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追放悪役令嬢は戦女神の力で世界を救う  作者: 桜雨実世


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戦(注・アルフォンス視点)

 俺はリーゼロッテの回収のためにスヴェンだけを町に残し、囚われて洗脳されていた魔術師たちとともに馬車に乗って、王都を目指していた。

 途中で村を見つけたら、馬を交代し、日が上がっている間は進み続けた。


 真夜中にスヴェンは戻ってきたが、リーゼロッテは一緒ではなかった。

「残念ながら、娘は戻ってこなかったですよ。囚われたか殺されたかですね」

「まさか……」

「城の中まで探しに行ければよかったですが、周囲は魔族がいて近づけなかったですよ」

「そうか」

 俺はそう言うのが精一杯だった。


 また彼女を危険な目に遭わせてしまったし、助けることもできない。

 俺は人並み以上の魔力を持って生まれた人並み以上の魔法の使い手なんだが、魔物や人間を焼き払うことはできても女の子一人を守ることもできないんだな。


 スヴェンはさらに言葉を続けた。

「公爵は兵を招集してるですよ」

 カスパーが、

「王都へ進軍するつもりか?」

「それか町とかそこら辺に住んでる人たちにでも救いを与えに殺し歩くかじゃない」

 ヒルデベルトが言った。


 王都に進軍して王位を簒奪するか、ベーゼ教以外の人間を大量虐殺するか。本当に大量虐殺しかねない気味の悪い公爵だ。


 俺は、

「スヴェン。王位簒奪のための兵なのかもしれない。王都に行って、報告するんだ」

「アルフォンス様は相変わらず人使いが荒いですねー」

「こんな時に頼りになるのは不可視の魔法で空を飛べるお前しかないだろ」

「まぁ、そうですけどね」 


 スヴェンは姿を消した。透明になる魔法を使ったのだ。羽ばたきによる風圧が発生したことでキメラに変身し、飛び立って行ったのがわかった。


 俺たちものんびりするわけには行かない。村に着く度に馬車の馬を交換し、王都へと急いだ。


 城へと着くと、ニアとテオは両親と再会をしたが、そんなことよりロヴィナがおろおろしていた。


 場内はスヴェンからの報告があったからか慌ただしく、兵や騎士たちが戦支度をしていて、ピリピリしている。


 戦場はおそらく城にほど近い平野になるだろう。


 俺はクララ王妃の元に急いだ。王妃の顔色は悪く、青ざめたを通り越して、土色だ。

 彼女はか細い声で、

「リーゼロッテ様は?」

「彼女はオットー侯爵に囚われたか殺されたかのどちらかです。侯爵は邪教の信者で最終的な目標はこの国の王となり多くの人々を殺すことです」

「あぁ、やっぱり……」

 クララ王妃には心当たりがあったようだが、そう呟いたっきり椅子から崩れ落ち、吐血をしながら意識を失った。


 王位継承者がボンクラ息子と頭がオカシイ侯爵なのだから、彼女の心労はとても大きなものだったろう。


 クララ王妃はその後、医者から危篤状態だと診断され、ボンクラも流石に青ざめて、

「なぁ、アルフォンス、俺どうしたらいいんだ?」

「知るか」


 俺に聞かないでくれ。

 それくらいわかるだろ。


「そ、そうだ。叔父さんがそんなに王になりたいんなら、いっそ譲ろう」

 瞬間、俺はロヴィナの面を思いっきり殴っていた。

 周りにいた大臣や貴族たちが驚いたが、そんなことは関係ない。


「ばっかやろう! お前の叔父さんはな! 異常者だぞ! 王になって大勢の人間をあの世に送ってやるんだっていう人間だぞ! そんな人間を王にしてどうするんだ! お前が王になるしかないだろ!」

「だって、俺、王になる自信ない」

「そういうのはなんとかなるから気にするな!」


 オットー以外にこいつしか王になれるやつがいないんだ。王にするしかないんだ。


「そうか、気にしなきゃ良いんだな! よし皆、叔父さんと一発ぶちかまそうぜ!」

 なんだこいつ。

 まぁ、いい。


 カスパーが、

「俺たちはどうするんだ?」

「まずはリーゼロッテの生死を確認したいが……魔族に妨害される可能性があるか。オットーの城に行ってまともに行動できるのはモーリッツだけか」

 ヒルデベルトが、

「戦場に魔族来たらどうするのさ。同士討ちさせられて大混乱に陥るかも。モーリッツを城に送るよりも戦場のほうがいいよ。リーゼロッテが死んでたら迎えに行ってももう意味ないし」


 ヒルデベルトの言うことはもっともだ。

 モーリッツが、

「……一人で魔族を相手にするの辛い」

「だから、モケモケを呼ぶんでしょ? 一人じゃないよ。モケモケと頑張ってよ」

 モーリッツは不貞腐れたらしく、そっぽを向いて床に寝ろこがった。

 精霊を呼べる数は魔力に比例して多くなるが、強力な精霊を呼べばその分呼べる数は減るらしい。


 俺は、

「仕方ない。ロヴィナを手助けしよう」

「軍隊の戦い方と冒険者の戦い方は違うぞ」

 騎士上がりのカスパーがもっともなことを言ったが、俺たちは魔族には手も足も出ないし、モーリッツがいないと王国軍は敗北するかもしれない。

「まぁ、できる範囲でやればいいだろう」


 ロヴィナがやって来て、俺も何故か会議室へ連れて行かれた。


 偵察から帰ってきた兵の話によると、オットー侯爵の軍はかなり速いスピードで進軍しており、罠などを仕掛ける余裕もないとのことだった。


 王都に常駐する兵や騎士は多くなく、少ない兵での防衛となる。たった500人だそうだ。

 一方のオットーは傭兵らしき部隊もいて、1500人はいるとのことだ。

 傭兵を雇える時間があったとは思えないから、オットーの領地の中にいくつかベーゼ教徒たちの村があり、そこで戦闘訓練を続けてきた村人たちかもしれない。


 将軍は、「領地に救援を送るよう命令しましたので、それまで耐えしのげれば問題ありません。籠城で耐え凌ぐのが最善かと思われます」

 

 市壁の上から弓や魔法をいかけながらの防衛で、時間さえ稼げれば問題はなく、数は少ないがなんとかなるだろうとの見通しだ。


 食料を周辺の村から集め、籠城の準備が進められた。


 市壁は2つある。市全体を覆う第2市壁と城と重要な施設や貴族たちのタウンハウスを囲む第1市壁だ。

 元々、城とその城で働く貴族連中の家などしかなかった場所にそれを覆う壁を作ったのだが、そこに自然と市場ができ、市へと発展していったのだという。


 主な防衛は第2市壁の上から行われる。上から弓や魔法をいかけるのがメインだ。その壁が破られたら、男の市民たちが武器を持って待ち構えている。

 第1市壁の内側では非戦闘市民の女子供や老人が水や食料の運搬などの仕事を担う。


 問題は魔族への対処だろう。

 現状、モーリッツしかできないが仕方ない。

「……数が多いと何もできない」

「モーリッツとスヴェンは第1市壁の付近に待機してくれ。第2市壁で動きがあったらスヴェンは報告。モーリッツはできる範囲で魔族を蹴散らしてくれ」


 3日後、オットーの部隊が王都へと到着し、王都の部隊が市壁の上から魔法や弓を射かけるが、この日はオットー侯爵側に大きな動きがないまま、終わりを迎えた。


 事が動いたのは夜明けに近い薄暗い時間帯だった。

 第2市壁の内側から火の手が上がっているとの報告があり、俺は叩き起こされた。

 ロヴィナも眠そうにしているが、急いで第1市壁へと向かった。


 第1市壁ではモーリッツが精霊を使って、第1市壁を内側から開けようとする兵たちを寄せ付けないように蹴散らしていた。

「……魔族……同士討ち……」

「市民兵たちが魔族に操られてるってことか」

 市に入り込んだ魔族により、市民兵が操られてしまったんだな。第2市壁の門は簡単に開けられ、同士討ちに焼き討ちさせられたか。


 今も市民兵たちがお互いを殺し合っている。

 魔族の数が足りずに、第1市壁の内側ではかろうじて同士討ちが防げてる状態だ。


 この光景に将軍も宰相も絶句している。俺の隣りにいるロヴィナは泣いている。

「嘘だろ……。自分が王になったら、守らなきゃいけない国民だぞ」

「オットーは自分が王になったら、救ってやらなきゃいけない国民。そう思ってるはずだ。辛苦に満ちたこの世界から救いうために殺すんだよ」

「マジでやばいやつじゃん、俺の叔父さん」

「あぁ、お前の叔父さんはマジでやばいやつだ」


 モーリッツが救いを求めるように、

「……僕、もう……限界近い。魔族多すぎて全部……無理」

「ロヴィナ、お前は城に戻って隠れてろ。お前が魔族に操られたり、魔族に操られた誰かに殺されたらまずいからな」

 まずい。

 本当にまずい。


 モーリッツに魔力回復ポーションをがぶ飲みさせてみるが、疲労で集中力が切れてきたらしく、精霊たちへの指示もうまく行かなくなってきている。


 なんとか、術者たちを一網打尽にしないとこのままだと俺たち全員、オットーに救済されてしまうぞ。まいったな。

 なんとか第2市壁へと行きたいと思うが、第2市壁のすぐ内側に広がる市内は火の海でさらに同士討ちの最中。とてもじゃないが行けそうにない。


 火の中を一人の女が歩いてくる。炎に照らされているが、彼女の周囲は魔族のものと思われる禍々しいオーラで覆われている。

 黒くウェーブした長い髪を結い上げている。

 随分と動きやすそうな青色の装束を身にまとい、振り回しやすそうな曲刀を持っている。

 表情は虚ろで生気がない。


 彼女の名前はリーゼロッテ。


 炎と乱戦が繰り広げられる市街地で彼女は腕を振り上げ、踊り始めた。


 彼女は完全に魔族に操られてしまったのか……。


 慌てたモーリッツがリーゼロッテの魔族を払おうと、第1市壁の門を開けさせまいと奮闘する精霊たちをリーゼロッテに向かわせてしまった。


 カスパーとヒルデベルトが門を開けようと魔族に操られている兵士たちを蹴散らすが、こいつらだっていつ操られるかわからない。


「モーリッツ! 戻せ!」

「……で、でも」

「門を開けるわけには行かない!」


 しかしながら、彼女を野放しにしたらまずい……。俺たち全員死ぬ。

 今、ここで彼女を魔法で殺さなければ……。


 俺の手のひらに汗が滲んだ。


 普段なら躊躇わないのに、躊躇う自分がいる。

 なぜだ?


 なぜ、躊躇ってしまうんだ?仲間だからか?


 俺の手のひらの上の炎はどんどん大きくなる。


 彼女の魔法が完全に発動する前に放たなければ……。


 俺は奥歯を強く噛み締めて、彼女が逃げられないほどの特大の炎球を彼女へと放った。

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