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真っ赤な築山

作者: 芹沢 忍

「夏のホラー2015」参加作品です。久々に書いた話なので上手く仕上がっているかどうか(^_^;)


怖いと感じて頂ければ幸いです♪

 トイレの花子さん。音楽室の絵が動く。段数が変わる階段――


 学校の七不思議。大人になった今では、そんなのは全国に広がる定番の話だと知っている。学校ごとにバリエーションがあり、時代とともに流行り廃れがある。しかし、中には、真実味を帯びたものもある。その学校特有の話だ。


 小学校時代の夏の昼休み。数人で集まっていた時である。七不思議の話をしていて、同級生の一人がいきなりこんなことを言い出した。

「真っ赤になるんだって」

 普段は弾けるように明るい奴が、真剣な表情で呟いた。一瞬まわりが静かになる。

「何が?」

 問い返したのは俺だった。

「校庭の築山」

「つきやま?」

「あれだよ」

 指差されたのは土管のトンネルがある土の山だった。そこには芝生が植えられており、周りには大きな石が敷かれ、少し離れてひょうたん型の小さな池――というよりも大きめな水溜まりがあった。校舎から見て校庭の一番左端、桜の木に囲まれた一角だ。

「夜に築山が真っ赤になってるって、よく、消防署に電話があるんだって。父さんが消防署の友達から聞いたんだ」

「真っ赤になってるって、燃えてるってことかよ」

「消防署だからそうじゃねぇの」

「全然怖くねぇな、その話」

「不思議だから怖くなくてもいいんだよ!」

「そんなのが、いつから七不思議の一つになったんだよ」

 あいつはそんな突っ込みを受けてから、その他の学校に伝わる不思議を話していた。真っ赤な築山以外は、よく聞く話だったのか、時間が経つに連れて曖昧になり、内容は忘れてしまった。


 卒業し、酒が飲める歳になった頃、同窓会が開かれた。まだ多くが就職前の春休みを満喫してる時期である。久々に再会したクラスメイトは、近況報告を交わした後、想い出話に花を咲かせた。

「そう言えば、覚えてるか?」

「何を」

「真っ赤な築山」

 何人かが頷いた。俺もその一人だった。

「しっかり七不思議に定着してるみたいだぞ」

「まぁ、俺らが聞いたのと、少し変わってるみたいだけどな」

 そいつは親戚の子から聞いた話を俺達にしてくれた。確かに変わってはいたが、人を経て尾鰭が付いたという感じに思えた。ただ、怖さは増したと、一同意見は一致した。

 楽しい時間は速く過ぎる。気が付けば終電も近かった。同級生の中には住居を変えた者もいて、二次会は無しとのことで、それぞれが家路へと向かった。

 ほろ酔いで自宅へ向かう途中、俺は小学校に寄って行こうと思い立った。同窓会会場から小学校までは、さほど遠くはない。胸が懐かしさに酔っていた。


 通学路。

 幅広の歩道。

 学校との区切りのフェンス。

 それに沿った満開の桜の木。

 フェンスの外から見える校庭と学び舎。

 

 暗い影に見える校舎を懐かしく見上げてから、再びフェンスの流れに視線を戻す。真っ直ぐに進むと先にはひょうたん池。そして、件の築山だ。

 築山は、丁度歩道が細くなった、その先にある。道路が比較的近く、半分くらいは街頭が無いために薄暗い。昼間は然程でもないのだが、暗がりの築山は、正直言って結構不気味な感じがする。

 こんなに暗くなってから真っ赤に見えるなら、確かに不思議だよな。そんなことを思いながらひょうたん池に差しかかった。オレンジ色の街灯に照らされて桜の花弁が染まっている。


 燃えている。

 

 そう思った。そして築山が真っ赤になるって、この光のせいなんだとも思った。

 事実、濃いオレンジ色の灯りは築山を染め、ひょうたん池は黒い水面に受けた光を陽炎のように揺らめかせている。真っ赤にとは言いがたいが、燃えているように見えなくもない。何となく話の出所が判って、思わず笑ってしまう。


 幽霊の正体見たり枯れ尾花


 そんな慣用句が浮かんできた。俺達が子供の頃に聞いた話はこれが基なのだろう。尾鰭が付いた方はどうなんだろうかと考えを巡らせていると、前方で大きな音が響いた。


 車の急ブレーキ音。


 見ると築山の少し先に車が停車している。俺は慌てて駆けだした。

 歩道から運転席を覗く。男性の運転手は固まったまま動かない。いや、動けないようだ。道路を確認してから、俺は車道側に出て、運転席の窓を叩いた。何度も、何度も叩く。そしてようやく運転手が顔を上げた。蒼白なその顔は尋常ではなかった。俺は運転席のドアを開いた。ロックされておらず、それはスムーズに動いた。 

「どうしたんですか」

 尋ねた俺に男は小さく言葉を繰り返す。あまりにも小さく聞き取れないため、口元に耳を寄せる。

「――ちまった。轢いちまった。轢いちまった――」

 男が俺の肩を掴む。そして縋りついてから叫んだ。

「人を轢いちまったぁぁぁ~~~ぁぁぁ!」

 恐慌をきたした男は、そのまま俺の上に倒れ込んだ。コンクリに押し倒され背中を打つ。圧し掛かられて息が詰まる。

「警察、警察呼ばなきゃ。いや、それよりも救急車、救急車!」

 慌てふためく男は自分の下に人がいるとは気付いていないようだ。とにかく男を退かさなければ、状況の確認も出来ない。強引ではあるが、俺は払い退けるようにして男の頬を張った。勢いに男がバランスを崩し、身体の上から落ちる。自由になり俺は大きく息を吐いた。起き上がり周囲を見る。幸い夜も遅いせいか、車道に車の姿は見えなかった。傍で呆けた男を立たせ、細い歩道へと移動する。一先ず男を歩道に預け、俺は状況を見るために、車の周りを一周した。凹みも傷も見当たらない。車体の下を覗いてみたが、特に変わった様子も無い。何かに乗り上げている気配もないし、道路に血痕があるわけでもない。自分が歩いていた前方には人影は無かったと思う。

 人を轢いたなど勘違いではないかと言おうとして男を見ると、彼の震える手が、一点を示していた。顔は先程よりも蒼褪め、全身はガタガタと震えている。俺は男の指差す方を見た。


 真っ赤だ。


 まるで血をぶちまけたように。

 それは築山だった。あの築山だった。

 粘度のある赤い液体が芝の上をゆっくりと滴る。

 土管のトンネルの縁を、ぬらりと伝う、どす黒い赤。

 そして土管の陰には――子供の頭が見えた。

 その頭が、ゆっくりと上がり、顔がこちらを向く。


 聞いたばかりの真っ赤な築山の話が浮かぶ。


 夜中に築山の前を車で通ると、その車は人を轢いたと思って築山の前で止まるんだって。で、見ると築山が血で真っ赤なの。運転手は慌てて救急車を呼ぶんだけど、救急車が来て確認すると、轢かれた人はいないんだって。


 血に濡れた顔。まだ幼さが残る子供の顔。

 身体は見えない。いや、身体自体が無い。

 頭部だけが不自然に土管から転がり出る。

 転がった後には赤い模様が描かれて行く。


 男が悲鳴を上げ、足をも縺れさせながら車へと駆け戻る。エンジンが荒い音を発てたかと思うと、車が猛スピードで走りだし、俺はその場に独り残された。車の走路を追うようにして俺は視線を築山から背けた。


 あれは何だ?

 

 冷たい汗が背に浮く。あれは何だ。あれは――

 問わずにはいられないが、俺には解っていた。

 あれは死んだ、とうの昔に死んだ子供だ。

 あの顔は築山の話をした級友の顔だ。

 俺達が卒業する直前に交通事故で死んだ、あの級友の顔だ。


 そして思い出した。築山の話をした後の、あいつの悔しそうな顔を。あの時、あいつは、皆を怖がらせたかったのではないか。

 俺は何て言っていた?


 ズズッ― ズズズッ――


 背後で何かを引き摺るような音がした。


 きっと頭だけがこちらに向かって動いている。

 血の痕を引き摺って向かって来る級友の頭部――


 怖い。怖くて堪らない。


 あいつは自力でただの不思議な話を怖い話に変えやがったんだ。


 恐怖と懐かしさと悔しさが入り交じった感情が俺を動かす。俺はゆっくりと築山の方へと振り返った。

 築山の麓では、血に濡れた子供の顔だけが、俺を見て、満足そうに嗤っていた。

初めましての方も久しぶりな方も、いかがでしたでしょうか? 


某校庭の築山を思い出して、こんなのだったら怖いなぁと考えてみた話です。無邪気な真摯さって怖いですよね。


BGMはamazarashi。相変わらずです(^_^;)

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