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第42話 愛する人のために(3)【ルシウスside】

(アレクシア……俺がついていながら、すまない)


 妻を目の前で連れていかれて、無力なまま退くことになるとは思わなかった。


 煌びやかなはずの城の廊下は、彼女とともに歩いたときとは別世界のように沈んで見える。箱入りのまま渡されることになった勲章も、なんの価値も感じられない。


 宴の中止が発表され強制的に散会させられたあと、王をはじめとする上層部は宮殿の奥へと引っ込んだ。そして明日の結果を見届けるためにとどまった公国の使者については、王太子があからさまに匿っていて接触する隙がない。


 やむなく王宮秘書官に詰め寄り、王への拝謁とアレクシアの放免を願い出たが、聞き入れられなかった。

 これ以上騒ぐと議会への参加資格を取り上げると警告されては引き下がるほかない。ならばせめてアレクシアの近くにいられればと城中泊を願い出て、許可されはしたものの到底気は休まらなかった。


「こちらのお部屋をお使いください」


 廷臣によって案内された客室は、これまでにも長丁場の会議の折に泊まったことがある部屋だ。

 使い慣れたものであるのにどうにも鼻につくのは、ふだんは見ない廊下の警備配置のせいだろう。監視されているのは明らかで、どうやら目を離しておいてはなにをするかわからないと警戒されているらしい。


「案内ご苦労。……まだなにか?」

「し、失礼いたしました!」


 すぐに出ていこうとしない若い男にジロリとした視線を向けると、その者は逃げるように去っていった。


 扉を閉めてひとりになると、庭側のバルコニーの窓が開き、四つ足の大きな獣が二匹滑り込んでくる。本来の魔獣の姿をしたヒルダとロキだ。


「遅くなってすみません。ロキが王都を一周しようとか言い出すから……」

「だって、夜まで待つのも退屈だし……あれ? アレクシアは?」


 じくじたる思いになりながらこれまでの出来事を話して聞かせると、彼らはそれぞれにアレクシアを心配し、落ち着かない様子を見せた。


「そんなことがあったなんて……許せないわね」

「力尽くで奪い返せばいいじゃんか。オレが行ってくるよ」

「やめなさいよ。後先を考えずに行動しては、彼女にとって危険を招くわ」


 まるで内心の葛藤を代弁するような掛け合いを前にして、ようやく頭が冷えてくる。


 正直なところ、ロキが言うように強引にいきたい気持ちがあるのだが、それではアレクシアの名誉を挽回できない。人の輪を重んじる彼女は、社会からあぶれて生きることを望まないだろう。


「今は待とう……。だが場合によっては、強硬手段も辞さないつもりだ」


 低い声でそう呟くと、ヒルダは決意の表情を見せ、ロキは武者震いをひとつした。


 目を閉じて、彼女の笑顔を思い浮かべる。


(アレクシアはどうしているだろうか。すべてが不確かな状況で、彼女に手荒な真似をする者はいないと思いたいが……)


 待つと決めたひと晩が、とてつもなく長く、もどかしく思える。必ず助けるから、心を強くして待っていてほしい。


「そういえばルシウス様」


 声をかけられ目を開くと、黒い毛むくじゃらの顔が下から覗き込んでいる。頭をポンと軽く叩いてやると、爛々と輝く金色の瞳が、うっすらと細められた。


「あのさ、この城、なにか臭うんだ……。近くにいるよ、たぶん」

「なに……?」


 思いがけない示唆を得て、頭が急速に働きはじめる。


 ロキの鼻は利く。どこよりも安全なはずの城内に、とある不穏分子の存在を嗅ぎ取ったというのなら、それは間違いなく――。


(アレクシア。これは君が引き寄せた機運なのかもしれないな)


 さっそく廊下に顔を出すと、目と鼻の先に立っていた兵士に声をかけた。


「落ち着かないので気分転換がしたい。リアム第二王子殿下に取り次いでくれないか」


 ――明日の戦のため、種をまくとしよう。


     *


お読みくださり大変ありがとうございました!

もし気に入って下さったら、ブックマークなどをしてくださると、励みになります。


続きのほうも何卒よろしくお願いいたします(*ᴗˬᴗ))ペコリ

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