゃないか」

「……は? 明日も作ってくれるのか?」

「嫌じゃなければ、そうしようと思ったんだけど。……ダメか?」

「……」


 少し俯き加減、そして上目遣いで俺にそう言ってくるアイツ。はっきり言って反則技である。美少女――中身はアイツだが――にそんな顔をされて、断る男がどこにいるというのか。


「……わかった。そうしたら明日も頼む」

「そうか! 明日も美味いもの作ってくるからな!」


 満面の笑みを浮かべて俺にそう言ってくるアイツ。なんだか悪いが、美味いものが食えるならばありがたい。

 そんなことを考えていたのだが、考えが甘かったことにあとで気付かされることになる。


 後日、アイツがせっせと俺に弁当を作ってきているのがクラスで話題になり、付き合っているんじゃないかと噂になるのだった――。

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― 新着の感想 ―
[一言] 親友TSは!!!いいぞ!!!!!!!
[一言] 続きが読んでみたい話だった。
[一言] 羨ましすぎる
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