15 夏休み開始!
アラームが鳴ってる。
土曜日なのに忘れてていつも通りに6時に携帯のアラームがガンガン鳴ってうるさい。
まだ、寝てたい。
なんか、忘れてる気がするけど9時位まではまだ寝て……ちゃ、ダメだった!!
ガバッと起き上がる。
すっかり忘れてた。
兄ちゃん家に午前中に荷物が届くから、9時位までに行かないといけなかった。
流石に買ってもらっといて、荷物放置はしちゃダメだよね。
土曜日だから、お母さんもまだ寝てるから、もちろん朝ごはんもない。
休みの日位は寝かせとかないと、可哀想だから適当にどっかで朝御飯は食べて行こ。
あ、そういえば、服は……あれを着てかないといけないのか。
地元で食べて誰かに発見されたら、変に思われるから早めに出てあっちで食べようかなぁ。
「完璧に男の子の服だね、これは……」
もちろん試着もさせられたから、ぴったしなわけで着てみると、やっぱり男の子に変身です。
やっぱり、あたしってば兄ちゃんに似てる。
チチがあればせめてもの救いなのに、それすら無いからな。
だけど、今は凹んでる場合じゃなかった。
午後から、レッスンもあるから、ちゃんと朝ご飯食べないといけないから早く出よ。
昨日の夜に準備した、大き目のカバンを持って家を出る。
おー、土曜日の朝だ。歩いてる人も少ない。
これなら、あたしがこんな格好して歩いてても、知り合いには会わないね。
なんて、悠長な事を考えてたのも束の間。
「あれ? 新倉? 悠真さん?」
「げっ!」
この声は池山……?!
なんで、こんな朝早くに外にいんの? 一番、会いたく無かったと思う奴が居る。
「あれ? 悠真さんじゃないじゃん! 新倉そんな格好で何してんの?」
あー、こっち来るな来るな! なんて願いも届かず。
ズカズカとこっちに向かってくる池山。
「な、なにっ?!」
「なにって、なに、その格好。一瞬、悠真さんかと思ったじゃん。それで、どこ行くの?」
「兄ちゃん家。あそこ、女子禁制だから。そんな事より、なんでこんな時間に池山は外いんの?」
「俺は朝飯を買いに、コンビニ行くだけだけど? しかし、その格好……女って言われても信じねーなそれ。ぷぷぷ」
いいよ、もう笑い堪えなくても。
笑いたきゃ笑えばいいじゃんか! 話を逸らそうと思ったけど、我慢が出来なくなったのか、指を指しながら爆笑してる。
「新倉のその格好見たら、クラスの男ども……彼女作るの諦めるだろぉな?」
声すらならない声で池山は、ヒーヒー言って笑ってる。
もうっ! 好きなだけ笑えばいいよ。
「そんな事を言われても、あんまり嬉しくないけどクラスのアホな男子と付き合う位なら、あたしに騒がせてた方がいいかもね?」
ふんっ。
と、開き直ってみる。
「よく言うなぁ。そんな男前な事を言ってて、いいのかよ?」
「開き直るしかないでしょ。この状況は」
「はいはいっ」
あ、この事は口止めしといた方がいいよね?
「池山くん。この事は……」
「あ? うん。クラスの奴らに恨まれたくないから、言わねぇけど。でも、黙ってたら女子に恨まれそうだなぁ」
「言ったら、池山の勉強の邪魔をして、仁志くんの二の前にしてやる……」
「スイマセンデシタ」
うん。
分かれば、いいんですよ。分かれば。
それに、噂になって兄ちゃんのモデルを、出来なくなっても困るし。
「じゃあ、あたし行くから」
「あたし……? ぷぷぷ」
「なにっ?!」
「いえ、新倉さん。お気をつけて!」
ビシッと姿勢を正して、敬礼をする池山の顔がひきつってたのは、見なかった事にしとこ。
あー。ムカつく。
ムカついたら、お腹空いちゃったよ。
早く兄ちゃん家の方の駅に行って牛丼屋でも行こっと。
******
「鮭定食で、牛皿つけて大盛りで! あ、ついでに、味噌汁を豚汁にして下さいっ」
頼み過ぎたかな? 流石に土曜日だって言っても都会の街。
店内見渡すと、それなりに人は居る。
っても、あたしの事を誰も女なんて、思ってる人なんか居ないだろうし、しっかり食べよう。
あ、そういえばこの時間……こないだ走って帰った時間だよね?
って、事はファンの人達はもう居るのかな?
うーん。
あたしでも、裏からマンション入れるのかな?
ん? 鏡張りのお店の外から、こっちを見て手を振ってる人が居る。
「ジュンくんっ?」
思わず立ち上がって声に出したけど、他のお客さんにジュンくんが騒がれたら、ヤバイと思って口に手を当てて、知らない顔をする。
「ユッキー、朝から良く食うね? 何、この量。あ、俺も鮭定食っ」
何食わぬ顔して、あたしの横に座って注文するジュンくん。
動きやすい格好してるから、今日も走ってたんだろうけど。
「ユッキー、ここで食べるなんて良く考えたね。ここなら、あんまり女の子入って来ないから、囲まれなくて済むもんなぁ。ははっ」
「囲まれるのもそうだけど、マンションにどう入るか考えてたんだよ」
「それなら、今日は一緒に裏から入ればいいよ」
「え? いいの? こないだみたいな事しない?」
「しないっつーの。こないだは、ファンの子の反応をちょっと見たくてさ」
「反応?」
「ん? あ、ユッキーは、まだ気にしなくていいや」
なんの事を言ってるのかわかんないけど、スムーズに家の中に入れるならなんでもいいや。
「それにしても、ユッキーその格好は……素晴らしく男前だな。さすが、新倉の身内だな」
「ジュンくんそれは誉めてくれてるんだよね?」
「誉めて無かったら、なんなんだ?」
おバカだけど、一応はアイドルでイケメンに男前って誉められても、あたしが本物の男だって嫌味にしか聞こえないですよ。
まぁ、悪気は無さそうだから、本気で言ってるぽいからほっとこ。
「あ、ユッキー。俺、財布持って来てないや。一緒に払っといてー」
こ、これは悪気あるよね? 中学生に金出させるなんて。
しょうがないから、出すけど……。
「サンキュー。食うつもり、なかったんだけどついつい。後で倍にして返すから、ね?」
「倍……絶対だよ!」
「へいへいっ」
適当な返事をするジュンくん。
兄ちゃんと同じ年なのに、クラスの男子と話してるみたいだよ。
ノブくんと大輔くんのが大人っぽい気がする。
「俺は末っ子だから、しょーがないのっ」
って、ジュンくんは笑ってるけど、関係あるのこ?
「おー。今日もまぁ、いっぱい女の子達が居るなぁ」
「こないだより、居るね……」
「夏休み入ったからなぁ。じゃ、やっぱり、裏から行くか」
裏に回ると、駐車場に降りる階段がある。
ジュンくんの後ろをそのまんま、付いていく。
ここを下って、駐車場内の階段を上ると、エントランスに着くらしい。
「ここの駐車場内の階段のドアもオートロックだから、部屋の鍵がないと入れないから」
「あ、ぼ、僕、兄ちゃんの部屋の鍵なら持ってる」
「じゃあ、次からは大丈夫だな」
今日は絡まれず、無事にマンション内に入れた。
「んじゃあ、俺は部屋に戻るから。そっち、ノブとダイが寝てると思うから、叩き起こせばいいと思うよ」
ケケケッて、不気味な笑い方を……あれでも、アイドルですか?
んー。2人は寝てるのかぁ。
これから、荷物来るのに五月蝿くなんないかな? まだ、少し早いから荷物が来る前までは静かにしといてあげよ。
2人を起こさないように、静かにドアを開けようとすると、中から誰かにドアを開けられてバランスを崩す。
「何してんの?」
「あっ!」
「おい、ちょっと」
中の人に腕を掴まれて、引っ張られたと思ったらフワッと、石鹸の香りに包まれる。
これは、人間の肌? ……肌っ?!
「一瞬、悠真くんが、忘れ物でも取りに来たと思ったけど。幸か。おはよ」
「え、あ、あ、あ?」
バランスを崩したあたしを転ばないように、引っ張って抱き留めてくれたのはノブくんだった。
あたしの体制を戻してくれて、あたしから離れたノブくんの姿と言えば、お風呂上りで上半身裸でありまして。
そのおかげで、尻餅ちをしないですんだけど、あたしの顔を埋めたとこって……えっと、えーっと?!
「家に入んないの?」
「あ、ジュンくんが寝てるって、あのぉ?」
兄ちゃんもそうだったから、上半身裸なんてに慣れてるけどそ、そこに顔を……。
「とっくに、起きてるよ。今、ダイが風呂入ってる。飯は?」
「う、うん。食べて来た」
ノブくんは、何にも無かったように気にしてない。
そ、そうだよね! ただ、助けてくれただけだもんね。
あたしってば何を気にしてるんだか。
「俺、朝飯食うから、コーヒーでも飲んでれば?」
「あ、はい」
ん。
っと、返事をして、シャツを着てお鍋で牛乳を、温め始めるノブくん。
「ほれ、お子様はこっちでいいだろ?」
「ありがとうっ」
おー、アイスカフェオレ。
お子様は余計だけど、確かにカフェオレで良かった。
さっきは混乱してたから、適当な返事したけど、コーヒー飲めないんだよね。
「今日は服の感じ、いつもと違うじゃん」
「あ、こないだ秋香さんに、買ってもらったんだ」
「ふーん。まぁ、幸はそれでいいんでしょ?」
「ん? 何が?」
「あ、あぁ、いや。なんでもない」
ん? 何か言いかけた気がしたけど、気のせいかな?
クリスタルのメンバーと話してると、なぁんか中途半端に話を終わりにする感じがする。
……もしかして、何か隠してる?
「あー、幸ちゃん。おはよー、もう来てたんだねぇ」
「うん。おはよう。大輔くっ……ぶっはっ!」
「ちょっと、幸ちゃんっ。大丈夫?」
カフェオレが変なとこ入った。
だ、だって、またしても大輔くんが、上半身裸でいるんだもん!
あたしの背中を呆れながら、ノブくんがバシバシ叩いてくれる。
「さっきから、幸は何ドジな事してんの? あ、ダイ飯出来てるから、自分でやって。俺タオル取って来るから」
「オッケー」
面目ない。
あーあー。服にもむせたタイミングで、こぼしちゃったから着替えないと。
「ほれ、タオル。飯食ったら、染み抜きしといてやるから着替えて来いよ。あ、荷物も来るんだから、汚してもいい服にしろよ」
あたし、おっちょこちょいキャラになってる……これでも、普段はしっかり者で通ってるんですけど。
もう! 恥ずかしいったらありゃしない。
持ってきた学校のジャージに、着替えてリビングに戻ると、ご飯を食べ終わってた2人は片付けしてる。
「幸の荷物は、何時頃に来るんだ?」
「あれ? そういえば、なんで荷物の事を知ってるの?」
「秋香さんが手伝えってさ。俺らがオフなのわかってて、荷物を今日にしたんだと思うよ」
「じゃあ、2人は休みなのに起きてくれてたの?」
せっかくの休みなんだから、もっと寝てたかったんじゃないのかなぁ。
「ご迷惑なんでは……」
「休みでも、俺とノブはあんまやる事ないからねー」
「そうだな。それに、幸のさっきからのドジ見てたら、どうせ1人で出来ないだろ?」
「本当は出来るはず……なんですけど」
ノブくんはハイハイって呆れてる。
そんな、呆れなくてもいいような気もするけど、本当に普段はそんなにドジっ子ではないんだけどなぁ……。
ピンポーンとチャイムの音が鳴った。
「はーい。今開けます、お願いしますね。幸ちゃんのの荷物来たみたいだよぉ」
インターホンで、オートロックの鍵を大輔くんが、開けてくれたから、あたしは玄関のドアを開けて待つ。
「おはようございます。荷物持って来ました。まだ、あるので奥くの方に入れといて下さい」
男の人が2人がかりで、段ボールを次々に宅配の人が持って来る。
これは……流石に一人だったら出来なかったから、大輔くんとノブくんが居てくれて助かった。
こんなに、何を買ったんだろう? と、思ってたらノブくんも同じ事を思ってたみたい。
「こんなに、何買ったんだよ。これ」
「選んだの、しずくちゃんと秋香さんだから……あたしもよく分からなくて」
「ノブ、なんか組み立てないといけないのが、いくつかあるよ? どーする? 工具無いよ?」
「お嬢様が何にも、考えないで買った結果ってやつだなぁ。ダイ、工具買って来いよ」
「えー。じゃあ、幸ちゃん、近いから一緒にホームセンター行こうよ」
「じゃあ、さっさと行って来いよ。あ、幸も行くなら、着替えて行けよ」
これじゃ、だめ? って、視線を送ると「着替えろっ」て言われた。
えー、大輔くんも動きやすそうな格好だし、あたしが持ってるメンズ服って、ちゃんとしたやつしかないから面倒なんだけど。
「めんどくさがり過ぎだろ。ダイ、俺のスーツケースに、セットアップ入ってるから出してやって」
「わかったー」って言った、大輔くんの後ろに付いてってスーツケースの中をあたしも一緒にこっそり見る。
うわっ、几帳面にきちんと綺麗に入ってる。
あたしのカバンの中、ノブくんが見たらきっと呆れるだろうな。
「幸ちゃん、はい。これ」
ありがたくセットアップを受け取って準備完了。
「ついでに、トイレットペーパーと柔軟剤も買って来て。余計な物買うなよ」
と言ってお金を渡してくれるノブくんが、面倒見の良さがお母さんに見えてしょうがない。
「あ、柔軟剤はこれ買って来て。他のだと悠真くんが嫌がるから」
訂正。
お母さんじゃなくて、ノブくんは兄ちゃんの嫁だ。
*****
「ねぇねぇ、大輔くん。ノブくんは、いつもあんな感じなの?」
安全に裏口から出て、ホームセンターに向かう途中に、ふと聞いてみる。
心の中は兄ちゃんと、ノブくんの関係を少々疑ってたりする。
兄ちゃん、モテるのに高校生の時にだって、彼女の1人も見たことがないから心配になってきた。
「うんうん。昔からあんな感じだよ? なんかね、癖みたいだよ。家事したりお世話したりするの。ノブみたいな彼女いたら楽だよね」
そこは、現実的にあたしもそう思うけど、兄ちゃんの彼女じゃない事を願うばかりです。
「どうしたの? 変な顔して?」
「あ、兄ちゃんとノブくんの関係の心配を……」
「関係?! 何言ってるの? あははっ! さ……ユキ面白い事を言うね」
「だってさぁー、兄ちゃんモテるのにさー、彼女見たことないしさー、ノブくんが彼女みたいなこと言うしさー」
目を丸くして大輔くんが、あたしを見て思い出したように笑い出す。
「いや、あ、ぷぷぷっ。あー。面白いっ! それは、絶対にないって。やばい……ツボに、あははははっ」
そ、そんなに笑うとこ?! しかも声になってないほど笑ってる。
ただ、妹として兄ちゃんの事を心配してただけなのに。
「面白いから、黙っときたかったんだけど……さっき、ノブが言ってた柔軟剤の名前覚えてる?」
柔軟剤……あ、あれ? これって、あたしが。
大輔くんの顔を見る。
「でしょ? 柔軟剤の事もユウくんが言ってた事だけど、ユキが他のあんまり好きじゃないんじゃないの?」
前に柔軟剤の匂いでお母さんに「これ以外のにしないで!」って言ったのそれだ。
……かなり前の事であたしは、忘れてたけど兄ちゃん覚えてたんだ。
「それに、そのセットアップだって、ユキにサイズピッタリじゃない? ユキがちゃんとした服持ってないからって、ユウくんに頼まれてお下がりを、持って来るように俺ら言われてたんだよ? だから、俺のも後で渡すね」
おー。この洋服は兄ちゃんの根回しだったのか!
「こないだ俺が寝ぼけてた時だって、ユキを部屋追い出した後もまたゲンコツ喰らったんだかし。少し、シスコンな気もするけど、アッチの世界の人じゃないと思うよ?」
「シスコンはわかんないけど、あっちの人じゃなくて安心したぁ。イケメンが男同士で付き合ったら、世の女子がかわいそうだもんね!」
良かったぁ。ノブくんと兄ちゃんがそういう関係じゃなくて。
じゃあ、兄ちゃんに似合う人を、探してあげなきゃねぇ。
「幸ちゃん、本人にシスコンってばれないように、根回し上手くやってるユウくんが居ると、自分も恋が出来ないって事にも気付いた方が……」
ん? 幸って呼んだ?
「大輔くん、なんか言った?」
「いや、何にも言ってないよ! 早く買って帰ろうか?」
組立てとかしないといけないからねぇ。
早く必要な物を買って帰らないと!




