表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
追放悪役令嬢は戦女神の力で世界を救う  作者: 桜雨実世


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

39/43

枯れない花(注・アルフォンス視点)

 リーゼロッテは行軍中は馬車の中にいて、各地の傍観側の貴族たちに、自分側につくようにと手紙を書いている。

 事務方と手紙の文面について、とても悩んでいて、難しい顔をしている。

 手もだいぶ疲れているのかパタパタと振ったり、マッサージをしている。


 俺は王太子になったが、正直、そんな手紙なんて書けるわけがない。


 王権に忠誠を誓い、デーべライナーに反感を抱いている貴族は、すぐに俺を支持し、アンブロスについた。


 エレオノーラ妃の特徴を色濃くついでいる俺を、偽物だと否定する要素が彼らにはなかったのだ。


 双方の取り決めにより、戦場と開戦日時が決められた。俺は戦争にもルールがあることに驚いた。


 アンブロス軍とグランツ王国軍も草原での初戦となった。


 グランツ王国のほとんどは草原が広がる見通しのいい土地だから、俺の魔法が活かせる場所だ。

 グランツの兵士たちが、化物に変じて、アンブロスの兵士たちを蹂躙していく。


 リーゼロッテが驚いて、

「なんて、強さなんですの!?」


 スヴェンが苛立ちをあらわにし、

「ミリアムですよ。やつは、人間を非合法に改造することだけに、夢中でしたからね。完成させやがったわけだ」

 空中を叩きながら、

「クソ。俺を実験台にして、失敗しておいて、とうとう成功させやがって合法にまでしやがって。俺にも教えろですよ」


「奴らは、人間ではなくて、改造された化物だろう」


 俺はそう言って、特大の炎の魔法を見舞った。

 兵士の皮を被った化け物たちが消えるはずだったが、消えなかった。


 炎の向こう、焼けただれた空間に、一人の少女が立っていた。

 兵士たちは、魔法による障壁で守られていた。


 リーゼロッテが声を上げた。

「マーヤさん!?」


 聖女か。

 彼女も改造されたのか。


 スヴェンが、

「魔法で障壁を張り、兵士たちを守っても、自分の分の防壁は魔力が足りなくて、張れなかったようですね」


 その代わり、自分にはより少ない魔力で行使できる回復魔法をかけたのだろう。


 俺の炎を浴びた聖女は、正気に戻ったような顔になった。


 リーゼロッテが聖女に近づいていく。


 彼女にとって、学園から自分を追い出した張本人が相手だ。だから、死なせることに躊躇はないと思っていた。


 無茶をするが、問題はないだろう。

 俺も彼女に続く。


 リーゼロッテは声を上げ、聖女に話しかけた。

「どうして、あなたがここに!?」

 聖女は笑顔で、

「皆で一緒に帰るためです。ここには、学園で一緒に学んできた友達もたくさんいますから」


 「自分を改造してでも、ここにいることがそんなに大事なんですの!?」

「まさか、私もこうなるとは思いませんでした。でも、そんなのは関係ありません」


 聖女は言葉を続けた。

「私が今、できることは、私が守れるものを、守ることだけ」


「次、アルフォンスの一撃を受けたら、今、私の一撃を受けたら、あなたは」

「大丈夫です。私は倒れません。大切な人の場所に戻るって約束したんです。一人ぼっちにさせないって決めてるから」

 曇りのない笑顔で、まっすぐに言い切った。


 聖女が兵士たちを守る限り、アンブロス軍は蹂躙されていく。


 俺はもう一度、炎を聖女に見舞った。今度の炎は先程よりも何杯も熱いぞ。

 彼女は改造により、聖属性が極限まで強化されたからか、常に傷が瞬く間に回復されていく。


 ヒルデベルトが首を落としても、落ちる前にくっつき、カスパーが刺し貫いても決して倒れない。


 それでも、聖女の瞳は決して折れない。


 リーゼロッテが涙ながらに、

「どうして、ここまであなたはされても立っているのです。あなたは必ず負けますわ。降伏しなさい!」


 聖女は微笑んだ。

「嫌です。あの人が生きる地獄に比べたら、ここは天国みたいなところです」


 誰の地獄と比べているかわからないが、強情なお嬢さんだ。


 俺がいる、地獄が、一番の地獄に決まっているだろっ!?

 俺は、何度も、何度も、彼女を焼いた!


 とうとう、彼女は弱り果て、地面に崩れ落ちた。


 その時、どこからか哄笑が聞こえた。

 現れたのはミリアムだった。


「あぁ、良かった! 聖女が倒されて! 聖女を強化して、戦場に向かわせれば、きっとこうなるって思ったの! 私では、手を下せなかったから!」


 どういうことだ?


 赤く染まった瞳がギラリと光り、背中からは龍のような羽が生え、頭には二本の角が突き出た。

 ミリアムはリーゼロッテを見据え、言った。


「お久しぶり! ヴェンデルガルト!」親しげに言った瞬間、怒りに顔を歪ませながら、「お前に地獄に送られたアルシュラだよ!」


「アルシュラ! やはり貴様じゃったか!」

 リーゼロッテの肉体を乗っ取ったヴェンデルガルトが叫んだ。


「あんたと聖女の二人がかりじゃぁ、さすがのあたしも倒されちまうからね」


「何故じゃ! 魔族の魂は地獄へと送ったのじゃぞ! もう二度と出てこれぬはずじゃ」


「神々は自らの肉体を脱ぎ捨て、その骸で、地獄を作った。ゆえに、神はこの地上に降臨ができない。でも、神の魂をこの地上に降ろせる人間がいるように、こっちだって、魂を上げることができる人間がいるのさ!」


「人々を、たぶらかしおって!」


 アルシュラは高笑いをしてから、

「なーにがたぶらかすだよ! 本当の姿に、戻してやってるだけさ! 人間の持つ魔力は、魔族が持つ魔と同じだ! 魔族の持つ破壊と怒りと憎悪の衝動を、本能を、人間たちも持っている証拠だ!」


 俺に指さしながら、

「そのでかい魔力は、元々、あたしたち魔族と同じ力なんだぜ! だから、お前は平気で、心を痛めることなく、必要だからと言いながら、人間たちを焼けるのさ! 自分の怒りを、復讐という言葉で正当化しながらな!」


 今度はリーゼロッテを指差しながら、

「お前、魔法が使えねーだろ! 神力はな、魔と相反するから、魔力を体に入れておけねーんだよ!」


 アルシュラは聖女を何度も蹴りながら、

「聖女たって、こいつが持つ聖属性だって所詮は魔さ。お前たちは浄化だなんて言うが、正確には魔の減退と消滅の力に過ぎねー」


 リーゼロッテが小さく呟くように、

「ヴェンデルガルト。本当なの? 本当に、人の持つ魔力は……」


 アルシュラが聖女を蹴る足を止めた。

 見ると、聖女が足をしっかりと掴んでいる。


「……人を、馬鹿にしないでください。魔族と同じ力を、……持っていても、人という存在が……あるのは、魔族でも神でもないからです」


「戯言を」

 アルシュラは聖女の腹を強く蹴った。

「私たち人は、魔法という道具を、誰かの不幸のためにも、幸せのためにも使えるんです」


 聖女は立ち上がった。

「幸せを願って使う魔法には、あなたのような魔族が喜ぶ破壊衝動も怒りも憎悪もありません!」


 彼女は最後の力を振り絞ったのだろう。

 渾身の聖属性の魔法を放ち、アルシュラの上半身の半分を消滅させた。


 だが、それが限界だった。


 ヴェンデルガルトが、マーヤとアルシュラの間に割って入り、剣を振るう。


 二人は激しい戦いを繰り広げるが、ヴェンデルガルトが押されていた。


 双方の部隊もまた激突した。


 アルシュラが、リーゼロッテを吹き飛ばし、とどめを刺そうとする。

 俺やヒルデベルト、カスパーが割って入るが、簡単に俺の魔法も、武器による一撃も吹き飛ばされる。


 だが、アルシュラにも限界が来た。

「チッ。あの小娘め。つまらない仕掛けをしやがって」

 そう舌打ちをして、消え去った。


 夕方には戦いは終わったが、双方ともに被害は甚大。


 聖女の姿はなかった。風のように、彼女は消えていた。

 生きているのか死んでいるのかすらわからない。


 俺たちは疲れた体を引きずって、占領した街に戻った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ