表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

28/49

第28話 あなたの妻でいるために(5)

 馬車を降りると、ヒルダさんがエントランス前に立っていた。


「ご主人様、おかえりなさいませ」


 本来、主人の出迎えはメイドの仕事なのだろうが、彼女が誰より先に駆けつけてくれるから、一番やりとりをすることになるのだろう。

 そのうしろで玄関扉が開き、慌てた様子で駆け出てくるメイド長ほか、数名の使用人の姿が見られた。


 するとルシウス様は、これまでとは雰囲気を一転させ、厳しい表情で使用人らを睨み据えた。どうやらメイド長とその一派に対し、強い憤りを覚えているようだ。


「旦那様、おかえりなさいませ……! お戻りに気づくのが遅れ、申し訳ございません」


 なにかを察したメイド長は青ざめて、深く頭を下げて縮こまっている。

 ルシウス様は出迎えを怠ったくらいで怒るような人ではないと思うのだが、いったいどうしたというのだろう。

 不思議に思っていると、彼はピリピリとした空気を背負ったまま、まずヒルダさんに指示を飛ばした。


「俺はこの者たちに話がある。ヒルダ、おまえはアレクシアの部屋に行き、湯あみを手伝ってやってくれ」

「かしこまりました」


 彼が先に行けと言うのなら、その意向に従ったほうがよいだろう。それに早く体を清めたいと思っていたから、先回りの心配りもありがたい。


 わたしの前ではいつも不遜な態度を取っていたメイド長が、見る影もなくうつむき震えている横をすり抜けて、ヒルダさんとともに館内を進んだ。


 移動しながらわたしの格好をちらりと見たヒルダさんは、ただ静かに、いたわりの言葉をかけてくれた。


「大変な目に遭われたようですね。……けれどもう、すべてが解決するかと」

「ありがとう。でも、解決って……?」


 そう尋ねたところで、廊下の先から近づいてくる話し声を耳にし、会話を閉じる。

 やがて角を曲がって姿を現したのは、イレーヌ姫と侍女がひとり――いつも連れている二人目の侍女はいないようだ。


 主に迎賓館にいるはずの姫がなぜ本館にと考えてみると、時間的に見て晩餐の頃合いだと気づいた。恒例によりメインダイニングに招かれたものの、ルシウス様はわたしを探して街へ出たため食堂には現れず、彼女はそのままひとりで食事を取っていたのだろう。


 嫌なタイミングで行き会ってしまったが、引き返すわけにもいかない。その場に立ち止まっていると、姫のほうはこちらを見つけるや否や、躊躇なく足を進めてきた。


 数歩の距離を保って対面すると、すぐさまぶしつけな視線が全身に降りかかってくる。くいっと傾けられた姫の唇から、なんとも嫌味な声が飛び出した。


「まぁ、なんて酷い格好……。まるでドブネズミのようね」

「……いろいろありまして」

「いろいろって? その様子だと、男と下品な遊びに興じてきたのでしょう。あぁ嫌だ、なんて汚らわしいのかしら! さすがのルシウス卿も、もう見放すのではなくて!?」


 傷口をえぐられるような暴言に、サァッと体が冷えていく。服を破られた女性を目にし、かける言葉がそれとは、彼女は本当に人でなしだ。


 横で気色ばんだヒルダさんが一歩踏み出すのを見て、サッと手を出し引き留めた。

 これはわたしと恋敵との問題。きちんと己自身で向き合わねば女がすたる。


 にしても相手の先制攻撃は強烈で、持ち直すには時間がいった。

 ぎゅっと拳を握って冷静になろうと努めるうちに、背後の方面から近づく複数の足音が聞こえてきた。


 わたしの後方に目をやった姫が慎ましく装ったのを見れば、振り返らずとも誰が来たのかは歴然だ。間もなく大きな人影が隣に着いて、わたしの肩に温かい手が置かれた。


「アレクシア。やはり俺が部屋まで送ろう」

「ルシウス様……」


 横を見上げて思わず表情が緩んだが、その彼は今、警備を担当している兵士を二人も引き連れている。物々しい雰囲気に驚き注目していると、遠慮のない媚びた声が横から割り込んできた。


「ルシウス卿。お戻りになられたのですね。一緒にお食事ができると思っていたのに、急に出ていかれて、寂しかったですわ」


 ルシウス様はにこりともせずに、硬い声で切り返した。


「イレーヌ姫。今日の午後、あなたの侍女は街に出たアレクシアを追うように、荷馬車に乗り込んで出かけたそうですね」


 一瞬、怯んだ様子を見せたイレーヌ姫は、口元に笑みを張りつけて答える。


「……買い物に出かけたのだと思いますけれど、それがなにか?」

「街でアレクシアが暴漢に襲われました。男は酒場で見知らぬ女に雇われたと言っていたが、あなたが関与したのではありませんか? 姑息にも侍女に命じて」


 ルシウス様が語った推測は、わたしの考えとも一致していた。わたしが街へ行くことと、その理由を知っている人物。そしてわたしに恨みを持つ人間といえば、該当者は限られている。


「知りませんわ。証拠はありますの?」


お読みくださり大変ありがとうございました!

そろそろ、お邪魔虫には退場を願いたいですよね……。


続きのほうも何卒よろしくお願いいたします(*ᴗˬᴗ))ペコリ

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ