12 囲まれた!!
「──いでっ!!」
なんだ?! 寝てるところに何かが飛んできて、顔になにか当たった。
「あれ? 携帯……?」
「なんで、6時にアラーム鳴らしてるんだよ」
リビングに携帯置きっぱなしだったのが、兄ちゃんの睡眠の邪魔をしたらしい。
でも、兄ちゃんは着替えて何処かに、出かける準備はしてある模様。
「学校行く時のまんまだった。んで、今何時?」
「6時半。俺もう、家出るよ。バイト行く前に学校でやらなきゃいけないことあるから」
「あ! 兄ちゃん! 朝ごはん買いに行くから、お金ちょーだい!」
「ノブが居るから、飯は大丈夫だろ」
昨日の夜の事は、夢じゃなかったのね。
まぁいいや、ノブくんが朝ごはん作ってくれるなら安心!
「あ、あいつらまだ寝てるから、静かにしといてやって。じゃっ」
「わかったぁ」
レッスンは10時からだからまだ、起きるには早い気がする。
でも、目冷めちゃったしなぁ。
レッスンもなんだか体力勝負っぽいから、体力作りに兄ちゃん家に来る途中に見えた公園まで走って帰って来ようかな。
兄ちゃんの服なんか借りるかね。
帽子に適当なジャージ借りてっと、少し服でかいけどいいっか。
準備運動OK!! よし、探索がてら走りますか。
夏休みは兄ちゃん家に住むことになるし。
あれ? あ、夏休み中……ご飯どうすんだろ? ノブくんが毎日作ってくれるなんてことはないだろうから、コンビニ探しといた方がいいかなぁ。
それとも、料理の勉強をする? いや、無理だからコンビニとか色んなの探しとこ。
「あれ? 思ったより公園近かった」
15分位で付いたかな? まぁ、どこにでもある普通の公園だよね。
犬の散歩してる人がいて、昼間とかは小さい子とかが遊んでるのかなぁ。
まだ走れるけど迷子になったら、困るから水道で顔洗って戻ろっと。
「はい、ユキ、タオルっ」
「あ、どうも」
素直に男の人の声に渡されたタオルで、のんきに顔を拭きながらふと思った。
あれ? あたしはここに一人で走りに来よね? それにユキって呼ばれた気がする。
あたしにタオルを渡してくれたのは……誰だ?
「ユキ、おはよう」
恐る恐る声の主を見て見る。
「あれ? ジュンくん? あ、おはよう」
ペコリと頭をさげる。
目の前には眼鏡をかけて帽子姿のジュンくんがいる。
あたしの事をユキって呼ぶ人は限られてるけど、知らない人だったらどうしようかと思った。
って、知らない人かもしれないにのに……素直にタオル受け取った、あたしもどうかと思いますけど。
「俺も走ろうかと思って出たら、マンション出てく新倉が見えたから追いかけてたら、新倉より小さいユキだったって感じ?」
新倉の服着てたから、最初わかんなかったよ。
なんて笑いながら言ってる。
「今日はもう走るのやめんの?」
「探検がてらに走ってたし、レッスンあるから場所が把握出来てないから迷子になったら困るから……もう、戻りますよ」
「レッスン何時から? 俺らも10時から、レッスンなんだよねぇ」
「あ、同じ時間だっ!」
……はたして、あたしは迷わないでバスで、行けるのだろうか?
ちらっと、ジュンくんの顔を見る。
「あぁ、一緒に行く?」
「いいのっ?!」
ラッキー! 迷子にならないで済みそう。
今日は3人でタクシーで行くから、あたしも乗ってけばいいって。助かったぁ。
「じゃあ、もうちょっと遅くなっても大丈夫だから、少し遠回りして帰るから付き合ってよ」
「らじゃ!」
付き合ってって言ってくれたものの、ジュンくんはあたしのペースに合わせて走って、色んな店を教えてくれてる。
「あー、あそこのお店おいしそう!」
っても、朝じゃあお店も開いてないわけで……。
「俺、あそこ入った事ないんだよなぁ、女の子のがいつもいっぱいで。行きたいなら公の場出る前に、女誘って行っといたらいいと思うよ」
あれ? チャラくない? 女の子いっぱいのとこには自ら進んで入って行きそうなのに。
やっぱ、実はチャラくないのかな? いやぁ、まさかね! あはははっ!
そんな事を思いながら走ってると、マンションに着いた。
「あれ? なに、あの人だかり」
マンションの入り口付近に女の子がいっぱい居る。
ジュンくんを見ると「はぁ……」って顔してる。
「あれは、俺らか他の奴らのファンの方々だと思われます」
話を聞くと、このマンションは、事務所が買い上げたマンションと言う名の女子禁制の寮で休みの日は、ファン達が集まる事がよくあるらしい。
女子禁制の寮ならあたしもちゃんと、男の子の振りしとかないと、大変な事になるって事ね。
「どうやって、あれを通過するの?」
「俺はファンに見つかると、家に入るのに少し時間かかるから、ユキは顔が割れてないから、平然と入って行けば大丈夫だから先に行って」
ま、まぁ、兄ちゃんの服着てるから、女ってバレる事もないだろうし。
ジュンくんにも、あたしが女だってバレてないみたいだから、ファンの人達に絞められる事はないか。
「わ、わかった! じゃあ、行くよ!」
よし、行く……!
一歩踏み出した時、一斉にそこに居た女の子の目線がこっちに向けられた。
えぇっ! な、なに?!
視線が怖くて踏み出した格好のまんま固まる。
「「きゃーーーーーーーーーっ」」
きゃーっ?! え、これはあたしに向かって?
あ、後ろにジュンくんが居たからジュンくんにだよね? って、後ろにジュンくんいないし!
気付くと女の子達に、いつの間にか囲まれてるあたし……なんなんでしょう、この状況。
「あれ? 悠真さんじゃない?」
ん? 兄ちゃんと勘違いされてたけど、兄ちゃんじゃないって気付いた?
おー。
兄ちゃんじゃないって、気付くってこの人達すげーー!
いやいや、じゃなくて。
兄ちゃんだとしても、こんなに囲まれるのおかしくない?
「なぁんだ、今日もダイ様とノブ様が、泊まったのか聞きたかったのにぃぃぃ」
あ、そっちね。
じゃあ、囲まれるのもなんとなく理解できる。
それでは、あたしは関係ないので、マンションに入りましょう!
「で、あなた、悠真さんの服着て誰? 新人さん?」
兄ちゃんの服ってわかるこの方達、すごくね?! しかも誰って? 関係なくないですか?! 妹ですけどって、言えばこれは確実に殺られる……!
何も言わず、ここはダッシュで部屋に帰る? マンションまでの距離は……って、おい!
距離を確認しようと思って、マンションの入り口を見ると笑いながら手を振ってるジュンくんが見える。
げっ! 裏切られた。
ジュンくん、こうなるの確実に、分かってたってやつだよね?
「ぼ、僕は、悠真兄ちゃんの従兄弟のユキです! ダイくんとノブくんは兄ちゃん家に居ますよ!」
こうなれば、もうやけだ!
一気に言う事だけ言って、その場所から猛ダッシュ! 振り切れ、あたし!
あれ? オートロックの自動ドアを開けてジュンくんが、待ってくれてる。
逃げたなら黙って逃げればいいものの。
「きゃーーーーっ! ジュン様よーーっ!」
ジュン様って……ジュンくんはそんなキャラじゃないでしょ。
プっと思わず吹き出しそうになったのを我慢する。
って、そこにいた女の子達はジュンくんを見て、あたし囲んでた時より騒ぎ出してる。
えぇええぇぇ、これって、部屋まで追いかけて来たりするパターン?!
「ジュンくん、早く部屋に戻ろう!」
「ん? なんで?」
ジュンくんはニコやかに手を振ってる。
ここでチャラさ出して手振ってる場合じゃなくね?
恐る恐る、後ろを見ると女の子達も、マンションの入り口のとこでニコニコしながら手を振ってる。
「敷地内までは、入ってこないから大丈夫だよ」
こ、これは……ジュンくん、蹴り飛ばしても誰も文句言わないよね?
キッと、ジュンくんを睨む。
「うへっ! じゃ、じゃあ、後でねぇ。ユッキー! アハハッ」
「あ、ジュンくん!!」
蹴り飛ばそうと思ったら、上手く逃げられし。
あ、ここでイライラしてる場合じゃない。
部屋戻ってシャワー浴びなきゃ。
「つ、疲れた……」
これから、レッスンなのに走った事より、女の子に囲まれた方が疲れてしまいましたよ。
「あ、幸ちゃん、おかえりぃ。どこ行ってたの?」
靴を脱いでると、大輔くんが起きてたみたいで、声をかけてくれる。
「ただいまぁ。ジュンくんと走って……」
靴を脱ぎ終わって顔をあげるて「走ってた来たんだよぉ」って言おうとしたけど思考がとまる。
これは、目が点ってやつです。
「幸ちゃん? どうしたの?」
「え? あ? な、なんでもないよ」
大輔くんはシャワーを浴びてたみたいで、不思議そうな顔であたしを見てる。
うん。なんでもないですよ。
大輔くんが水も滴るイイ男感出しまくりで、男の人の上半身裸なんて、他の人で見慣れてますから、なんでもないです!
「あ、ノブが朝ごはん作ってるから、先にシャワー浴びてきなよ!」
「わかったぁ」
あ、レッスンのジャージ畳んである。
「──っ!!!!」
し、下着も……。
もしかして大輔くんが?! これは、夢だと言ってっーー!!
******
洗濯済みのあたしの洗濯物が、お風呂場に畳まれてたさきほどの件なんですが、大輔くんがやってくれてたと思ったら、先に誰かが入った形跡があったから多分……兄ちゃんだろうと、お風呂を上がったあたしに必死に説明してくれた。
そ、そうだよ。
朝、兄ちゃんから石鹸の香りしてたし。
「あ、でも、それを干したのは俺だよ?」
「へっ?!」
「俺の洗濯したいのがあったから、干しといたって言ったろ?」
もう、朝ごはんの味がわかりません。
洗濯物見られてたなら、そりゃあ女だってバレるの当たり前じゃんね……。
「あれ? ジュンくんと居たんだよね? それで、正面から入ったの?」
「うん、いつもアレだと大輔くん達も大変だねぇ」
さっきのジュンくんとの事を話してるとこれまた、不思議そうな顔をする大輔くん。
あれ? 普段はそんなに、囲まれたりしないのかな?
「あ、そういえば、幸ちゃんは中学卒業したら、翠玉高校に来るんでしょ? そしたら俺らの後輩だねぇ」
「うん。兄ちゃんが高校行きたかったら、モデルしろって言ってたから多分そうだと思うけど。モデルだけで翠玉に行けるの?」
「リュウさんが指導してるんだろ? だったら、デビューかなんか決まってんじゃないの?」
リュウさんでデビュー? ノブくんの言ってる事がサッパリわからない。
「あたしは、兄ちゃんの学校のモデルを頼まれただけだよ? 兄ちゃんがいい成績出したら、色々やってもらうとかは言ってたけど……まだ、他の話は何も聞いてないけど?」
「だったら、デビューとかも宏樹さんが、考えてやってるのかと思ったんだけどなぁ。じゃなきゃ、受験生の貴重な夏休みまで、なんかするって言わないだろ?」
んー。
翠玉ってか、高校に行けるなら出来る事なら、なんでもするつもりでは居るけど。
モデルでの実績も何もないあたしが、いきなりデビューとかするもんなの?
兄ちゃんの学校のショーに出るからって、1年も学校に通ってない人が入賞みたいのしないと思うし。
「あ、もう9時になるから、ご飯片づけてレッスン行く準備しよっか! ねっ?」
「うんっ」
食べてたご飯を片づけて、ジュンくん達とレッスンに行く時間になったから、マンションのエントランスの方に行こうとしたら、大輔くんに止められた。
「幸ちゃん、そっちから出たら、さっきの二の前になるよ?」
「え? だって、ここしか出入口ないでしょ?」
「ジュンくん、教えてなかったのか。こっち来て」
大輔くんが言う通りに付いてくと、非常階段に着いた。
「タクシーここの地下の駐車場に来るはずだから。マンションの入り口から入れないときは、こっちから入るんだけど、ジュンもケチだな。ジュンと一緒に居ればさっきも、こっちの入り口から入れたはずなんだけど」
丁寧にノブくんが説明してくれる。
何それ……ジュンくん、だからいつの間にか居なくなって、いつの間にか自動ドアのとこに居たんだ。
ジュンくん、本当にケチだ!
「みんな、揃ってるなぁ。ってか、なんでノブは俺の部屋掃除してくれてないんだよー。けちー!」
「あの散らかり方だと、俺が徹夜する事になりそうだったからだよ!」
あははっ! と、笑いながら登場したジュンくんを、冷たくあしらうノブくん。
何この爽やかな感じのじゅんくんの登場の仕方。
キッとじゅんくんを睨んでみる。
あたしの視線に気付いたじゅんくんは、ギョッとしつつもあたしの近くに来てボソッと告げる。
「タオル渡してあげたでしょ~、道案内してあげたでしょ~、これからタクシー乗るんでしょ~?」
先手取られた! タクシー乗らせてもらうから何も言えなくなっちゃったじゃん。
さっきの、ほんの何人かに囲まれるのは、ジュンくん達には何かあったうちに入らないから、ジュンくんはあたしをからかったのか……!
一般人のあたしをからかうなんて、ひどい! ただの意地悪だ。
「2人ともなにやってんの。行くよ?」
「あいよ~」
何事もなかったように、ジュンくんは呼ばれてタクシーの中に入る。
なんか、ジュンくんに負けた気分でムカつく。
タクシー乗るから今は何にも言わないけどさ! いつか、ギャフンと言わせてやる!
事務所に着くと、ご機嫌にジュンくんがあたしに声を掛ける。
「ユッキー、レッスン頑張れよぉ」
ユッキーですか。
笑いながらジュンくんは、あたしの背中をバンバン叩く。
ジュンくんは、ただのチャラ男だと思ってたけど、池山よりヤバ目のクソガキじゃんか!
もうっ! バンバン痛いってば! 大輔くんとノブくんには見られないように、バシッとジュンくんを叩く。
イテッ! て、騒いでたけど無視無視。
3人とレッスンスタジオに向かおうと思ったけど、あたしは男子更衣室で着替えられないから、エレベーターでみんなと違う階数を押す。
「あれ? ユっキー社長室に行くの?」
「あ! ちょっと呼ばれてて……」
大輔くんとノブくんは気付いてくれたけど、ジュンくんには内緒だからね。
「あ、じゃあ、ユキも頑張ってね! 来週から夏休みだよね。予定合う時またノブのご飯食べようねぇ」
先にエレベーターを降りる3人に、手を振ってバイバイする。
大輔くんが、ユキって呼び捨てした!
まぁ、年下の男の子に名字じゃなくて、名前をクンを付けて呼ぶのもなんか違和感あるか。




