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追放悪役令嬢は戦女神の力で世界を救う  作者: 桜雨実世


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アルフォンスの悲劇

 アルフォンスは語りだした。

「俺の母は元々は魔術師家系の男爵令嬢だったという」

 私はその言葉を引き継ぐように、

「そして、類稀なる魔術の才能と圧倒的な美貌を兼ね備えていた。その才気と美貌に王はすっかり魅了され、半ば強引に結婚をしたようですわ」


 魔術師の家系とはいえ、突出したものはなく、至って平凡な宮廷魔術師団の一員だったという。日本で言うなれば、エリート会社の万年平社員のような存在だ。


 エレオノーラ妃だけが、突然変異のように魔術の天才として生まれた。まさに奇跡のような存在だったらしい。


 私は当時を想像しながら、「目立たない家柄ゆえに、宮廷や社交界でもこれといった後ろ盾もなく、エレオノーラ妃が苦労したことは想像に難くありませんわね。そして、この結婚がもっとも面白くなかったのが、デーべライナー侯爵家ですわ」


 つまり、テオバルトの母であるヘートヴィッヒ妃の実家だ。

 アルフォンスが復讐の相手の名を聞いて、拳を握った。


 デーべライナー家は娘を王妃にするために、様々な工作に膨大な手間と費用をかけてきた。

 王家の外戚となり、宮廷の内外で絶大な権力を握ることを切望していたのだ。


 エレオノーラ妃が輿入れした後も、デーべライナー家の野望が砕けることはなかった。


「妃が公務で地方に行った際、彼女は謎の不審死を遂げました」


 そして、王妃の一族の多くが国家転覆を企てたとして逮捕され処刑されたのだ。

 その時の警察長官はデーべライナー家の当主だったというから、その力の大きさがわかるだろう。


 王は冤罪だと主張したが、非の打ち所のない証拠が出され、手出しできなかったと聞く。


 アルフォンスが、「一人息子だった俺は王太子の地位を取り上げられ、庶民に格下げされた」

「エレオノーラ妃の妹に引き取られ後、誰も行方を知るものはいません。ですから、多くの貴族たちはあなたはとっくに死んだものだと思っていました」


 貴族たちはデーべライナー家に逆らえば、自分たちも二の舞いになってしまうのではないかと恐れた。


「今ではエレオノーラ妃とアルフォンス王太子の話は瞬く間に宮廷中のタブーとなっています」


 結果として、王はヘートヴィッヒ妃と政略結婚をし、デーべライナー家の権力は拡大した。ついでに、テオバルト王太子も無事に誕生した。


 なぜ、そんなタブーの話を私が知っているのかというと、テオバルト王太子に夢中になった私を諌めるために父がこっそりと教えてくれたからだ。


 「デーべライナー家には気をつけなければいけない」と。


 アルフォンスは両手を握りながら、暗い表情で、静かに語りだした。

「庶民となった俺は当時、4歳くらいだった。母の妹に連れられ、山奥の館でひっそりと暮らし始めた」

「そうでしたのね」

 私は静かに相槌を打った。

 彼の言葉には、幼い頃の深い孤独や複雑な思いが滲んでいるように見えた。


「だが、俺が十五の頃、デーべライナー家に居場所を暴かれてしまい、叔母は俺を逃がすために殺されてしまった」

 彼の拳が、ぎゅうっと強く握りしめられた。その美しい顔は怒りで酷く歪んでいた。

 なんて見ていられないほど、苦しげな表情をするのだろう。

 ずっと心の奥底に、淀んだ憤りや怒りを抱えているのかもしれない。


「俺は奴らが許せない。俺も叔母も王家やデーべライナー家に何もするつもりはなく、見つからないように静かにひっそりと暮らしたかっただけなんだ」

「それでも……デーべライナー家にとっては、脅威だったのでしょうね。哀しいことですわ」


 アルフォンスにその気がなくても、彼を担ぎ上げて、反乱を起こす一派が現れる可能性はある。


 私はアルフォンスに、静かに告げた。

「当時の事情を知る貴族ならば、誰もが知っていることですが、王が愛している女性は今でもエレオノーラ妃だけですわ」

「それがなんだっていうんだ。父は叔母を助けず、見殺しにした」

 アルフォンスは憎々しい表情で言い放った。父である王への複雑な愛憎が潜んでいるように見える。


 私はアルフォンスの内なる激情を感じ取りながら、淡々と、

「助けられなかったのでしょう。デーべライナー家の宮廷内での権力は絶大。王の首をすげ替えることは容易いと、噂されるほどですもの」


 銀髪の少年ヒルデベルトが首を傾げた。

「どうしてデーべライナー家がそこまで強い権力を持ってるのさ?」


 私は頷き、説明を続けた。

「元々、デーべライナー家は宮廷での権力を拡大させたいという野望がありました。様々な工作などを行っていたのですが、決定的な出来事がありましたの」

「決定的?」


 私は頷いて、 

「王家に多額の金を貸したのですわ。三十年ほど前に王国に大量の魔物が発生し、王国内はボロボロなりました」

「グランツの悲劇だな」

 カスパーの言葉に、私はさらに付け加えた。

「特に、王家の領地は見るも無惨な有り様だったそうです。その中で、デーべライナー領といくつかの貴族領だけが奇跡的に魔物の難を逃れたのですわ」


 私は一呼吸置いて、続けた。

「魔物との戦いで多額の出費がかさみ、国庫は火の車。そこに、無傷だったデーべライナー家が支援と称して、王家に大金を貸し付けたのですわ。彼らはダイヤモンド鉱脈を持っていて、噂では王家よりも資金が豊富だとか」

「じゃぁ、デーべライナーって、王家にとっては恩人ってやつ?」


「まさか」

 私はヒルデベルトの言葉を鼻で笑って、続けた。

「今でも年寄りの貴族たちが口を揃えていうことがあります。デーべライナー家は、王国や他の貴族家からの支援要請を故意に無視したと」


「後になって、傷ついた王家に金を貸して、権力を握ろうとした。そう言われても仕方ない行動だ」

 カスパーも年寄り貴族のように憎々しげに言った。この反応からするに、貴族や騎士の階級の出身なのだろうか。


 私は改めてアルフォンスを見た。

「この戦いで大活躍したのが女魔術師のエレオノーラ王妃ですわ」

 アルフォンスは、

「父と母の出会いのキッカケだそうだ」


 グランツの悲劇で多大な被害を受けたのは王家領だけではない。

 私の生まれ故郷も、このグランツの悲劇で大打撃を受けた。結果的に当時領主だった祖父は亡くなった。そして、母も寿命を縮め、若くして世を去った。

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