オーバーヒート
俺。飯上 周磨は、緊張している。
なんたって中、高と大学の三ヶ月は異性との関わりがとても薄かったからだ。
小学生の頃はもう覚えてないけど、どこで自己紹介やら人間関係やらを失敗したのか、去年まで女子どころか誰からも近付かれずに過ごしてきた。
卒業アルバムも写ってない。これホント。
で、そんな俺の前にはそこらの女の子とは格別に可愛い、綺麗な翼つきのお嬢さんが来た訳で。
気がどうかなっていた俺は、彼女を家にあげた。
なんとも無用心。
普通の家より少しだけ広い居間に俺と、辺りをキョロキョロする彼女。
小さく聞こえる午前のニュース。
「あのー…もしかして今日来るっていう姪の人?」
とりあえず訊いてみる。
「あ、はい。申し遅れました。私、天界から参りました。天使、ハミエルと申します。」
彼女は真面目に言っているんだろうが、頭がパニックになりそうだ。
「ご両親には、私の知り合いが話をつけて頂いたみたいなのですが、住んでいるのは息子様だけだと聞きましたので、当の本人様に御許可を頂こうと、身勝手ながら押し掛けてしまいまして。」
まっすぐにこちらを見て話す。
ドキドキする。
「え、じゃあこれからここで…?」
「貴方が良いのであれば、ですが。」
答えに困る。
「えっと…とりあえず説明を、理由とか天界とか…あとその羽…」
なんというか、今は彼女の口から出た天使というとてもファンタジーな単語を頭から度外視して、人柄が見たいな。と思ってしまった。
「羽…?あ、鬱陶しいですね。しまいます。」
彼女は一会釈する。
すごい拍子抜けな言い方だけど、
ブワサッ!と、聞こえた。
モッコモコの布団の端をもって一気に降るような。聞いたことがありそうな音。
それと共に、彼女はセクシーな鎧をつけた女の子になった。
「えっと、鎧もやめた方が良いですよね。」
なんと、気を遣わせてしまった。
こういうのが今まで独りな理由なんだろうか。
どこかのアニメみたいに鎧が光ると、彼女はまったく違う服を纏っていた。
緩めのTシャツ、すっごく短いズボン。何て言ったかな。
さっき扉を開けたとき着ていた俺の寝間着を覚えていたんだろうか。
オマージュされた。という感じ、コピーされつつアレンジされて。なんだか恥ずかしい。
というか、まだ目のやり場に困る。
「私、人間の生活を全く知らないのを、えーっと…上司が目をつけまして。しばらく行け。という命を受けて来たんです。」
なんでしばらくよこしたんだろう。
「でも、名前のある天使が抜けたらそのポジションが空いて良くなさそうだけど…。」
そう言うと、彼女は何故か不思議そうにして口を開いた。
「あの、私の名前。ハミエルを調べたりできますか?」
なんだろう。
「あぁ、できるよ。ちょっと待って。」
立ち上がって近くにあるノートパソコンを引っ張って俺と彼女との間にある机に置いて、開く。
電源は付けっぱなしだった。
サーチエンジンにハミエルを入力して、enter。
ハニエル がヒットする詳細を見てみる。
沢山の別称。それに愛などを司るとか。
「これ、一体どうなってるんですか?すごい詳しく…。」
すぐ右の近くに声が聞こえたので向くと、ハミエルの顔がすぐ近くにあった。
女の子は良い匂いがすると言うけど、どうやら本当のようだ。
言わない方が良いんだろうけれど、最高である。
「これは…えーと、書物庫みたいなのに繋いでるんだよ。」
ほー。と、ハミエルは言う。興味津々で、俺は全く視界に入っていない。
「ここに書いてある通り、別名が沢山ありますよね?要するにこの名前は兄弟とか姉妹とか親子とかで、家族が私にもいるんです。それに元々私は殆ど仕事が無かったので、人間界に降りてきた。というわけです。」
気付くとこっちにほぼ距離ゼロで話しかけていた。天使だから男女平等なのか。
こっちはそういう風には思えないのでこれからも苦しめられそうだ。
「で、私の事。大方わかりました?」
ハミエルは正座を俺の前でして言う。
「ま、まぁ。それにここにいても何も怖い事起こらないのはわかったし、取り合えず俺は大丈夫。かな?」
すると、ハミエルは深々と頭を下げる。
宿の女将さんのようだ。
「そうですか…!では、ハミエル。いえ、ハミーエルをよろしくお願いいたします…!」
「本名はミとエの間伸ばすの?」
はい。と、笑顔和返してくれた。
飾らない素の彼女を見れた気がする。
少し頭の整理がついてきた。
「ハミーさん、よろしく。あ、そうだ。」
呼びやすそうな愛称をさらっとつけて、どうでもいいことを思い出す。
「コーギーがいるってのはホント?」
すると、ハミエルが後ろめたく言う。
「ホントでもあり、嘘でもあります…。」
見えていない左側で翼の音。ハミエルが羽をしまった時のような布団のような音。
「私の愛馬のペガサスが姿を変えられるんですが、それで手を打っていただけませんか…?」
横から彼女の愛馬が姿を現した所で、頭の容量が間に合わなくなった俺は気絶した。
To be continued