出会いの羽
七月の真ん中、大学に入って最初の夏休み。
少し経った日の夜。
俺、飯上集磨に一本の電話が来たんだ。
まぁ、そんな真剣に言う必要はない。
海外でイチャつきながら、ではなく仲睦まじく働いている両親から。
仕事先で会った人の姪とその人の愛犬が日本に来るから家に置いてやってくれ。というのが内容。
正直びっくりしたけど、断る気にはなれなかった。
俺の大好きな、【ウェルシュ・コーギー・ペンブローグ】。
胴長短足という愛らしい体につぶらな瞳が特徴的な犬種。
そのコーギーに釣られてしまったわけだ。
それに犬を飼っている人はいい人が多い。
同じコーギー好きであれば仲良くなれるだろう。
まぁ、そういうわけで二~三日で我が飯上家の戸建てに来ると電話を切られ二日後の朝。
正確には、十時半と随分と遅い。
俺の住む、【みそが市】は何故かめちゃくちゃ涼しい。
ここを含めた都道府県が三十度後半の気温であるのに対して、ここは二十度前半。
すごしやすい。
氷の悪魔でもいるんじゃないだろうか。
朝の日課。
手抜きな洗顔、シーツ、掛け布団を直し窓のカーテンを開ける。
こうして朝の陽射しを浴びるのだ。
我ながら健康に良いと思う。
眠気が吹っ飛んで、昨日の嫌なことを忘れて一日を踏み出せる。
はずだった。
俺は、カーテンを開けてすぐに閉めた。
人が立っているように見えたからだ。
まっすぐなにかがこちらを見ていたような。
そんな気がした。
もう一度、確認する。
いつもの朝であると、認識したい。
きっと、コーギーが来るという事実に心が踊って少し五感が過剰になっただけだ。たまにそういうことはある。
もう一度カーテンを開ける。
誰もいない。
全く、どうして朝からサスペンスドラマを見るような緊張感を味わう必要があったんだろうか。
はぁ。と、ため息をついて階段を下る。
誰もいないリビングへgo!
果たして今日は残り物で何を作ろうか…。
そう思ってリビングへの扉に手をかけた時。
大きな音。
ピンポーン。
緊張している時のインターホンは心臓に悪い。
誰だろう。
「宅配だとマズいな…。」
印鑑をこっそり服に隠して、玄関へ。
サインか印鑑を要求された時、マジシャンのように唐突に出すと皆驚く。
密かな楽しみだ。
二段のロックを開けて扉を押す。
女性が立っていた。
歳がわからない。同い年か、それとも上。
髪は長い白髪。先4~5センチが蒼い。
瞳も蒼で、まっすぐに曇りが無くこっちを見ているので緊張してしまう。
これが凛としているという事なのか。
しかし、それより驚くべき事があった。
彼女は鎧を身に付けている。
腹部以外はパールホワイトにゴールド。
時たま彫られた薄紅のライン。
何故か露出も多めで、膝上から腰辺りと胸元は肌が出ている。
腹部はゴムのような素材で言葉が安いかもしれないが、ピッチリと無駄が無いのがわかる。
俺、飯上 集磨本人としては、全体的に目のやり場が無い。
とにかく、色っぽいのだ。
朝からは刺激が強い。
最後に、この頭の混乱にとどめを刺したのが、彼女から生えたとても美しい翼。
この翼は髪の色と同じ、白に先が蒼い。
艶があり、彼女の存在を引き立たせて、まとめている。
彼女が口を開く。
「初めまして。私を、ここに置いてくださいませんか?」
俺の前には、天使が立っていた。
To be continued