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追放悪役令嬢は戦女神の力で世界を救う  作者: 桜雨実世


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神と魔の狭間

この小説を初めて読む方は第1話もぜひどうぞ。

https://ncode.syosetu.com/n5049kc/1/


今回のお話は以下のお話も読むと、事情がわかりやすくなります。

35話https://ncode.syosetu.com/n5049kc/35/

36話https://ncode.syosetu.com/n5049kc/36



 ヴェンデルガルトは私の体を借りて、デメルングとアンブロス軍の幹部たちに語った。


「かつて、この地上で、神と魔族が争っていた。アルシュラはその魔族側の幹部の一人じゃった。妾と奴は激しくぶつかり合った。魔族は敗れ、神々は自らの肉体を材料にして地獄を作り、魔族たちの魂を送り、封じた」


 スヴェンが親指の爪をガリガリとかじりながら、

「ミリアムが、アルシュラを呼べたということですか? 羨ましい」

「お前、魔族以上に魔族らしいな」

 ヴェンデルガルトが呆れて言った。


 アルフォンスが、

「それで、奴をどう倒せばいいんだ。奴を倒す手段を、俺が奪ってしまったみたいだしな」

「そうじゃな。アルシュラはミリアムに、魔の力を込め、魔族に近い体に変じさせているようじゃ。リーゼロッテと聖女の二人がかりなら、倒せたじゃろう」


 私たちは、見事にミリアムの手のひらで踊ってしまったのだ。

 ごめんなさい、マーヤ。


 あなたがそんなに強情だとは思わなかった。

 ただ、降伏さえしてくれれば、あんな辛い思いをしなくても済んだのに。


 ヴェンデルガルトはキッパリと、

「方法はある。リーゼロッテに、さらなる神力を込めて、一時的に神や天使に近い存在にすることじゃ。じゃが、負担がかかる故、耐えきれずに、心身が壊れるかもしれぬ」


 誰もが騒然とした。

 アンブロス軍の騎士団長が叫んだ、

「他に方法はないのか! リーゼロッテ様はアンブロスを導く尊い方なのだぞ!」

「ない。人の事情など知らぬ。妾は地上を修羅の地としないために、アルシュラを宿すミリアムを屠る」


 ヴェンデルガルトは険しい表情で、

「そのために、リーゼロッテを利用するだけじゃ。もう、この娘は妾から逃げられぬ」


 騎士団長は涙を流して、卓を叩いた。


 アルフォンスは呟いた。

「俺は間違えたのか」

「そんなのは、結果論じゃ。妾もアルシュラが再び、地上に訪れるとは思ってはおらなんだ」


 誰もが黙ったが、ヴェンデルガルトは一喝した。

「主たちは弱いな! 聖女という娘は、貴様らに焼かれ、身を裂かれても、その力を主らに向けず、魔族に立ち向かったぞ! そこに、絶望も迷いもなかったぞ!」


 私はハッとなった。

 マーヤは絶望に屈することなく、守ろうとしたのだ。


 彼女の感覚も精神も人間を超えていると、私は心から戦慄した。


 私は愕然として、自分の部屋に戻った。


 マーヤは最初から最後まで、性格だけは乙女ゲームの主役らしい清らかさを持っていた。ただ、マナーや生まれが悪いだけだ。


 私が椅子に座っていると、部屋にアルフォンスが入ってきて、いきなり私を抱きしめた。

「好きだ、リーゼロッテ」


 私もアルフォンスを抱きしめ返した。


 三日後に、アンブロス軍とグランツ王国軍が再度激突した。

 その中にはミリアムもいて、私は剣を構えて、彼女へと接近した。


 人間としての私の終わりが始まるのだ。


 ヴェンデルガルトは静かな声で、私に言った。

「リーゼロッテ。許せ」

 瞬間、ヴェンデルガルトの神の力が体内に、精神の中に、溢れかえる。


「あぁぁぁ!」

 身が引き裂かれるように痛い、熱い。

 助けて、誰か。


 ヴェンデルガルトの冷たい声が頭に響く。

『誰も助けぬ。耐えよ。ミリアムは耐えたのじゃ。焼かれ、斬られたあの娘も、痛みに耐えたのじゃ。ならば、神人であるお主にもできる』


 私の背中が痛い。背中が突き破られるような、痛みが。


 ミリアムは私が変化する前に殺そうとしたのか、薙刀のような武器を振るう。


 私は痛みで全く動けない。ヴェンデルガルトが私の肉体に乗り移って、ひらりと避けた。


 次は、改造兵たちが差し向けられたが、こちらもヴェンデルガルトが斬り伏せていく。

 彼女も私の体を使う以上、痛みを感じているはずだが、それでも動いている。


 戦女神の名は伊達ではない。


『違うぞ。妾は背負っておるのじゃ。アルシュラによって屠られた魂の怒りを! 嘆きを! その嘆きを、怒りを、繰り返させはせぬ!」


 私の背中から白い羽が生えていた。羽の形は鷲のような形だ。

 髪の色も銀色になっている。


 神力を周囲に放出している。


「今、貴様を地獄へ送り返してやるぞ! アルシュラァァッ!」

 ヴェンデルガルトが今まで見せたことのないくらいの激しさで叫んだ。


「できるものなら、やってみな!」


 痛みが収まった。

 私は、これで、人では、なくなったらしい。


 ヴェンデルガルトが私の体を完全に奪った。

 私は今、完全なる女神の器になったのだ。


 きっとミリアムもそうなのだ。


 ヴェンデルガルトが剣を片手に、アルシュラに迫った。

 だが、竜のような羽で簡単に受け止められた。


 二人は空を舞い、戦い続ける。


 私はそれを、眺めているだけだ。

 私が、私の体でできることは、見ることと聞くことだけだ。

 きっと、ミリアムもそうなのだ。


 ヴェンデルガルトは叫んだ。

「貴様ら、魔族はいつもそうじゃ! 人間をたぶらかし、誤らせ、争わせる!」


「おいおいおい、お前は、あたしたち魔族が簡単に人間を支配してると思ってるのかよ!」

「その通りじゃろう!」


「ふざけんなよ!」

 アルシュラの薙刀の一振りで、百メートル先の兵士の一団が剣圧で真っ二つになった。


「ヴェンデルガルト! お前の目は節穴かよ! それとも、人間を甘ちゃんだとでも思ってんじゃねーのか!」


 アルシュラは叫んだ。

「人間は遥か昔から何も変わっちゃいねぇ!」


「そうじゃ、人は何も変わっておらぬ! 人の心は、本来、美しい! それを貴様らは誤ったことをさせる。平気で罪を犯させる」

 ヴェンデルガルトの剣圧もまた百メートル先の兵士たちを切り裂いていく。


 二人は神と魔族として、対峙し、周囲の人間なんてこれっぽちも歯牙にかけていない。


「違うね! 魔族はな、簡単に人間を動かせるわけじゃねぇ!」


「なら、動かすでないわ!」


「ただ、人間どもが抱く怒り、不満、嫉妬そんな感情をな! ただ、増幅するだけで、ただ、いじってやってるだけなんだよ!」


「それをたぶらかすというのじゃ!」


「奴らの内から出てきたものを利用しているに過ぎない!」


「その感情を抱くのが人間じゃろう! 貴様らに容易に流されるのが人の弱さじゃ! それは必然じゃ!」


 アルシュラは怒りで、頬を染めた。

「人間を、見くびってんじゃねーぞ!」


 薙刀をふるいながら、叫ぶ。

「中には、魔族に抗う人間も、打ち勝つ人間も、全く効かない人間だっているんだぜ! 魔族が楽々人間を動かしてると思ったら、大間違いだぞ!」


 ヴェンデルガルトとアルシュラが激しいぶつかり合いを行う。


 戦いは終わらないように見えたが、アルシュラと戦いながら、彼女の魔を吸収していたヴェンデルガルトが徐々に優勢となっていく。


 そして、

「仕舞いじゃ」


 ヴェンデルガルトの持つ剣が太陽のように眩い黄金色に輝くと、ミリアムの体を深く切り裂いた。


 アルシュラは口から、盛大に血を吐きながら、

「人は、神が庇護するべき存在じゃねーぞ」

「弱きものを庇護して、何が悪い」

「馬鹿。人はお前が思うほど、弱くはねーんだよ」


 アルシュラは弱くなっていく声で、言葉を続ける。 

「人は、魔も、神も超えて、魔と神の両方になるんだ、いつか、必ず」

 そう言って、アルシュラは倒れた。


 ヴェンデルガルトが、ミリアムの首を即座に切り落とした。

「これでもう、生きてはおれぬ」


『リーゼロッテには無理をさせたな』

「……いいけど」


『神力の一部を主の体から解き放とう。これにより、見た目は元のリーゼロッテには戻る』


「ありがとう」


 私の体はヴェンデルガルトの言葉通り、元に戻った。


 その後は、私は踊って、ヴェンデルガルトと共に、グランツ軍と戦った。

 アルフォンスの魔法やデメルングの面々の活躍もあり、私たちは勝利した。


 次はとうとう、王都エーヴィッヒである。

 攻城戦が行われると思いきや、王都にたどり着くや否や呆気なく開城した。


 城の中には王となったテオバルトやアルフォンスの実父がいる。

 デーべライナー一族と思われる者たちの抵抗がわずかばかりにあったが、今までの戦いに比べればそんなのは些細な問題だった。


 アルフォンスと私は城の中へと足を踏み入れた。

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