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第3話 異世界に転生したわたしは人妻でした(1)

(あれっ……? わたし、どうしたんだっけ……)


 霧が晴れるように、視界がクリアになっていく。


 まだ頭がぼうっとしている。どこかの部屋に立っているようだが、まさかこの状態で気を失っていたのだろうか。


「いいだろう。そこまで言うなら……離婚に応じよう」


 そんな衝撃的なワードが耳に飛び込んできて、ハッと我に返った。


(え? 今、なんて? ……というか、わたしはなにを……)


 まず認識したのは、そこが広々としたとてつもなく豪華な部屋だということ。壁紙や照明などのインテリアはおしゃれで高級感があり、正面にはどっしりとしたマホガニー材の執務机が置かれている。

 机の上に見えるのは羽根ペンだろうか。家具から小物に至るまで、すべてがアンティーク調で統一され、まるで中世ヨーロッパの貴族のお屋敷に紛れ込んだかのようだ。


(わぁ、すごい。なんだかファンタジー映画のセットみたいね!)


 呆然と眺めているうちに、違和感が湧き上がってきた。

 初めて見るこの景色がどういったものなのか、なぜ自分はここにいるのか、まったく心当たりがない。直前の記憶が、ぽっかりと穴が開いたように抜けているのだ。


(ここはどこなの? どうやって来たのかも思い出せないわ……)


 必死に頭を捻り、記憶を掘り返そうとしていると、


「――返事くらいしたらどうだ?」


(えっ?)


 突如、痺れるような低音ボイスが耳に届いて、びくりと肩を震わせた。

 声のした方向――執務机よりもさらに奥に視線を向ければ、夜の闇を透かした大きな窓の前に、ひとりの男性が悠然と腕を組んで立っている。


「っ……!」


 その姿をひと目見た瞬間、あまりの美しさに息をのんだ。


 一見して外国人とわかる長身の美丈夫。年齢は二十代後半くらいだろうか。ふわりとした漆黒の髪に、彫りの深い顔立ち。引き結ばれた口元は凜々しく、厳かにも見える。

 特に目を引くのは、宝石のように鮮やかな青色の瞳だ。シンメトリーの双眸は希少なブルーダイヤモンドのごとく煌めいて、そこはかとなく高貴な光を湛えている。


(だ、誰なの? この現実離れした美男子は……。モデルか俳優さん?)


 顔の作りだけでなく、身なりも上等で隙がない。精巧な刺繍を施した異国風の紳士服が大柄な身体によく似合っており、服の上から見てもわかる盛り上がった筋肉が、ことさら彼の男ぶりを上げている。


 夢中で見惚れるのも束の間、ドキドキと高鳴る胸には次第に緊張の色も混じりはじめた。見知らぬ外国人とふたりきりとあっては不安になるのが道理だし、なにより相手はとても機嫌が悪そうだ。


 戸惑っているうちに男性は窓際を離れ、こちらに近づこうとする気配を見せた。

 思わず身構えたが、相手は執務机の手前に来たところで板面に腰を寄りかからせて、その場に落ち着いた。


「アレクシア? 聞いているのか」


 険しい声で、なにがしかの反応を求められているのはわかる。けれども──。


(アレクシアって……もしかしてわたしに向けて言ってる?)


「えっと、あの……」


 ひとまず喋ってみたものの、妙な感覚がしてすぐに口ごもった。自分の喉からアルトソプラノの澄んだ音色が出た気がするが、わたしってこんな声をしていたっけ?


 なにかおかしいと思いうつむけば、自分の服装が目に入って、ぎょっとする。


 わたしが纏っていたのは、これまた記憶にないド派手な紫のフォーマルドレス。ウエストを絞る代わりに胸元は大きく開き、丈の長いスカートには深くスリットが入って煽情的に見える。

 おまけに地毛とは思えない赤椿色をした髪が肩にかかり、腰のあたりにまで長くたなびいて、まるでアニメキャラのコスプレをしているみたいな装いだ。


(わたし、なんでこんな格好を……いったいどうなってるの?)


 うろたえるわたしを見て、男性は眉をひそめながら続けた。


「――アレクシア。離婚することに異論はない。だが、向こう三カ月は我慢してもらう」

「え……?」

「もともとこの婚姻は、夫婦で式典に出席するようにと形式的に整えられたものだ。それに、王命による政略結婚を一カ月で破棄するなど、できようはずもない」


(王命? 政略結婚?)


 古臭いイメージの単語が引っかかったが、言いたいことはなんとなく伝わってくる。

 話題は結婚したばかりのどこかの夫婦の別れ話。いくらなんでも仲人を立てておいてすぐに別れるのでは恥ずかしすぎるし、面目が立たないと言っているのだ。


(一カ月で破局するくらいなら、なんで結婚したのかしら……あ、政略結婚と言っていたわね。離婚するのは、この人と奥様の話? だとしたら、こんなに素敵なイケメンを逃すなんて、もったいない。わたしだったら、大抵のことは我慢できるのに!)


 なんて他人事に思いながら空想にふけっていると、真面目に聞いているのかと責めるような目でじろりと睨まれた。


「期待をしていなかったとはいえ、俺にも我慢の限界というものがある。妻として最低限の役目は果たせ。残りの期間を平穏に過ごしたくばな……。わかったか?」

「は、い……。……?」


 気圧されて思わず返事をしてしまったが、なぜわたしが説教をされる流れになっているのだろう。正直なところ、すべてがちんぷんかんぷんだ。


 それから間もなく彼は机に預けていた体を起こし、まっすぐにこちらを見ながら足を踏み出してきた。


(え、待って、こっちに来るの……!? なにをするつもり?)


 おののき動けずにいるうちに、脅威の八頭身がズームアップされる。

 長身の彼とは頭ふたつ分くらいの身長差があって、前に立たれるとかなりの威圧感がある。

 ぎゅっと身を縮め、強張った視線を向けると、男性は不思議そうに首を傾げた。


「どうした。もう吠えないのか? 気性が嵐のように変わる、忙しい女だな」


 そんな冷たいセリフにも、ドキッとしてしまうのは相手の顔面が良すぎるせい。


 彼の表情に気を取られ、立ち尽くすばかりのわたしの肩に大きな手が置かれたと思うと、そこに軽く力が込められた。くるりと方向転換させられ、背中を押されて、あれよあれよという間に部屋の外へと押し出されてしまう。


 されるがままに廊下に出ると、すぐそばに待機しているふたりの人物が目に入った。

 執事のような服装をした双子と思しき少年と少女――彼らは、わたしの背後にいる男性に向かってうやうやしく頭を下げた。


「ルシウス様」

「ご命令をどうぞ」


 大人びた仕草だが、どう見ても十代そこそこの子どもにしか見えない不思議なふたり組だ。

 右の少年は黒髪に褐色肌、左の少女は銀髪に白い肌という違いがあるが、顔のパーツは鏡を合わせたようにそっくりで、中でも特徴的な共通点は――。


(わぁ、この子たち、瞳の色が金色だわ……)


 猫の瞳のような縦長の瞳孔に、思わず見入ってしまう。顔立ちも人形のように可愛らしくて、まるで存在そのものが芸術品のようだと感心していると、うしろの男性の張りのある声が頭の上を飛び越えていった。


「ヒルダ……いや、ロキがいいか。話は終わった。彼女を部屋までお送りしろ」


 指名を受けた黒髪の少年が、一瞬嫌そうな表情を浮かべつつも、こくりと頷く。


「えっ!? あ、あの……」


 この場から退出させられてしまうと知り、焦りが生まれた。こちらも聞きたいことがたくさんあるのに、あまりに一方的ではないか。


 首を回して振り返ろうとしたそのとき、身の危険を感じて体が固まった。

 見れば、前方のふたりから強烈に発せられているのは並々ならぬ敵意――「これ以上、我らの主人を手間取らせるな」と、色を濃くした金色の目が告げている。


(この人たち、いったい何者なのかしら……)


 相手を知らない状況で下手に逆らうのは得策じゃない。今は従っておくのが正解だろう。


 少しの沈黙のあと、「ふっ」と小さな笑い声が聞こえて、男性の気配が近づいた。


お読みくださり大変ありがとうございました!

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続きのほうも何卒よろしくお願いいたします(*ᴗˬᴗ))ペコリ

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