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第43話 愛する人のために(4)

 泣き疲れて体力を消耗したわりに、ほとんど一睡もできずに夜が明けた。


(議会は午前中に開かれるのかしら……それとも午後……?)


 しばらくして朝食が運ばれてきたが食欲はまるで湧かず、喉を通らない。


 手持ちぶさたな時間が流れて、寝不足の影響が体に出始めたころ、迎えの兵士が姿を見せた。いよいよ議会が開かれている場所に連れていかれるようだ。


 議会場は城の敷地内にあり、中庭の連絡通路を抜けた先に建っているという。

 兵士のあとを無言でついていくと、やがて古い宮殿とも例えられそうな趣のある建物が見えてきた。


 アーチをくぐり無人のロビーを過ぎると、会場の入り口と思しき扉が目に入る。そこで待っていた担当者が向こう側に合図を入れて、わたしの入場を促した。


 おずおずと中に進むと、待ち受けていたのは想像よりもはるかに厳めしい雰囲気と、無数の針のように肌を刺す視線。

 高い天井の下、すり鉢状に設けられた議席に十数名の貴族議員が着席しており、また後方の手すり際には傍聴に訪れた聴衆がびっしりと詰めかけているのがわかる。


 迫力を受け止めきれずに立ち竦んでいると、「アレクシア!」と切羽詰まった声が聞こえてハッとした。

 慌てて目を向ければ、前から何列目かにある席で立ち上がったルシウス様が、身を乗り出してこちらを見つめている。


「ルシウス様……!」


 顔を見れた嬉しさに目の前が明るくなった。しかし彼の悲愴な表情を見たとたん、悲観的な気持ちに襲われる。


 今のわたしは、どれほどみすぼらしく見えることか。父に叩かれた頬も腫れているし、せっかくのドレスも皺だらけだ。こんな情けない姿を晒すことになるなんて、恥ずかしくていっそ消えてしまいたい。


「夫人は、こちらにお立ちください」


 係の者に声をかけられ、仕方なしに中央に設置された証言台についた。


 正面を向くとちょうど特等席にいる三人が目に入る。真ん中の議長席には国王が座り、右隣には王太子、左側には参考人のための席が設けられ、公国の使者が腰かけている。


 この中でもっとも気になるのは王太子の動向だが、いったいどのタイミングで仕掛けてくるつもりなのだろう。


「それでは、中断していた審議を再開する」


 議長である王が、舵を取った。その話しぶりだと、どうやらわたしのいないところですでに議論が交わされていたようだ。


「ルシウス・レオパルドの妻、アレクシア。公国からそなたへ苦情が寄せられている件について、正しい事情をくみ取るため、いくつか確認をしたい。偽りなく答えるがよい」


「は、はい……」


「公国の姫はそなたに虐げられたと言っているそうだが、本当か」


「……昨日も申し上げたとおり、わたしは潔白です。あの方は自分の思いどおりにいかなかったことに憤慨し、嘘をついているのです」


「あくまで否定をするのだな。姫の持ち物を奪ったという話は、どう説明する?」


「それも姫が率先してくださったもので……そういえば一緒に手紙もいただいたんです。わたしにお礼をしたいと書かれていましたし、サインもありました」


「手紙か……。だがこの場で披露できないのであれば、なんとも言えぬ」


 必死に捻り出した真実の欠片も、あっさりと流されてしまう。

 参考人席にいる使者にも動きはなく、代わりに議決権を持つ貴族たちが、こぞって声を上げた。


「ありもしない手紙をでっちあげて、時間稼ぎをしようとしているのでは?」

「正妻の立場をひけらかし、度を超して相手を牽制しようとしたんだろう」


 するとすぐさまルシウス様が反応し、野次まがいの発言を止めに入る。


「妻に非はないと、先ほどから何度言えばわかるのか!」

「ルシウス。許可するまでは発言を控えよ。堂々巡りで話が進まぬ」

「陛下、ですが……!」


 確たる証拠など出せないのだから、堂々巡りになるのは当然だ。


 使者を引かせるには、王から説得してもらうしかない。けれども肝心の王にそのつもりはなく、この場の多数決ですべてを決めるつもりでいる。そうすれば、誰からも批判されることはないからだ。


(なんだかもう、どうでもよくなってきたわ……)


 疲れも手伝ってか、諦めの境地になってくる。周りでは引き続き無責任な言葉が飛び交っているが、もはやなにひとつ頭に入ってこなくなった。


 わたしの人生は、きっとここまでなのだ。

 なんせ棚からぼた餅ともいえる二度目の人生。おまけを楽しめたと思えば、一概に不幸ともいえない。


 となると気になるのは幕引きの仕方だ。願わくば、怖い思いはしたくないのだが……。


「意見も出尽くしたようだ。では、ここで決を――」


 流れが動きかけたそのとき、これまで沈黙を貫いていた王太子が声を上げた。


「お待ちください。私は気になる話を耳にしました。イレーヌ姫とルシウスが恋仲だったという噂です」


「アーサーよ、その話になんの関係があるというのだ?」


「ルシウスは既婚者でしょう。本来、夫が大切にするべきは妻であるはず。もしも事の発端に夫の不誠実があったとしたら、話が違ってくると思いませんか」


 もったいぶった論調に焦らされて、忘れかけていた緊張感が高まってくる。

 妙に静まり返った空間に、王太子の悪意が鋭く放たれた。


「ルシウス。貴様はふたりの女を股にかけ、イレーヌ姫を弄んだのではないか? そうして楽しんだあとは姫を捨て、本妻とよりを戻した。そのことにショックを受けた姫は心を病んでしまった――ずばりそういうことであろう!」


「な、なんと破廉恥な……それが本当なら紳士の風上にも置けませんな!」

「北の英雄と公女様が深い仲であるという話、わたくしも聞いたことがありますわ」

「姫は実のところルシウス卿に捨てられたのだけれど、恋心の向く相手を憎めずに、奥様に恨みが向かったというわけ? それなら奥様に罪を背負わせるのは気の毒ね」


 衝撃的な発言に、議会場の空気が揺れている。その中には王太子が事前に手を回したサクラが紛れているのだろう。手の平返しが早すぎる。


 ルシウス様は唐突に向けられた矛先にも動揺することなく、話題を蹴った。


「姫を護衛し、公国へお送りするように命じたのは、王太子殿下ご本人です」


「たしかに命じたが、えらく長い間そばに引き止めていたようではないか。橋が壊れたなどと報告が来ていたが、そんなことを信じると思うか? 新婚早々、別の女を連れ込むなど、奥方もさぞ傷ついたことだろう」


 すると議席のひとつを埋めていた父が立ち上がり、大声を上げた。


「そのとおり! 我が娘は不躾ではございますが、理由もなく他国の姫を愚弄するなどありえません。ただ妻の座を守ろうと、強く出ただけなのです。そうだな? アレクシア」


 口裏を合わせたとおりに頷けと、王太子と父が期待に満ちた視線を送ってくる。


 ――だが、そうはいくものか。


「いいえ、ルシウス様とは関係ありません」


お読みくださり大変ありがとうございました!

辛抱の回が続きますが……アレクシアの正念場です。


もし気に入って下さったら、ブックマークなどをしてくださると、励みになります。

続きのほうも何卒よろしくお願いいたします(*ᴗˬᴗ))ペコリ

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