4 パーティー 1
パーティーに行くのに、洗面台の鏡の前で固まってるあたしを見て、兄ちゃんが「アレ?」と言ってあたしの顔を覗き込む。
「メイクは?」
「しないのでは無く、出来ないんだよ。やったことないもん」
メイクの道具は持ってますけども……不器用なので、お化けみたいになっちゃうんだよねぇ。
興味なさげに「ふ~ん」と言いながら、あたしのメイクポーチを漁りながら目の前に立つ兄ちゃん。
「ほら、目つぶれよ」
「え、なんで?! 兄ちゃんがメイクしてくれるの?」
「少しなら、俺でも出来るし」
なぜ、出来るのだろうか。
今まで兄ちゃんの彼女とかそういえば、見たことがない。
も、もしかして、女の人になりたい男の人っ? なんて事を考えてたら、あたしの心の中を読まれたのか、おでこをぺしっと叩かれる。
「ちげえよ。ばかっ! 美容関係の仕事やりたいから勉強してんの。だから、今日だって付いて行くんだって」
あぁ、なるほど。
兄ちゃん高3だし、考えて無いようで色々とちゃんと考えてるから打ち上げとかなら美容関係の人とかいるかもだから、面白い話とか聞けるかもしれないかって事か。
あたしも中2だし、高校の事とかそろそろ考えないといけないよなぁ……そして、あたしの頭で高校に行ける高校があるのだろうか。なんか考える事がいっぱいあるかもしんない。
真面目なことを考えてると、あたしのメイクが終わったみたいで兄ちゃんから出発の号令がかかる。
「よし、じゃあ、行くか」
「うん!」
*****
「ここだな」
地図を見ながら着いた会場は、オシャレなカフェレストランっていった感じかな? 立食って感じだしそんな人数もいる感じじゃなから、一般人のあたし達でも居心地は悪くなさそう。
そんな所でも、パーティーみたいな所は親戚の結婚式くらいしか行った事がないあたしは、大人が多いこの場所は初めてだし緊張はする。
入り口で昨日貰った招待状を渡して、大きな荷物を預けて中に入れてもらう。
知ってる人はいるわけもなく緊張が増す。
兄ちゃんを見ると、あたし程ではないけど緊張してるみたい。
キョロキョロしてると、端の方で座ってたムスッ顔をしてる男の子と目が合った。
うん。あれは、仁志くんだ。
見つかってしまってたのね……と思ったけど、服装はきちんとしてるものの髪型は昨日のもっさいまま。
前髪で顔をが隠れても頬っぺたに、紅葉の跡があるのがなんとなく見える。
紅葉の後は少し同情はしたけど、顔に紅葉の跡があるって事はデビューはきっと逃れられたんだと思う。
そんな事を考えてたら、仁志くんがスッと立ち上がってあたし達の所に来た。
「赤木仁志です。昨日は迷惑をかけたみたいで、すいませんでした」
「あ、いえいえ。あたしは何もされてませんから! むしろ、ありがとうございますですよぉ」
おちゃらけてみたけど頭を下げた仁志くんは、なかなか頭を上げてくれない。
あんな一瞬な出来事であたしの顔を覚えてたことに驚きつつも、池山の従兄なのに意外と真面目な人なんだなと、感動もする。
でも、そんなしっかり頭下げてもらうほど、謝罪されるような事されてないけど、どうしよう?
助けを求めて兄ちゃんを見ると「ふ~ん」と言いながら、仁志くんをジッと見てる。
「──へっ?」
仁志くんがその視線に気づいて、顔を上げた瞬間にに兄ちゃんが仁志くんの前髪を掴む。
スッピンの秋香さんによく似てるタレ目がはっきりと見える。
ん? 兄ちゃん?! 何してんの! ちょっと待て! 前髪掴んで、ガン飛ばすってやり過ぎじゃないっすか?!
「ちょっと、兄ちゃん! 仁志くんを離して! あたし、そんなに怒ってないから!」
慌てて兄ちゃんの手を離させようとしたら、兄ちゃんもハッとして手を離す。
「わりぃ。あぁ、仁志ってやっぱこいつか……じゃあ、付いてきたら許してやる」
「「へっ?!」」
あたしと仁志くんは同時に声を上げる。
許すもなにも、あたし怒ってませんけど。しかも、兄ちゃんそんな正義感あるタイプではない。
「幸、お前のカバンちょっと貸せ。くしとワックス入ってるから」
「え、あっ、はい」
び、ビックリした。
裏に呼んで殴るのかと思ったし!
妹のあたしもビビったんだから、仁志くんはもっとビックリしたんじゃ。
ほんとに、うちの兄は言葉足らずで……すいません。それに、あたしの為に誰かを殴って成敗してくれるほど優しい兄ちゃんでもなかったことを思い出す。
心の中で仁志くんに謝ってると、あたしを置いて兄ちゃんが仁志くんの腕を引っ張ってトイレの方に行ってしまった。
この場に、あたし1人残して行った?! 兄ちゃんに置いて行かれたあたしは、1人で何をしてればいいのかわかんない。
でもここでいじけててもしょうがない。
今日のこれは昨日のクリスタルのイベントの打ち上げなんだから、そのメンバーに挨拶したほうがいいはず。
挨拶しようと会場を見渡しても、それらしき姿は見当たらないから、まだここにはいないみたい。
また何をすればいいかわからなくなると、女の人に後ろから声を掛けられた。
「あら? 仁志ここにいなかったかしら?」
「あ! 秋香さん、こ、こんばんわ。昨日と今日はお疲れ様です」
振り向くと秋香さんが居て、慌てて挨拶をする。
怖い顔ではないから、今日は石化はしなくて済みそうなんだけど、昨日みたいな事があった時の気の利いた台詞を、知らないからお疲れ様って言ってみたけど……これでいいのかな?
「あら、いいのよぉ。幸ちゃんにもあのバカ息子が、迷惑かけたみたいだから謝らせようと思ったけど、どこ行ったのかしらねぇ? それにしても、幸ちゃん今日はステキよぉ」
と言いながら、ペタペタあたしの事を触りだした。
「さっき、挨拶して頂きました。それで、あたしの兄ちゃんが仁志くんを何処かに連れて行きました」
「お兄さん? あ、さっき一緒に居た、イケメンさん? 和弘くんと一緒じゃなかったから、おかしいと思ったのよぉ。どこぞの悪い虫かと思って、お兄さんを殴るとこだったわ」
……殴るって。流石に本当に殴りはしないと思うけど、何もしてない兄ちゃんを殴ってもらっては困る。
でも、顔が昨日の顔になりかけてた感じがしたのは、気のせいだと思いたい。
それに、もう昨日の池山と付き合ってないって事も言っていいよね。
学校に広まらないとしても、事実は違うにしろ池山と付き合ってるとか思われてるのはヤだし。
「あ、秋香さん。昨日の流れで池山と付き合ってる事に、なっちゃってましたけど……付き合ってないので忘れて下さいっ!」
「やっぱり、そうよねぇ。昨日は慌ただしくて、状況判断怠ったわ。今度、和弘くんに会ったら潰しとくわ」
付き合ってることを訂正すると、恐ろしいセリフが聞こえたけど、ここは……止めとくべき? いや、池山だから止めなくていいや。
「あら……」
あたしから視線を逸らした秋香さんの視線を追うと、他の人もそこを見てるみたいでざわざわしてる。
「あんなこ、うちの事務所いた?」
「え、知らない」
なんて声が、ちらほら周りの大人たちから聞こえる。
その注目されてる中心を見ると、兄ちゃんと、誰だ? えーっと? さっきの流れからして、隣に居るのは仁志くんのはず。
どっちもカッコいいけど、どっちの事でざわざわしてるんだろ?
「あの子やるわね。幸ちゃんあそこ行くわよ」
「え、あ、はい」
秋香さんに、ズルズルと引きずられてそこに向かうと、暴れてる仁志くんをしっかり捕まえてる兄ちゃん。
「悠真さん、俺、やだって! うわっ! ほら、ばばぁ来たじゃん!」
「仁志、こっち来なさい! 私がいくら、ちゃんとしなさいって言ってもちゃんとしなかったのに。どんな心境の変化かしら?」
兄ちゃんの後ろに隠れて暴れてた仁志くんは、秋香さんに首根っこを掴んで前に引きずり出されて、兄ちゃんに捕まってた時よりバタバタ暴れてる。
それを見てた兄ちゃんも何か感じたのか、いつの間にかあたしの後ろに移動してるのは正解だと思います。
暴れてる仁志くんと言えば、タレ目が前髪がきちんとセットされて上げて素顔がちゃんと見えてる。
「兄ちゃんがやったの?」
「あぁ。あいつ、変な髪型にしてる癖にあの元の髪型はちゃんとカットしてるやつだったから、やりやすかったよ。仁志の怖い母ちゃんって、あれ?」
その兄ちゃんの目線の先には、秋香さんと仁志くんの激しいバトルが繰り広げられる。
「うっせえ! ばばぁの言いなりにはならねぇ!」
「ばばぁって誰に向かって言ってるのよ! クソガキ!」
「殴るな、くそばばぁ!」
あたしと話してた時と全く違う顔になってる秋香さんは……人の目線があるからなのか、今にも仁志くんを殴りそうなのを堪えてるように見える。
「あ、そうだわ。悠真くんでいいかしら? ちょっと、ついて来てちょうだい」
仁志くんの腕を掴んだまま、兄ちゃんに話しかける秋香さん。
「え、え? あ、でも、妹を一人には……」
あたしをダシにするのはいいけど、さっき勝手に居なくなった時はそんな事なんか全く考えてなかった癖に、咄嗟によく頭回ったな兄ちゃん。
仁志くんは兄ちゃんと秋香さんのやり取りの隙に、逃げ出そうとしたけど秋香さんは仁志くんからも目を離してないからしっかりと捕まってる。
「あんたもよ! ばか! 幸ちゃんはもうすぐしたら、あの子達が来るから相手してもらってちょうだいねぇ」
兄ちゃんの手首を、仁志くんの首根っこを掴んで、秋香さんは入り口の方にいた男の人の所に行ってしまった。
女の人からいつも上手に逃げてる兄ちゃんを、有無も言わせないで連れてくって秋香さんは凄いな。
いや、初対面であんな怖い顔してる秋香さんを見たら、いくら兄ちゃんでも逃げられないか……。




