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第21話 変化の兆し(3)【ルシウスside】

(アレクシア……。顔色が悪かったが、体調は大丈夫なんだろうか……)


 妻との話を終え、執務席に戻ってはみたものの、すぐに仕事に取りかかる気にはなれなかった。


 肘をついて考え込んでいると、隣の資料室で仕事を手伝わせていたロキとヒルダがひょっこりと顔を見せる。


 館の中では人間の姿で過ごし、主人である俺の命令を律儀に待ち望んでいる彼らには、ついつい細々とした用事まで言いつけてしまい――その結果、いまや雑用のプロとなっていた。


 賢いこのふたりは、正直なところ並の人材よりもはるかに役に立つ。

 本当にいい拾い物をしたなどと言ったら、両名の正体を知らない彼女は、俺をどう見るだろうか。


「よろしかったのですか? 離縁の話は、撤回もできたでしょうに」


 机の上に成果物を積み上げたヒルダが、珍しくなにかを危ぶむ調子で問いかけてきた。気になって目を向ければ、いつもと変わらぬポーカーフェイスがそこにある。


「……彼女は自分の意思でなく現状に放り込まれたんだ。ゆくゆくは自由にしてやるのが彼女のためだろう」


「ですが、彼女にとって今以上に恵まれた人生など、ほかにないかと」

「そうだよ、あっちもここにいたいと思ってるよなぁ、絶対」


 ふたりは、我々夫婦の離婚には反対のようだ。まさか契約獣である彼らがアレクシアの身の上を案じる日がくるとは予想もしなかった。


 言葉を失っていると、ロキが特徴的な丸い瞳でじっと見つめてくる。


「ルシウス様、珍しく弱った顔をしてる。迷ってるのか?」


 自分はどんな表情をしているというのだろう。彼らの反応を見るに、慣れない心労が表に表れたのかもしれない。それくらい、今回のことは俺の不得手とするものだった。


 思わず眉間を指で押さえると、気を遣ったヒルダが声のトーンを上げて話を切り替えた。


「とはいえ、警戒を緩めないことは大切です。彼女の中身はどうあれ、器は変わりませんからね。ルシウス様をライバル視するブラッドリー侯爵が、なんの企みもなく娘をよこすとは思えません。もしかしたら、娘に記憶をなくす術をかけておき、こちらが油断したところで、元に戻った彼女がなにか仕掛けてくる可能性も――」


「人間は妖術を使えない。それに俺以外の人間が魔獣を従えることは不可能だ。よってその線は限りなく薄いな」


 だが、アレクシアの魂の入れ替わりに関しては、なんともいえない。元に戻る可能性がないとは言い切れなかった。


 今のアレクシアが消えて、前のアレクシアに戻ったら――そのとき、俺はどうするのだろう。胸のざわつきを散らそうと、目を閉じる。


 もともとアレクシアは当家をかき乱す狙いか、なんらかの目的で送り込まれたことは察していた。女ひとりでなにができると高を括る気持ちもあったが、結婚してからこの方、こちらが隙を見せない状況では、彼女も手をこまねくしかなかっただろう。


 手中に敵を飼うような緊張感は、今はない。しかし、ここにきて妙な悩みの種が増えた。


 ――新しいアレクシアを、どう扱ったらいいのかわからない。


 きょとんとしたり、照れたり、恥ずかしがったり、笑ったり。彼女の顔を見ていると、同じ器だからと過去の責を問う気にはなれない。むしろ目を引かれて、いつまででも眺めていたい気にさせられる。俺はこんなに甘い人間ではなかったはずなのだが。


 妻を娶るのは義務であって、それ以上でもそれ以下でもないと思っていたが、結婚生活が想像したより悪くないのかもしれないと思えるようになったのは、きっと彼女のせいだ。


(予定どおりに離婚が成立したら、彼女はどんな人生を歩く――?)


 アレクシアは悪評の高さゆえに周りから敬遠されていたようだが、外見は極めて美しい。トラブルが絶えないのも、危険だとわかっていながら男が堕ちる魔性の魅力を持つがゆえとも考えられる。あの美貌をもって、先日のように柔らかく微笑まれたら、以前にも増して言い寄る男は増えるだろう。


 なんとなくほの暗い気持ちになっていると、空気を読まない少年が、上目遣いでねだってきた。


「ねぇルシウス様~。また猫のふりして、あいつのところに遊びにいったらダメ?」

「ダメだ」

「え……」


 即答で返してやったら、ショックを受けた顔をしている。


「なにを言ってるのよ、あなたは」


 呆れた声でヒルダが諫める。とたんに、ロキは駄々をこねるように騒ぎはじめた。


「だってアレクシアのやつ、すんごい甘やかしてくれるんだぜ。オレのこと猫だって信じちゃってさ~。温かくて柔らかい手で撫でられると、すごく気持ちいいんだ……クフフ」


 うっとりしているロキを見て、ヒルダが「そんなに……?」と呟いた。ごくりと喉を鳴らしているが、おい、おまえまで興味を持ってどうする。


「いいかげんにしろ。俺の妻である女性の部屋に、姿を偽って忍び込むんじゃない。今度やったら、接近禁止にするぞ」


「えー、でもあいつ、この屋敷ではまだまだ孤立してるから、オレが助けてやらないと困ると思うな。関われなくしたら、ルシウス様が嫌われちゃうんじゃないかなー」


「だから適切な距離を保てと言っている。わかったな!」

「は~い……」


 不満げな声に、睨みを利かせて念を押し、ふんと息を吐いた。

 新しいアレクシアが与えた影響は、思っていたより広範囲に及ぶらしい。


     *


お読みくださり大変ありがとうございました!

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続きのほうも何卒よろしくお願いいたします(*ᴗˬᴗ))ペコリ

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