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追放悪役令嬢は戦女神の力で世界を救う  作者: 桜雨実世


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オットー公爵の領地へ

 私は王都で豊穣の舞を踊ったあと、オットー公爵の領地へと馬車で向かった。

 時々、広がる農地は野菜や蕎麦が健やかに育っているように見えるが、近くで見ると生育不良のものも多かったり、実つきが悪いものも少なくない。


 農民たちは疲労と不満の表情を浮かべながら、農作業に従事している。

 不作続きだから生活も苦しい者たちが多いはずだ。


 もっとも農民たちの生活は領主がどれだけ税を課すかで変わってくるものでもあるが。

 もし、本当にオットーが不作の呪をかけているのなら、農民たちは生活が困窮するギリギリ耐えられるレベルでの不作にしているに違いない。


 クララ王妃や王国への不満は募るが、大規模な一揆にまでは発展しないというレベルだ。

 民や貴族たちの王国への不満を蓄積させ、王妃が実権をオットー公爵に渡さざるを得なくなるように追いこむやり方は、まるで王妃の首を真綿で絞めているようだ。


 もっとも挙兵して、一戦交えて王権を奪取しようとしても侯爵側には大義名分がないから、無事に王権を奪取できても単なる簒奪者となり、安定した統治はできないかもしれない。


 ニアとテオのこともあるので、オットー侯爵の領地へ急ぎたかったが、途中の街の市長や村長たちに乞われて、リーゼロッテは踊った。

 豊作祈願の舞の旅という名目上、断るわけにはいかなかったのだ。


 疲弊した農民たちが農作業に従事する光景はオットー侯爵の領地に入ってからも同様だった。

 領都ミスエルンテまでの道中、請われるままに踊った。

 目と鼻の先まで来たのに行けないから、とてももどかしい思いだ。


 こんな感じでちんたら進みながら、10日ほどで領都ミスエルンテにたどり着いた。普通に進めば、5日で行ける距離だ。


 街の北部にオットーが住む城がある。城といっても館を少し大きくした程度の大きさだ。

 もしも、魔術師たちが囚われているのなら、この城のどこかが有力だろう。


 私たちは領主であるオットーに挨拶するため、城へと向かうが、神の踊り手を一目見ようと人々が沿道に押しかけ、まるで見世物のようだ。


 アルフォンスは露骨に顔を歪めた。

 私は不思議で仕方がない。

「どうしたんですの?」

「俺は見世物じゃない」

「?」


 私は幼い頃から、領主の娘として領民たちの目に晒され、前世でもステージに立っていたから、見られることが普通だった。

 だから、アルフォンスがなぜ気分を害しているのかよくわからない。


「君は多くの人に見られるのが気にならないのか? 俺は嫌だぞ。もう一度言う。俺は見世物じゃないんだ」

「あぁ、そういうことですの。別になんとも。石ころが気にならないのと一緒ですわ」

「君にとっては路上を歩く人々は路上に落ちてる石ころと一緒か」

「一緒ではありませんけれど、視線に関して言えばそうですわ」

「俺は山奥の誰もいない場所で育ったから、人の目には慣れていないんだ」


 ヒルデベルトが、

「あのさぁ、山奥関係ないと思うよ。普通の市民でこんなに大勢の人に見られながら歩くのって、執行台に連行される犯罪者くらいだよ。普通は気分悪いか緊張しすぎるよ。ほら」

 そう言って指さしたのはモーリッツだ。

 お腹を抑えながら、下を向いて歩いている。


 私は過去を振り返りながら、

「領主の娘として、領民たちの見世物になることもたまにはありましたから。こういうのは慣れていますわ。王になるのなら慣れたほうがいいですわ」


 城へと入場すると、モーリッツが呻いた。何かを感じたのだろう。

 私の裾を掴み、

「……早く……帰ろう」

「我慢なさい。オットー公爵の加齢臭を敏感に嗅ぎ取ったのかもしれませんけれど、早々に退散するのは失礼ですわよ」

「君のその発言もかなり失礼だぞ」

 アルフォンスに窘められた。


 謁見の間にてオットーとの謁見である。

「神の踊り手が最初に我が領地に来るとは。歓迎しよう」

「歓迎していただき感謝いたします」

 私は頭を下げた。


「思う存分に舞っていただき、我が領土に豊作をもたらしていただこう」

「ご期待に添えるように精一杯勤めさせていただきます」

「しばらくはこの城に滞在するがよかろう」

「ありがたきお言葉感謝いたします」

 モーリッツが首を横に振ろうとしたが、カスパーに首根っこを掴まれ、がっしりと固定された。


 謁見後はオットー配下の貴族たちとの晩餐会となり、ニアとテオ探しどころではなく初日は終了した。


 用意された部屋で寛いでいると、アルフォンスが、「この城から何か禍々しいものを感じる」

 モーリッツが、「精霊が言ってる。魔だって……。早く帰りたい」


 カスパーが、「帰るわけにいかないぞ。魔を感じるということはこの城のどこかに閉じ込められているのか? 少し調べてくる」そう言って、部屋を出ていった。


「……精霊に探させる」

 モーリッツは精霊を呼び出し、精霊たちに城の中を探すように命じた。


 アルフォンスが、

「魔法で何か隠されていないかスヴェン調べてきてくれ」

「お任せください」

 スヴェンも部屋を出ていく。


 私は不思議そうに、

「カスパーはどこに行ったんですの?」

「この城の地下とかをこっそりと調べに行っただけだ。捕まらなければそのうち戻る」

「まぁ。捕まったらどうするんですの?」

「その時はその時さ。悪党らしいだろう? 本来の俺たちは悪党なんだ」

「そういえば、そうでしたわね」

「君は今まで散々踊らされてきたんだから、休むといい」


 アルフォンスの言葉に、私は頷いた。

「私ができることは何もないようなので、お言葉に甘えさせていただきますわ」


 そう言って、あてがわれた部屋へと入り、寝間着に着替えてからベッドに横たわった。

 横たわった。天井を見上げてボーッとした。


 ぼんやりとしていると、何か嫌なものを感じる。

 おそらく、これがアルフォンスの言った禍々しいもので、モーリッツが言った魔なのだろう。


 気にしていても仕方がないので、目を閉じた。


 翌日、アルフォンスから城を密かに捜索したが、ニアとテオは見つからなかったと伝えられた。

 数日は公爵の領地に滞在するから、まだ探す時間はある。

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