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歌姫様は男の娘!?  作者:
第1章
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第2話

閲覧していただきありがとうございます。

 結局、自分が死んでしまったことを受け止められるようになるまで1ヶ月以上かかってしまった。


 今の家族や生活に不満があるわけじゃないんだけど、日本に残してきてしまった晴香や、これから出来るはずだった歌手活動への未練が、どうしても現実を受け入れることを拒否させてしまったのだ。


 でも、一度受け入れることができれば開き直ることが出来るようになった。

 死んでしまったものは仕方がないし、どうしてなのかは分からないけれど、記憶を持って生まれ変われたのだから、何かと役に立つだろう。

 それに、裕福な家庭のようだから、餓えて死ぬ可能性も低い。そう考えれば、自分はとても幸運なのだろう。

 そんなふうに思えるようになったのだ。


 ただ、どうしても受け入れられないこともある。


 それは、自分が男に生まれ変わってしまったということだ。


 初めて自分の股間に申し訳程度に生えたそれを見たとき、私は自分の目を疑った。

 何かの見間違いなんじゃないか。

 そう願いながら触れたそれが、見間違いや幻なんかじゃないと知ったときの衝撃といったら、とても言葉では言い表せない。

 ショックのあまり現実を受け入れることを拒否した私の頭は、体感的には1日くらい機能を停止していたと思う。

 そして、自分の状況を頭でも理解した途端。あまりのおぞましさに火がついたかのように泣き叫んでしまった。


 私が泣くのは家族にとってはもはや日常風景となっていたらしく、初めは誰も慌てなかった。

 ああまたか、といった感じの手慣れた様子で母親が私を抱っこしてくれた。

 姉さんたちもそれぞれ自分の好きなことをやっていて、和やかな空気すら流れていたと思う。

 けれど、声が枯れ、口に血の味がし始めても泣き止む様子を見せない私に異常を感じたのだろう。

 白髪の女性が慌てて部屋を飛び出して行き、何時も明るい表情をしている母親が、珍しく慌てた様子で必死にあやし始めた。

 そんな異様な雰囲気を不快感に感じたのか、暴れん坊な一番小さな少女まで泣き出してしまい。それをあやそうと白髪の少女と銀髪の少女も慌ただしく動く。

 そんな空気が更に不快で私はよりいっそう大きな声で泣き始めるという悪循環が出来上がっていた。


 結局、熱を出して意識を失うまで泣き続けた私は、白髪の女性が連れてきたお医者さんらしき人のお世話になった。

 その時は意識が朦朧としていたので、どんな治療をされたのかよく分からないのだけれど、先生らしき人が何か言いながら私に触れると、身体が急に暖かくなったのだ。そして、その感覚が終わると何故か喉の痛みが消えていた。

 たぶん、なにか特別な治療をしてくれたのだろう。


 なんで触っただけで喉の痛みが治ったのか、普通は疑問に思うところだろう。けれど、この時の私にはそのことを疑問に思うほどの余裕はなく、全てを拒絶するように思考を止めていた。


 これは夢だ。男になってしまったことも、生まれ変わったことも、死んでしまったことも。


 全部、全部、全部。夢であれば良いのに。


 そうすれば、次に目を覚ました時には晴香に会える。

 それで、「怖い夢を見ちゃってさあ。凄くリアルだったんだよ」なんて、笑い話にできるのに。


 でも、これはまぎれもない現実だ。


 どんなに心を閉ざしても、思考を止めても、女子高生だった武田葵は死んで、今は男の赤ん坊になっている。


 そのことを、私の熱が下がったことに安堵したのだろう、泣きそうに見えるのに、とても嬉しそうにも見える複雑な表情をして抱きしめてきた母親の姿を見て悟った。

 

 そして、彼女にこんな顔をさせてしまったことに罪悪感をおぼえ、これ以上この人たちに迷惑をかけないためにも自分が生まれ変わったことを受け入れようと努力した。

 その甲斐もあって、どうにか生まれ変わったことは受け入れることが出来たのだけれど、自分が男になったことだけはどうしても受け入れることが出来なかった。


 どうやら私は、あの男の人に殺されたことが相当なトラウマになってしまっているみたいなのだ。

 そのせいで男の人の存在自体が恐怖の対象になってしまっていて、自分のことすらも恐ろしく感じる。


 頭では、生まれ変わったんだから、もうここにあの男の人が現れることはないし、全ての男の人があんなことをするわけじゃないと分かっている。

 けれど、どれだけ自分にそう言い聞かせてみても、心はいうことを聞いてくれない。


 自分が男だということを受け入れられないばかりでなく、今の私は男の人が視界の端に映っただけで身体が強張り、息すらも出来なくなるという状態だった。

 私がそんなものだから、初めは私の面倒を見るために部屋へ来てくれていた燕尾服の男の人たちが来なくなってしまった。

 たぶん、家族が来ないように命じてくれたんだろう。

 なにもしていないのに怖がられて仕事を減らされてしまった使用人さんたちに、申し訳ない気持ちが芽生えるのと同時に、安堵している自分がいて嫌になる。

 それでも、怖いものは怖いし、どんなに我慢しようと頑張っても、どうしようもない。


 こんなことで、この先やっていけるのだろうか。

 そんな不安が頭を過ぎる。


 家にいる時はまだしも、外出先では男の人がいない所なんてほとんど無いはずだ。

 それじゃあ今みたいに、男の人が見える度にいちいち死にそうになっていたのでは身が持たない。

 けど、家から出ないで生活するのは、なんとなく不健康な感じがして気が引ける。


 こんな私でもいつかは、男性にも普通に出来るようになるのだろうか?


 今のままでは難しいどころか、絶対に無理だと断言できる。

 でも、それではいけないことくらいは分かるから。頑張って、このどうしようも無いトラウマを克服しなければいけない。


 ニートにはなりたくないもん!


 そう自分を鼓舞するものの、手始めにと男の人と話す自分を想像しただけで、身体が震えて思考が鈍る。


 この分だと、克服出来るのは当分先になりそうだ。


 それならせめて、早く言葉を覚えよう。

 そうすれば私が怖いのは男性であって、使用人さんたち自体に落ち度があるわけではないことを説明できる。


 だって、このままだとこのお屋敷にいる全ての男の人が解雇されかねない。

 自分のせいで人がそんなことになるのは我慢できないから、勉強は苦手だけれど、頑張ってみよう。


 男性恐怖症の克服は、言葉を覚えてから頑張れば良い。

 自分が、夏休みの宿題を後に回す子供と同じ心境になっていることを自覚しないまま、私は新たな目標達成へ向けて闘志を燃やした。


ここまで閲覧していただきありがとうございます。


主人公の心境については変質者を見た時の心境を思い出しながら書いているので、気を付けていないと直ぐに鬱になりかけて難しいです。

私の場合局部見せられたり手握られた程度なのに、結構記憶に残っちゃってるので、主人公はもっとショックなんじゃないかと思うとどうしても暗くなっちゃうんですよね。


でも出来れば主人公には第2の人生では明るく楽しく暮らして貰いたいので、そっちの方向に向かえるように頑張ります。

今校正が終わっているのがここまでなので、今日はこの話まで投稿して終わりたいと思います。

次回の投稿がいつになるのかは分かりませんが、数日中には上げたいと考えておりますので、今暫くお待ちください。

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