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デメルングの仲間たち

 私の目の前に現れたのはカスパー、モーリッツ、ヒルデベルトだ。


 まず、身長2メートルの筋骨隆々の槍使いカスパー。

 次に、紫色の髪と焦点の合っていない瞳が特徴の精霊使いモーリッツ。

 そして、銀髪の少年ヒルデベルト。小柄な体躯でありながら、二メートルもの魔法剣を操る。


 デメルングにはもう一人メンバーがいるのだが、ここにはいない。

 彼らは乙女ゲームでは国家転覆を目指し、主人公マーヤたちの前に立ちふさがり、最後は処刑される運命にある。


 カスパーは大きな魔獣を背負っていた。前世では鹿と呼んでいた動物だが、色が禍々しい漆黒で、毛並みにはどこか不吉な艶があった。


 私を見て、カスパーが豪快な声で言った。

「おー、目が覚めたか。それで、アルフォンス、うまくいったか?」


 アルフォンスは首を横に振り、淡々と答えた。

「いや、彼女は俺たちの趣旨に賛同せず、協力はしないそうだ」


 ヒルデベルトが不思議そうに尋ねた。

「じゃぁ、どうするのさ?」

「レーヌの町へは送ってやるさ」

「ふーん」


 ヒルデベルトは私を見つめ、明るい声で言った。

「僕たちは極悪人なんだから、もし、万が一、自警団にでも通報したらイタい目見ちゃうからね?」

 明るく言うが、彼は嘘は苦手という設定だ。つまり、本当にイタい目を見せる気なのだろう。何をされるかわかったものではない。


 私はこくりと頷いた。

「助けていただいたのですから、それくらいは」


 モーリッツは黙ったままだ。精霊と繋がるという性質上、ぼんやりとしている性格らしい。


 カスパーが背負っていた黒鹿を地面におろし、なれた手つきで手早く解体を始めた。

「これが今夜の夕食だ。お嬢さんには刺激が強すぎたか」

「いいえ。父が元気だった頃、父と領民たちとともに狩りへ行っていましたから」

「ほぅ」


 モーリッツが私に向かって、

「レーヌの町で、……どうするの? 何も、持ってなさそう」

「本当に、お金も何もないので、住みこみで働けるところを見つけるしかありません。それから、冒険者ギルドに登録して……」

「英雄になるのか?」

 アルフォンスが口元に半笑いを浮かべながら言った。


 まさか、あのデマカセを覚えているとは。

 三人は不思議そうな顔をしたので、アルフォンスが先程の、私が「弱気を助け、悪を挫く英雄になる」と語った話を説明した。


 これを聞いた三人も笑い出した。

 ヒルデベルトが腹を抱えながらの大爆笑の後、

「それ本気なの?」と尋ねてきた。


 私はしれっと、「まさか。デマカセですわよ。本当の目的は旅をすることです。折角ですから色々な場所に行きたいのですわ。冒険者なら、仕事柄色々な場所に行くと聞きました」


 前世の私は家と学校とオーディション会場と習い事と名もなきエキストラとして参加した現場や舞台を、まるで決められたレールの上を走るだけの電車のようにぐるぐると回っていただけだ。


 こちらの世界で貴族令嬢として生まれた私とて、自由に色々な場所に行けたことはなく、町を歩いたことは皆無に等しい。


 どうせなら好きに生きたいじゃないか。

 せっかく自由になったのだから。


 カスパーが手際よく、肉を調理し、炭火で焼いていく。

 肉の焼ける香ばしい匂いがあたりに漂う。

 味付けはシンプルに塩とハーブだ。


 お世辞にも柔らかいとは言えないが、久しぶりのちゃんとした肉だからとてもおいしい。


 私はアルフォンスたちに感謝の気持を込めて言った。

「助けていただいたお礼に良いことを教えてあげます。近い内に王太子殿下と聖女御一行はレーヌの町を訪れます」

「王太子が!? 本当に?」


 アルフォンスは王太子という言葉に驚くほど反応した。原作でも彼は王太子にものすごく執着しているのだ。でも、それがなぜなのか語られることはないし、公式設定集にも書かれていない。

 しかし、ここでリーゼロッテとしての記憶と、芽衣子が持つゲームの記憶が一致した。


 私は驚きで呆然とした。

 まさか。

 そんなはずはない。

 いや、そんなはずがあったのだ。


 私は思わず口を半開きになっていた。はしたない口元を手元で抑えながら、たどたどしく、

「あぁ、あなたのお母様はもしかして、エレオノーラ前王妃?」

 アルフォンスは一瞬驚いたようだったが、真剣な表情で静かに頷いた。


 今度は私が驚いた。

「まさか生きてらっしゃったなんて、……アルフォンス王太子! いえ、元王太子でしたわね」

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