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追放悪役令嬢は戦女神の力で世界を救う  作者: 桜雨実世


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再誕のリーゼロッテ

 私が目を覚ます前。魔石を破壊した直後のこと。

 肉体の意識は失ったが、私の精神は違う場所にいた。ここがどこなのかわからないけれど、私は私の体から私が完全に離れていこうとしているのを感じていた。


 ううん、正確には私の体はとっくに限界を迎えていた。精神なのか意識なのか魂なのかわからないけれど、とにかく体はそういう目に見えないものを、中に入れておくことができなくなっていた。


 それでも、ギリギリ体に留まっているのはヴェンデルガルトの力だった。


 ヴェンデルガルトと私はよくわからない場所で向かい合っていた。二人で傷ついた私の体を上から見つめていた。


 ヴェンデルガルトは言った。

「お主、生きたくはないか?」

 私は正直困った。

「どうだろうな。人間が死んでる間、どうなっているのか全くわからないけれど、生きていても辛いこと多いし楽しいことは少ないし」

「普通は生きようとすると思うのじゃがのう」


 ヴェンデルガルトの困惑に対し、私が正直に、

「前の人生でもあんまりいいことなかったしね」

「前の人生?」


 私は変な顔をされるのかなと思いながら、地球から生まれ変わってきたことや地球での人生を伝えた。


「ふむ。人間の意識とは不思議なもので、異世界の断片が物語などとして伝わることがある。男をたぶらかし、男を口説く乙女ゲームの物語としてこの世界が伝わったか」

 恋愛ゲームとは説明したけど、たぶらかしたり口説くとまで言ってないわよ。

 でも、ハーレムエンドとかもあるし、間違ってはいないのだ。


「でも、それって変じゃない。テオバルト王太子やマーヤは今生きてるし、私が乙女ゲームをしてたのは十八年前だよ」

「魂の円環の中では時系列などめちゃくちゃなものよ。それに、予知のような形でまだ実現していない未来が映り込むこともある」

「不思議だね」

 私は魂の円環とやらを想像してみたが、まったく想像できなかった。

「魂や時の円環は神すら手出しできぬ領域じゃ」


 私は確認するように、

「じゃぁ、私が今死んだら、その魂の円環とやらをまた回るだけなのかな。どうせ死んでもどっかで新しい私? それとも、僕や俺? ま、とりあえずそういうのになるのかな」

「妾もよくわからぬが、そうなるのではないか?」


 私はレーヌの町を守った。最初から死ぬことがわかっていたから、正直未練はない。


 私は笑って、

「じゃぁ、もう死んでもいいや。芽衣子とリーゼロッテの記憶を消せるなら、今の辛い気持ちもなくなるから、一瞬だけ楽になれるもん」

 そう言った瞬間、心の鎖が溶けた気分だ。


 私は言葉を続けた。

「今は気持ち的に楽になりたいかな。だから、ヴェンデルガルト、もう私の体のために瘴気とか魔の力を神様の力に変えなくてもいいよ。今までありがとう」

 ヴェンデルガルトはムッとした表情になった。


 私は自分の人生を改めて思い返した。

「地球だとママのために頑張っても報われなかった。生まれ変わってもマーヤたちや義理の弟からは邪魔者扱いだし」

 私は自然と苦笑いをしていた。

「これからも生きてこんなのが続くなら嫌じゃん。新しい人生で幸せな家族を持つことに賭けてみるよ」


 それを聞いたヴェンデルガルトはすごい剣幕で、

「許さぬ! なんじゃ、一人だけ悟ったような物言いで」

「え?」

 私は彼女のあまりの豹変ぶりに驚いた。


「お主が散々、周囲からないがしろにされてきたのはわかった! 少しは仕返ししたいとか思わぬのか! 妾ならするぞ!」

 えぇ? 神様なのに?


 私は困惑していた。一方の女神の怒りは収まらない。

「新しい人生に賭けるとは何事じゃ! 人生はギャンブルと違うのじゃぞ! 今のお前は生まれ変わっても、似たりよったりのことでまた苦しむぞ!」


 私は驚いて尋ねていた。

「どうして、わかるのさ?」

「人生とは得てしてそういうものだからじゃ。ついでじゃから、妾の話をしてやろう」

「あなたの?」

「そうじゃ」

 そう言って、ヴェンデルガルトは自身の過去を語りだした。


 彼女は過去は神様に仕える天使だったという。人々と魔物との争いを見かねて、羽を捨て地上へ降りたのだという。

「その時の妾は、弱い人間たちに変わって、魔物どもを滅ぼしてやろうとしたのじゃ」

 随分、過激な神様だ。


 人々は常に疲弊していたので、彼らを元気づけるために歌い踊った。そして、ともに剣を取り戦った。


 調べるうちに魔物の発生の理由の1つに人々の怒りや嘆きの感情だということを突き止めた。


「魔物はネガティブなエネルギーが寄り集まって生まれてしまうのじゃ。じゃから、この世界では魔物は消えぬ」

「じゃぁ、永遠に救われないじゃん」

 私は唇を尖らせた。


「妾はそれでも救おうとしたのじゃ。人々の嘆きや悲しみをもう見たくはなかったからのう」

 人々が怒りや嘆きをなくせば魔物はいなくなると思い、さらに、歌い踊り人々を慰め、癒やした。そして、戦った。


 だが、魔物は溢れてくる。尽きることはない。

 魔物のせいで人類や生き物たちは滅亡しかけたこともあったそうだ。


 ここでヴェンデルガルトが私に向き直り、

「その時、さすがの妾もすっかり疲れ果ててしまった。人間や世界に絶望し、天へと帰る方法を探していた」

 仕方なく、世界を彷徨った。


 もうこの時のヴェンデルガルトは人々を癒すことすらしなかったという。

 しかし、世界を彷徨い気づいたのだという。


 人々は怒りや絶望、苦しみというネガティブな感情をエネルギーにして、前へ進むことに。

 決して、誰かを傷つけたりという悪い方向ばかりではなく、「自分が苦しい思いをしたからこそ誰かを助けよう、救おう」という明るい方向へ進むことに。


 ヴェンデルガルトは私に、

「蓮の花が泥の中から咲くように、怒り、絶望、不安、恐怖、嫉妬そういった汚い感情から、愛や希望といった尊い感情が生まれるのだと。じゃから、人々のネガティブな心が姿を持った魔物を消すばかりではいけぬと。その魔すら、力にせねばいけぬと」


 それから、ヴェンデルガルトは魔物たちが持つ魔の力を吸収し、自らの力にする術を長い時間かけて身につけた。

 天使だったから、魔の力を消滅させる浄化は容易かったが、魔の力が消えないように自らの力へと変換することは大変だったという。


 自身も魔の力に汚染され、死にかけたり魔物になりかけたりと様々な苦労があったという。


 だが、ヴェンデルガルトはそれを成し遂げ、魔の力を神力に変換することに成功した。大量の神力をその身に宿すことにより、自身は神となり、天へと戻った。


「神は存在が特殊で、地上と天を行き来できる。しかし、地上では肉体を持てぬゆえ、何もできぬのじゃ」


 その後、天から私のように神を憑依する才能を持った踊り手たちに、力を貸すことで、世界中にあった巨大な魔石を破壊。世界を安定化させることに成功した。

 魔物をゼロにすることはできなかったが、人類滅亡は防ぐことができた。


 ヴェンデルガルトは、

「お主の自由に生きるためにレーヌで死にたくないという意思、レーヌの人々や街を守りたいという強い気持ちが妾に届き、妾は応えた」

「そうだったんだ。でも、今の私はなんかもう満足しちゃったし」

 レーヌの町を救うことで私の心はすっかり満足した。やりきったからこれ以上本当に生きなくてもいいのだ。

 私が切望していた旅は、生まれ変わってからゆっくりすればいい。


「応えるにも相応の踊り手でなければ、応えてはやれぬ」

 言われて、私は自分でも驚いた。

「私って実はすごいの? 地球だとオーディションに落選し続けたのに」

「お主はすごい踊り手じゃ。踊る場所によって求められる適性が違っただけじゃ」

 理不尽すぎる。


「のう、リーゼロッテ。お主には妾がおる。お主は聖女ではないが、魔石を壊せた。これからもこの世界には魔物が現れ、人々を苦しめる」


 ヴェンデルガルトは切ない表情できっぱりと言った。

「それが、この世界の宿命だからじゃ。魔物以外でも人同士の争いなどが起こり、人々は苦しんでいく。それが人の業だからじゃ」

「それじゃあ、世界も人間も永遠に救われないじゃん」

「そうじゃ。救われぬのじゃ。宿命は神でも変えられぬ。業もまた変えられぬ」


 私は正直がっかりした。

 永遠にこの世界は魔物と戦わないといけないし、人間は些細なことから大きなことまでとにかく争うのだ。


「じゃが、その過酷さや愚かしさや悲しさから愛や叡智が生まれる。愚かしいから醜いからこそ世界は人々はそれから学び、糧としてより良い方向へと変わることができる」

「でも、世界は変わらないんでしょ?」

「変わらぬ」

 ヴェンデルガルトはきっぱりと言った。

 

 そして、続けた。

「じゃが、お主は変わることができる。お主以外にも人は変わろうと思えば、変われる。お主は人々を救う力を手に入れた。その力を活かせ」

「あー。普通だったら二つ返事で頷くんだろうな」


 けれど、ため息混じりに言葉をつなぐ。

「でもさ、面倒くさいんだよ。生きるのって辛いことが多いじゃん。やっぱり家族と縁切られたことや王太子に壇上で大恥かかされたのを気にする自分もいるしさ。正直しんどいんだよ」


 ヴェンデルガルトは苦笑した。

「若いのう。気になるものは仕方がないし、怒りや悲しみ、挫折といった感情に振り回されたくないのもわかる」

「でしょ」


 ヴェンデルガルトは私の胸の中心に手を当てた。

「だからこそ、生きよ。その感情こそがお主の心の糧となる。もっともっと怒りや悲しみ。不安、恐怖、絶望を知るのじゃ。その経験の果てに、お主の苦しみは消え去り、心の中に花が咲く」

「花?」

「誇りや真なる心の強さじゃ」


「あぁ、そうか。花が咲かない限り、何度生まれ変わっても私は苦しむのね」

「そうじゃ。苦しみから解放されたいのなら、生きるのじゃ」

「でも、私の体は……限界だよ。腕ももげちゃったし。ずっと魔の力を神力に変換して注ぎ続けなきゃ生きられないなら、生きないほうがいいよ」


「大丈夫じゃ。今は死なない程度の神力しか込めておらぬ。大量の神力をお主の体に注ぎこめば、腕も生えよう。お主はそれができるだけの魔を吸収した」

「腕も映えるなんて便利だね」

 私は思わず感心した。


「そうじゃろう。じゃが、神の力を注ぎこまれたその肉体は人の体ではなく、神と人の中間になる。うーむ、神人というやつじゃな」

「人間じゃないの?」

「まぁ、しょうがない。妾は治癒は専門外じゃ。舞芸と戦の女神じゃから医療神のような繊細なことはできぬ。基本、雑で荒っぽい治し方じゃ」


 ヴェンデルガルトは歌いながら、私の体に神力を大量に入れる。

 私の死にかけの体も唇が少し動いて歌っている。

 歌の影響か黄金色の神力で周囲が輝き、草が生え始めた。

 木も生えてきた。

 いつの間にか転がっていた私の大事な右腕がない。どこいった?


 私は私の蘇生風景を眺めながら、

「ふーん。神人ってでもなんかすごそうだね」

「人間より頑丈になるくらいじゃ」

「あー、耐久力とか身体能力が上がるんだ。ステータス上昇ってやつね」

「まぁ、死にづらくはなるのう。老いもせず、寿命が伸びる。精々、千年じゃから結構短いけどな」


 え?

 嘘。

 寿命長すぎない?

 周りの人、皆、死んじゃって、私一人ぼっちじゃん。

 500年前は良かったとか一人で懐かしんじゃうの?

 淋しい。

 っていうか、一人だけそんなに寿命長くて老けないなら、異常者じゃん。


「あ、やっぱりいいです。そんなに長く生きたくないです。とりあえず、今すぐ死なせてください」

「何を言う! たったの千年じゃぞ! かなり短いぞ。それより終わったぞ。さぁ、生き返れ! なんかよくわからぬが、お主の周囲に人が集まっておる! まるで、お主見世物じゃな! ホホ」

 

 私と女神がやりとりをしている間、セバスチャンが横たわる私に斬りかかろうとする。

 それをアルフォンスが防ごうと、私の体の前に出た。

 このままでは、セバスチャンという金を持っている権力者の家に生まれただけが、取り柄のクソつまんねーガキに刺されてしまう。


「アルフォンス! 危ないですわよ!」

 私は気がつけば、自分の体に戻り、動いていた。

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