知らなかった(ショートショート3)
妻が風邪をひいたというので、冷たい風のなか、オレは薬を求めドラッグストアーに行った。
妻はひどい冷え症である。風邪薬のついでに、冷え症対策の靴下を買ってやることにした。
店員にすすめられ、膝小僧まで隠れるという長めのものを選んだ。
これなら暖かいだろう。
オレは妻思いの愛妻家なのだ。
妻に風邪薬を渡し、それから愛の証である靴下を見せた。
「わあー、ありがとう。こういうの、前からほしかったのよ」
妻は喜んでさっそく靴下をはいた。
「あったかいわ。ふくらはぎまで……」
――うん?
のぞき見るに、靴下の上の部分がふくらはぎで止まっている。
――膝小僧まで隠れるんだったんじゃ?
オレは妻の足をあらためて見た。
靴下が横に伸びに伸びている。
――なるほどな。
納得するとともに、ふくらはぎの巨大さに寒気をもよおし、オレは大きく身震いした。
結婚して二十年がたつ。
妻のことは、みんなわかっているつもりだった。だが、こんなことも知らなかった。
翌日。
オレは風邪をひいていた。