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追放悪役令嬢は戦女神の力で世界を救う  作者: 桜雨実世


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ニアとテオの救出

 私は明るい時間帯はオットー公爵の領地の農地へ赴き、豊作の舞を踊り、公爵の城に戻るを数日繰り返していた。

 公爵の領地は広くはないから、領地の端へ行ったとしても城へ日帰りが可能なのだ。


 明日にはオットー公爵の領地を離れるんだけど、ニアとテオの手がかりは一切ない。

 私が踊っている間、アルフォンスたちはニアとテオの居所を探しているんだけどね……。


 ヒルデベルトが、

「いると思ったんだけどなー。ねぇ、見つからないから旅芸人一座として国中回るの? 悪党から鞍替えかー」

「そういうつもりじゃなかったんだけどな」

 アルフォンスは困ったように苦笑いをした。


 誰もがニアを誘拐したのならオットーだろう。なら、オットーの領地にいるだろうと思っていたのだ。

 私としても旅芸人一座の踊り子として、どさ回りをするのは嫌だ。


 私はオットー公爵の領地で最後の舞をするためにとある村へと向かった。

 この村はオットーが公爵になった時に新しく作られた村で、町からほど近い場所にある。

 最後になったのはオットー公爵の希望だからだ。


 村人たちは他の村と同じように、私たちを歓迎してくれた。

 私は踊り、帰ろうとしたところ、村が騒がしい。


 ヒルデベルトが騒ぎのほうへ行こうとした所、村人に静止された。

「そういわれると、ますます気になるなー」

 素早い動きで村人たちをかわし、騒ぎのほうへ向かった。


 騒ぎの中から、「リーゼロッテ!」というテオの叫び声が聞こえた。

 私の近くにいた村人が私を取り押さえようと掴みかかってきた。

 私はいきなりだったから、身がすくんでしまうが、瞬間、村人は近くにいたカスパーに吹き飛ばされた。


「行くぞ!」

「は、はい」

 私はカスパーの後を追いかけるように走り出す。


 村人たちが私たちの行く手を遮ろうとするが、カスパーが槍を振り回すし、アルフォンスは火球で牽制する。だから、村人たちは私たちに近づけない。


 村人たちの武器の構え方は素人のそれじゃないから、かなり訓練されているようだ。ということは、ここは普通の村じゃないのだ。


 アルフォンスが予備のナイフを押しつけるように徒手の私に渡した。豊穣の舞を踊っていたので、武器を持っていないのだ。

「持っておけ」

「感謝しますわ」


 禍々しい嫌な雰囲気を感じたと思ったら、黒い禍々しい光の玉が辺りを漂っていた。

 光は異形の形となり動き出した。なんと醜くおぞましいのでしょう。

 これが……魔族?


 モーリッツが精霊を呼んで、実体化させ戦わせ始めた。


 アルフォンスが魔法を放つが魔族には効かない。

「術者は誰だ!?」


 私はナイフに神力を込めて、魔族を斬り伏せた。


 モーリッツとヒルデベルトが村人たちを追い払いながら、泣きじゃくるテオを救出した。


 村長と思われる男が、村人たちに、

「オットー様とムスカ様の邪魔をさせるな! ベーゼ教の未来のためにかかれ!」

 号令を発された村人たちは武器や農具を手に私たちに襲いかかろうとしてくる。


 アルフォンスは容赦なく、襲いかかってきた屈強な男を一瞬で焼き払った。

「容赦はしない!」

 炎を見て騒然とする村人たち。

 一人の女性が焼かれた男性の傍らに膝を落とし、泣きだした。


「死こそ救済とほざいている割に、死んだやつを悲しむ正常な神経は持っているんだな。俺たちの邪魔をするならどいつもこうなるぞ。この世界から救われたいやつからどんどん来い」


 私もアルフォンスがいきなり男性を焼いてしまったので驚いて、腰を抜かしてしまった。

 人が……、人を……。


 それを察したアルフォンスがまずいという表情をしたが、言葉が出てこなかったようだ。


 カスパーが動けなくなった私を抱きかかえ、テオの元へと走り出した。そして、言った。

「きっと殺さないで済むいい方法もあったんだろうさ。だが、強そうな奴を一人殺せば、大勢が怯んで戦意が削がれる。結果的に犠牲は少なくなる」

「そ、そうなんですの」

 私は嫌悪や吐き気を無理やり飲みこんだ。


 テオはすでにヒルデベルトに保護されていて、村人たちが血を流しながら倒れてる。


「この人たちも死んでるんですの?」

「僕に襲いかかってきたからね。僕が戦った村人はかなり戦闘訓練積んでる連中だったよ。魔法も使うしさ」

 ヒルデベルトも服が焦げている。炎の魔法が当たったのだろう。


 スヴェンがやって来て、「入口が見つかったですよ。この入口からオットー公爵の城の地下に繋がってたですよ。ただし、公爵の城や街の中には出入り口がなかったですよ」

「だから、見つからなかったんだ」


 私はカスパーに、

「もう自分で動けますわ。ニアを救出しに行きましょう」

 アルフォンスがやって来て、私に、

「大丈夫か?」

「もちろん大丈夫ですわ」

「ここからはもっと派手に行くぞ。テオ、道案内できるな!?」

「うん」

 テオは頷いた。


「さっさと救出して、王都へ行くぞ。スヴェンはオットー公爵の城の近くで馬車を確保してくれ」

「承知いたしました」

 そう言うと、スヴェンはキメラに変身して空を飛んだ。不可視の魔法を使っているから姿は見えない。


 私たちは村にある城の地下への通路を走りながら進む。

 私が、

「村人たちを皆殺しにしたんですの?」

「まさか。襲いかかってきたやつだけだ。そんなことしてたら、魔術師たちの救出前にオットー公爵の元へ向かった村人が公爵に報告してしまう」


 テオは先導しながら、

「俺、ずっと死ぬのがいいことなんだっていう勉強ばかりさせられてたんだよ!」

「邪教の英才教育というやつか」

「村人たちもそんな感じで育ってんだろうね」

「違いない」

 アルフォンス、ヒルデベルト、カスパーが勝手な感想を述べるが、それよりも禍々しさが増している。


 目の前に黒い光が現れた。そして、半透明の醜い異形となった。

「……魔族」


 魔族はアルフォンスやヒルデベルト、カスパーの体の中に入り込んだ。

「うわー」

 ヒルデベルトは驚きの声を上げながら、魔法剣を振り回し始めた。

 アルフォンスは進んで魔法剣の餌食になろうとするのをモーリッツが精霊で無理やり止めた。

 カスパーは槍を私とモーリッツに向ける。

「体が……勝手に!」


 モーリッツが

「……聖なる精霊よ。魔を払い給え」

 私もヴェンデルガルトの言葉を思い出し、神力を放つ。

 やりすぎたのかカスパーが景気よく吹き飛んでしまったが、体から魔族が出ていった。


「痛いぞ、リーゼロッテ」

「ごめんなさい」

   

 これでも手加減したのだ。

 私はカスパーの体から飛び出した魔族にさらに神力を放つと、魔族は悲鳴を上げ、のけ反って消えていった。


 自由を取り戻したアルフォンスは魔法を魔族に放つが、

「駄目だ。女神の言った通り、全然効かないな!」

「ここに聖女でもいたら、一網打尽なのでしょうけれど」

「聖女の聖属性の魔法より君の神力のほうが実はすごい気がするけどな。君の扱う神力なるものは聖属性をより純化したもののように思える」

「そうなんですの? よくわかりませんわ」


 私にわかっているのは千年くらいは生きる体になったら、放出できるようになった不思議な力というだけだ。


 ヒルデベルトが、

「モーリッツとリーゼロッテしか通用しないじゃん、ここ。僕いる意味ないじゃん」

「頭がおかしい連中しかいない村に戻るか?」

「それも嫌だな。あの村人ほとんどが戦闘訓練してるよね。救いを与えに、隣村の連中でも殺し歩くために訓練してんのかな」


 禍々しさは増してくるが、私とモーリッツでなんとかやりすごす。

 そして、地下牢に閉じ込められた魔術師たちを見つけた。中にはニアもいて、虚ろな表情で踊っている。

 魔法が発動しているようだから、あれが不作にする舞なのだろう。


 私は鉄格子の扉に手をかけ、

「鍵がかかっていますわ」

「君は育ちが良すぎるぞ。こういう時はこれに限るんだ」

 アルフォンスはそう言うと、私の手を引き、後ろに下がった。


 ヒルデベルトが魔法剣で一刀両断する。

「ね? 簡単でしょ」


 モーリッツが精霊の力で魔術師に取り付いた魔族を追い払う。

 私の裾を掴んで、

「神力……ぶつける。でも、……吹き飛ばさないように」

「わかりましたわ」


 私は言われた通り、神力を魔術師たちに放ち、正気に戻していく。

 正気に戻ったニアが、

「あなたたち……」

「話はあとだ。逃げるぞ!」

 アルフォンスの言葉の直後、建物のどこからか轟音が響いた。


「?」

「大丈夫だ。スヴェンが暴れてるだけだ」

 私が心配そうに上を見上げると、カスパーが答えた。


 アルフォンスが、

「出口を作るぞ」

 直後、天井に魔法をぶつけ、穴を開ける。


 魔術師と私たちはモーリッツの精霊に抱きかかえられたり、飛行魔法を使ったりしながら、地下を脱出する。


 だが、途中で、大量の魔族が出現した。

「ベーゼ教の未来のため、お前たちを行かせるわけにはいかん!」

 そう言って立ち塞がったのは、黒いマントで全身を覆った壮年の男だ。


 テオが、

「あいつが変な魔法を使うんだよ! 司祭とか言って偉ぶってるしさ」

「ムスカ様といえと教えただろ!」


 ムスカの魔族のせいで、魔術師たちの意識や体が乗っ取られていくのをモーリッツと私の神力で元に戻す。


「早く行って! ここは私が食い止めますわ。必ず追いつきますから、皆は早く王都へ!」

 ヴェンデルガルトは言った。魔族を止めるには術者を倒せと。


 今、術者と戦うことができるのは私とモーリッツだけ。でも、モーリッツの精霊は魔術師たちの逃亡の手助け中。


 私なら魔族を蹴散らしながら、ムスカを叩ける。


「任せたぞ!」

 アルフォンスの言葉を背に、私はムスカと向き直り、神力を魔族たちに浴びせ、ムスカに近づくが、私の刃は届かなかった。


 体に痛みが走ったあと、体が動かなくなった。


「やったぞ、ムスカ! 神の踊り手を我らが手中に入れたぞ」

 オットーの声がする。


「一体何を……」

「失礼ながら、背後から踊り手殿の体に麻痺矢を射たせていただきましたぞ。ハハハ」

 ムスカが魔族を私に放つ。


 私の中に魔族が入ってきて、私の意識を奪おうとする。

 私は意識の奥深くへと沈んでいった。


 こんな時に前世の母と今世の父との記憶を思い出していた。


 芽衣子を芸能人にしようと必死だった母。

 逆らうとヒステリーを起こされた。

 私は自分が抱きしめている女の子の人形のように母の人形になるしかないのだと諦め、人形になることを決めた幼い私。


 リーゼロッテを立派な未来の当主にして領主にしようと厳しく当たった父。

 泣くと、お前が立派な人間にならないとよその女と再婚した俺の立場がないと本音を吐いた父。

 私は人形になるしかないのだと諦めた。

 自分の心を押し殺し、自分の心をひた隠し、人形として生きることを決めた。


 魔族が私を支配しようとしている。


 私はゆっくりと目を閉じた。


 ごめん、アルフォンス。

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