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第34話 初めての夜【R15】

 言葉の意味がわからないほど、子どもではない。

 高鳴る鼓動を感じながら、「はい」と小声で呟いたとたん、攫うように抱き上げられた。


 寝室に直行した彼は、抱えていたわたしをベッドに横たえるとすぐに大きな体をのしかからせてくる。被さる体の重みを心地よく感じるや否や、瞼や鼻先、頬へと啄むようなキスが落ちてきた。


 大きな手の平がうなじを撫で上げ、そわそわとした感覚が駆け上がる。互いの唇を押しつけて、思いをぶつけるように接吻を交わす。気づけば彼の首に腕を回し、夢中になって行為に溺れていた。


 唇が離れて、荒い呼吸を整えながら薄目を開けて見上げると、ルシウス様が上着を脱いで、ベッドの脇に放るのが見えた。続いてシャツの襟元を乱暴に緩めながら、挑むように距離を詰めてくる。


 ふだんクールな彼はいつになく目元に雄々しさを滲ませていて、これから起こることへの期待と興奮を煽った。けれどもわたしには前世の知識はあってもそういう経験はないので、まるっきり初めての身にはやはり緊張や不安がつき纏う。


「あの、ルシウス様……、あっ……」


 手加減を願おうとしたそのとき、背中をすくわれ上半身を起こされた。


「大丈夫だ。優しくする」


 向き合って座る体勢で、欲しい言葉をくれる彼はやっぱり最高だ。


「服を、脱がせても?」


 率直に問われて恥ずかしさが胸を焼いたが、ここは避けては通れない。首を小さく縦に振ると、肩を抱き寄せられて彼の胸に軽く手と頬をついた。

 ドレスを脱ぐには手間がかかる。今日はとくに正装をしていたから、するする解けるようにとはいかない。


 ルシウス様がわたしの背中に手を回し、コルセットの紐と戦っている間、こちらも彼の脱衣の手伝いをした。シャツのボタンを上からはずしていくと、見事な筋肉が垣間見える。ぱんぱんに張った胸筋に、くっきりと割れた腹筋。均整の取れた体つきは何度見ても美しくて、この世のものとは思えない。


 思わず手を止めて見惚れているうちに、わたしの肩からドレスとシュミーズが一緒にずり落ちた。気が緩んでいたわたしは小さな悲鳴を上げながら、両腕で肌を覆い隠した。


「アレクシア。隠さないで――全部見せて」

「で、でも……」


 できることなら明かりを落としてほしい。夫婦の間柄であっても、裸を見られるのはやっぱり恥ずかしすぎる。


 フルフルと首を振るわたしに、困ったような、けれど楽しげな笑いが降ってきた。それから、あやすような口づけが額に注がれる。


「……可愛いな、アレクシア」


 ルシウス様が横に身を乗り出して、サイドボードの上の燭台の火を吹き消した。

 これによりベッドの周囲は薄闇に包まれたが、部屋の各所にある光源はそのままなので、気休め程度の変化にすぎない。


 ギシリと寝床が軋む音が、なまめかしく響く。

 中途半端になっていたシャツを脱ぎ捨て、大型の獣のように四つん這いになった彼が、いよいよわたしに狙いを定め、身体の全部を使って押し倒してくる。


「あ、待って」


 柔く手首を捕まれて抗議の声を上げるも、なんの抵抗にもならない。ガードしていた両手はあっさりと取り払われ、頭の両脇のシーツの上に縫いつけられた。


 羞恥心がいっそう高まり、耐えきれずに顔を背ける。逃げだしたくとも指と指を絡められ、微動だにできない。ぎゅっと目をつぶっているのに、肌の上を視線が這うのを感じる。自分ばかり息が上がってしまうのも恥ずかしかった。


「あぁ……綺麗だ」


 うっとりとした声が聞こえて、ドキドキと興奮が高まる。

 そのうちにゆっくりと影が下りてきて、うなじに柔らかな唇が触れた。


「んっ……! ルシウス様」


 ビクンと震えたわたしの肌の上に、彼の印が次々に落とされていく。唇や大きな手が触れたところに痺れるような感覚が走って、たまらず体をよじる。


(なにこれ……恥ずかしいけれど、すごく気持ちがよくて……)


 頭の中が沸騰して、とても理性なんて保てない。もはやされるがまま、信じられないほど甘やかされながら何度も「愛している」と囁かれるのが嬉しくて、いつしかわたしの頬は涙で濡れていた。


「アレクシア……君とひとつになりたい」


 額に汗を浮かべた彼の色気にあてられて、心の奥がジンと熱を持つ。


「ルシウス様……わたしも」


 計り知れないほどの熱量を感じて、喉が詰まった。狂おしいほどの欲求が湧き上がり、もっと深い関係を求めて両手を前へと伸ばす。


 血管の浮き出た熱い腕に掻き抱かれると、あとは翻弄されるばかりになった。うわ言のように何度も愛する人の名を呼び、呼ばれて――。


 嵐が過ぎたあとには、思いを遂げられたことへの喜びと、深く色を増す愛情が心を満たしていた。


     *


 ルシウス様と愛を交わし合ったあと、しばらく彼と並んでベッドから出ずに過ごした。

 太くて硬い腕を枕に、気怠さの残る体の熱を冷ましながら、うっとりと身を任せる。


「疲れているだろう。眠っても構わない」

「いいえ、眠るだなんてもったいない。もう少しこのままでいたいです」


 結婚してからこれまで夫婦として機能していなかった、わたしたちの遅かりし初夜――記念すべき初めての交わりは、婚儀の日から数カ月もの時を経て果たされたことになる。


 実はアレクシアの見えない過去に一抹の不安もあったのだが、シーツについた純潔の証を見て、それも払拭された。曲がりなりにも貴族令嬢、名実ともに操を立てることができてホッとする思いだ。


「君とこうなれるなんて、夢にも思わなかった。体は辛くないか?」

「大丈夫です……」


 ルシウス様の声から満足感が感じられて、なによりも安堵した。わたしのほうこそ、めくるめく時間を彼と過ごすことができて、これ以上ないほど幸せだ。


 そっと手を添えた逞しい胸板から、トクントクンと規則的な鼓動が響いてくる。己の胸が立てる心音も、今はだいぶ落ち着いていた。


 これまで恥ずかしさが先に立ち、セクシャルなことに苦手意識すら持っていたのが嘘みたいに自然で、甘いご褒美のようにも感じられる。同時に今までの気苦労がどっと思い出されて、もどかしい気持ちにもなった。


 はじめから「離婚はしたくない」と正直に考えを打ち明けていれば、こんなにも遠回りせずに済んだのではないだろうか。

 夫婦円満のためには会話が大事だと、心に留めておこう――そんなことを考えていると、彼もまた同じような思いを抱いたのか、気の利いたセリフが目の前に差し出された。


「これから君のことをもっと知りたいし、俺のことも知ってほしい。些細な疑問も不安も隠さず、分かち合える夫婦になろう。……それから、母上のことは、気にしなくていい。あの人は頑固なところもあるが、話がわからない人ではない。だが、もし分かり合えないようなら、それはそのとき。俺が君を守るから、安心してほしい」

「はい……ルシウス様」


 枕代わりにしていた腕が曲げられ、頭を引き寄せられて、額にキスが落とされる。


「式典が終わったら、もう一度、誓いの場を用意しよう。俺と君の婚礼式を挙げたい。ふたりきりで」


(わたしのために、もう一度、式を……?)


 胸がじわっと熱くなり、感動がせり上がってくる。


 思えばわたしたちは、互いに意図せず夫婦になった。彼にとっては政略結婚、わたしにとっては降って湧いた、期限つきの妻の座。

 期日の到来とともに消えるはずの繋がりが、まさか現実に実を結ぶなんて。


(もう、別れの日を怯えて待つことはないんだわ……!)


 心を浮き立たせ、目が眩むほどの幸せに酔いしれる。


 いつまでも、この温もりに浸っていたい。胸いっぱいに愛しい人の香りを吸い込みながら、逞しい体に頬を寄せた。


お読みくださり大変ありがとうございました!

どう……でしたでしょうか!?(なにが)


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続きのほうも何卒よろしくお願いいたします(*ᴗˬᴗ))ペコリ

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なんも解決してない諸問題どうすんだろ…… 取り敢えずアレクシア(前)がちょっとばかし苛烈な所があるけれども高潔な女性だったって名誉回復して欲しいよねを話はそれからって言うか……(まともな味方が居ないの…
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