【短編】【完結】オタク王子が婚約破棄した侯爵令嬢、実は同人界のレジェンドで即後悔しました
学園の卒業パーティー。煌びやかな楽曲が余韻を残すように終了した。一瞬の静寂を挟み、次の曲を奏でようと指揮者が指揮棒を振り上げた瞬間、
第二王子ルカの声が、広間に響いた。
「ソフィア・ルナリー侯爵令嬢! 君との婚約を破棄すりゅ……、破棄する!」
噛んだ。その場にいた人々は、心の中で思った。しかし、内容が深刻なので、誰も笑ったりしない。
名前を呼ばれたソフィアは、スッと背筋を伸ばしてルカ王子を見つめていた。その表示は、突然婚約破棄を告げられたとは思えない程落ち着き払っていた。
「ぼ……、僕は……」
ルカ王子はポケットに手を入れ一枚のカードを取り出した。カードの絵の面をソフィアに向ける。カードにはツインテールのハツラツとした表情の少女が描かれていた……。
「僕はエイミーたんと居たいんだ。ね、エイミーたん!」
絵を自分の方に向けて、ニッコリするルカ王子。
「あぁ……」
周囲の誰かの声が漏れた。周囲はドン引きだ。
王子、終わった、と同級生達は思った。重度の二次元オタクとして知れ渡っているルカ王子の貴族間での評判は芳しくなく、唯一の後ろ盾と言われているのが、ソフィアの父である宰相のルナリー侯爵だった。ルカ王子とソフィアの婚約は、まだルカ王子がオタク度を顕著に出す前に結ばれたのだった。
「ルカ殿下……」
ソフィアは微笑みを浮かべながら、落ち着いた静かな口調で諭すように言った。
「絵とは、結婚できないのですよ」
「だ、黙れ、だまれだまれ! つ、追放するぞ!」
まさか、侯爵令嬢を追放? 周囲がざわめく中、ソフィアは落ち着き払っていた。口元を扇で、隠す。
「……ルカ殿下。本当によろしいんですの?」
「そんなの良いに……、えっ……」
パッとソフィアが口元を隠していた扇を広げた。そこには、ピンク色のツインテール美少女のダンスシーンが描かれていた。
「え、エイミーたん、の直筆扇……?」
「わたくしを追放すると、二度と『エイミーたんの純愛物語』新作は読めませんよ?」
「!!????」
ルカ王子の脳内に大音量の警報が鳴り響いた。手にしたカードを見て、ソフィアの扇に目を移す、を何回か繰り返した後、ソフィアをじっと見た。
「ちょ、待って! まさか……君がサークル『月下の薔薇』の……!?」
「ええ、ペンネーム“ソフィ”です♡ コミケで3時間待ちの行列、全部私の本ですよ」
ニコッと、本日最高の笑顔を浮かべるソフィア。
会場凍結。
「ソ、ソフィせんせー……」
ルカ王子は膝から崩れ落ちる。そして、パッと顔を上げたと思ったら、土下座した。
「ごめんなさい! 婚約破棄取り消します!結婚してください!! なんでもします!! アシスタントでも原稿運びでも!!」
ざわっ。周囲は困惑だ。
その中で、ソフィアだけが余裕の微笑みを浮かべていた。
「ふふ、宜しいですわ。私も実はルカ王子が一番のファンでいらっしゃるの知ってましたし」
許すんだ……。会場にいる人達はポカンとしていたが、ソフィアは、ルカ殿下から作家ソフィ宛に熱烈なファンレターが送られてくるので、ルカ王子がエイミーたんのファンである事を知っていた。中身はソフィ先生宛というより、エイミーたんへの愛が綴られたものだったが。
婚約した当初から、ルカ王子はソフィアには興味なさそうに、冷たくそっけなかった。
前世同人作家だったソフィアは、いずれ婚約解消とかもあるかも、と考え、将来の収入の事も考えて、学園内のサークルで作家活動を始めた。ルカ王子との交流が婚約者として最小限だったので、作家活動する時間を作れたのだ。
そのうちに、ソフィアの作品が大人気となり、サークル内で他の作家が生まれ、サークル外にも広がり、王都でコミケを開催する程にもなった。「もう、ルカ王子との事はよいか」と、ソフィアは思っていたのだが、ルカ王子から熱烈なファンレターが届くようになり、自分の作品を一番評価してくれる人だと思うと、憎めなくなってしまったのだった。
その場で婚約復活し、結婚が決定した。
他の貴族が見ている前で婚約破棄を宣言したルカ王子だが、叔父の学園長、ソフィアの父である宰相、父王からのキツいお説教を食らったものの、学園内でのやらかしという事で一か月の謹慎で許された。
1年後。王子妃となったソフィアは、
昼:優雅な王子妃
夜:伝説の薄い本作家
の二足の草鞋で活動中。
ルカ王子は第二王子兼作家ソフィのアシスタントに。
「デュフフ……。今日もエイミーたんの新作原稿が……!」
「ルカ様、こっち背景お願いしますわ」
「嫁が神!! 神が嫁!! 俺得すぎる!! デュフフ……」
二人は毎晩「新作ネタ会議」をして、
同人界に永遠の伝説を刻み続けるのであった。
ソフィアも、前世からオタクなので、オタクに甘い




