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追放悪役令嬢は戦女神の力で世界を救う  作者: 桜雨実世


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聖女と王太子の到着とリーゼロッテの復活(アルフォンス視点)

 俺はスヴェンとリーゼロッテを見送ることしかできなかった。自分の力のなさに不甲斐なさや無力さを感じる。


 彼女は臆することなく、皆を救うために死地へと向かった。

 自分では気づいていないようだったが、盗賊に襲われて崖から飛び降りたり、王太子のお気に入りの少女に苦言を呈したりとかなり度胸があるから、死地へも行けてしまうのかもしれない。


 俺の魔法のせいで片付けることができなかった死体の一部が完全に焼失してしまった。誠に申し訳ない。


 炎が消えたあとは町の人々が炎から残った死体たちを急いで回収していく。魔物が来るまでの短い間しかできないことだから、多くの人々が急いでいる。


 しばらくして、スヴェンが戻ってきて、

「あのお嬢さんは臆することなく魔物に向かっていきました。黒い瘴気の中に突入後は姿が見えなくなったので、無事かどうかはわかりませんねー」

「そうか」

 俺は目を細めて、遠くに見える瘴気を見つめた。黒い瘴気は天高くまで広がり、禍々しい。


 しばらく眺めていたが、やはり大量の魔物が瘴気の方角から迫ってきた。

 兵士たちや魔術師たちは疲労困憊だが、街を守るため、戦う準備をする。

 兵の数は当初より半数以下に減ってしまった。


 俺は詠唱を唱え、魔法を放つ。炎で死ななかったら、氷の魔法、それでも生きていたら、雷の魔法を使いま物を殲滅していく。

 魔法をかいくぐってきた連中をカスパーや戦士たちが倒していく。


 魔法は魔力以外にも集中力も必要になるから、通常は長い時間魔法を行使することができない。

 俺は人よりも長く集中することができるらしい。母も同様だったと俺を育ててくれた叔母が言っていた。


 俺は魔力ポーションをがぶ飲みしながら魔法を連発する。


 ロヴィナもハープを弾きながら、仲間をバフする。


 戦いが始まって、半日経った頃、天高く覆っていた瘴気が徐々に晴れていく。

 それでも、町の周辺には魔物がいるのでそいつらを根こそぎ倒す。


 だが、新たな魔物はやって来ない。


 やったのだ。


 彼女は。


 一人で成し遂げたのだ。


 ロヴィナは泣き出した。

「ヴェンデルガルド様を降ろした本物の踊り手様のお力だ」

 異国の戦女神だったか。


 街の壁の上から様子を見守っていた市長のデニスが叫んだ。

「リーゼロッテ様! リーゼロッテ様万歳!」

 生き残った兵士たちもリーゼロッテ様万歳と唱和し始めた。


 彼女を迎えに行かなければ……。そう思うが、俺は魔法を使いすぎて動けなくなっていた。頭が痛い。


 兵士たちの回復に当たっている神官が心配そうに回復魔法を使おうとしたが、

「いや、魔法の使いすぎだ。怪我人を回復してくれ」

 神官は頷いて、怪我人のもとへ急いでいった。

 モーリッツも精霊改めモケモケを召喚して、怪我人たちを回復している。モケモケたちの力は神官の魔法よりも高い威力を持つから、瀕死の兵士であっても回復魔法が間に合わずに助からなかったということはないはずだ。


 魔物との最後の戦いでやはりボロボロになっているスヴェンが、

「娘が心配なのはわかりますが、今は休む時です。もう娘は生きてはいないのですから」

「彼女の祖父は魔石の破壊後、苦しみながら亡くなったそうだ」

「だとしても、娘を救う術はないのです。休んでください。娘の言葉を忘れたのですか? 王になってくれ、それはあなたしかできないと」

「……そうだな」

 俺は仕方なく部屋へと戻り、休んだ。


 王太子と聖女一行がやって来たのは翌日の昼過ぎのことだった。

 俺はリーゼロッテの迎えに行きたかったが、市長が活躍をした魔術師をどうしても王太子に紹介したいから同席してくれと頼まれてしまった。


 断りたかったが、王太子が戦った者たちを労いたいとのことで、行かざるを得なかった。庶民ゆえに王族の言葉には逆らえない。

 母を殺した一族の息子に労ってもらいたくはないのだが。


 王太子テオバルトに聖女マーヤ以外にもリーゼロッテの異母弟のセバスチャンが従っている。


 テオバルトは挨拶に出迎えたデニスに向かって、

「遅れて済まなかった」

 市長のデニスは丁寧に応対する。


 兵士たちをテオバルトとマーヤは丁寧に労う。

 もしや本当にこちらに来れない事情があったのだろうか。


 デニスがテオバルトに、

「多くの者たちが犠牲となり、特に魔石を破壊したのは……」

「あぁ、そうだったな。マーヤ、このあとは魔石を破壊しに行こう!」

 何を言っているんだ? 魔石を破壊したのはリーゼロッテだ。


 デニスが慌てて、

「魔石はリーゼロッテ様が破壊されたのです。ゆえにこの平和が」

「リーゼロッテ? 誰だそれは?」

「リーゼロッテ・アンブロス・フューラー様です。かつて王太子殿下のご学友で」

「あぁ、彼女か。彼女がそれを成し遂げるはずがない。勘違いもよしてくれ。今はマーヤがここに来たから、魔石の力が弱まったに過ぎない」


 異母弟のセバスチャンも、

「殿下のおっしゃるとおりです。何をやってもパッとしないで、聖女様に文句ばかり言う冴えない女ですよ。あの女が何かを成し遂げるなんてできるはずがない。概ね魔物に突っ込んで死ぬのが関の山ですよ」


 彼女は命をかけて、この街を救ったんだぞ。そんな言い方されるとさすがに、俺もブチギレそうになったが、ここで暴れては元も子もない。


 デニスは開いた口が塞がらなかった。

 町の中に入った王太子一行は、

「ところで怪我人はどこだ? まだいるだろう。マーヤに治療してもらおう」

「神官たちやモーリッツ殿がすでに……」

「何? そんなわけあるか。大量の怪我人が出ただろう。神官だけでは治療できないだろう」


 そんな訳あるかのセリフはこっちだ。

 戦いが終わってから一日経っている。怪我人を放置するわけないだろう。徹夜で回復魔法を使っていたのだ。


 道を走って勝手に転んだ幼女が膝を擦りむいて、泣き出した。

「マーヤ! あの少女を回復するんだ」

「はい、テオバルト様!」


 マーヤは聖女の力で治癒の魔法を使い、幼女を回復した。

「これで、傷ついた町の人々はマーヤの力で癒やされたな。レーヌの人々よ、安心してほしい」

 傷ついた町の人々? 聖女が治したのは勝手にすっ転んだ幼女一人だぞ。

 これをレーヌの魔物討伐における自分たちの実績にしようとしているのか?

 こんな奴が将来の王なのか。俺の異母弟なのか。国の将来が心配になってくる。


 市長のデニスもあんぐりと口を開けている。


 だが、王太子たちのショーは終わらない。


 次は死した兵士たちを弔うのだといい、王太子は聖女に花を持たせる。そして、死んだ兵士たちが収容されている広場へとやって来た。

 

 惨たらしい死に方をした兵士を見た聖女は、「きゃぁ、怖い!」と叫び、花を床に投げ落として、テオバルトの胸に顔を埋めた。


 テオバルトは眉をひそめながら、

「おい! こんな汚いものを俺たちの前に見せるな! せめて布で覆え!」

 そんな余裕があるか。


 さすがに、レーヌ市長も市民も神官も街を守るために戦って死んだ兵士を汚い呼ばわりされて、顔を赤くしたが、王太子相手だから黙っている。

 奴らは気を取り直して、町の外へ行き、

「さぁ、残党狩りだ。まだ、この辺り一帯には魔物がいるはずだ」

 このあたりはきれいに片付けたのだから、いるわけないだろ。


 俺の横にいたロヴィナも小声で、

「ひどい連中だ」

 ともっともなことを言った。


 ひどい連中は存在しない魔物を求めて、あたりを散策する。

 テオバルトは自信満々に、

「マーヤの聖なる力に恐れをなして、魔物どもは逃げたんだな! それでは魔石を破壊しに行くか」

 こいつらは雲でも掴みに行くつもりか。


 俺は馬鹿らしくなって、リーゼロッテが永遠の眠りについている魔石があった方角を見つめた。


 ……なんだ、あの光は?


 小さいが、黄金色に光っている。


 リーゼロッテ?


 君なのか?


 あの光の主は?


 いや、あんな美しい光を人間が魔法を駆使しても生み出せるわけがない。


 俺は光のほうへと歩き出した。


 光に気づいたテオバルトたちも、

「あの黄金色の光はなんだ! 報告ではあの方向に魔石があるとのことだったな! 市長」

「は、はい……」

「あれは魔の光に違いない! 行くぞ! 俺たちで魔を滅ぼすんだ!」


 馬車に乗りこみ、俺たちは光の方角を目指す。


 魔物で踏み荒らされた大地は草の一本も生えておらず、土がむき出しだ。あまりにもひどい光景だ。街道や畑、村などがあっただろうが、これでは畑を作り直すのも時間がかかりそうだ。


 だが、これでもまだいいほうだ。瘴気に汚染された場所は草木が生えてくるまでに数年はかかるという。

 魔石が消えたとはいえ、そんな土地に人が行けば、具合が悪くなってしまう。


 30年前のグランツの悲劇では瘴気に汚染された地域が広かった領地では、人が住むことを諦め、無人になった場所もある。領地全体が汚染され、住民が全員が死亡したと思われる事例もある。


 通常なら、荒れ地しかないはずなのだが、馬車が進むと少しずつ草が生えていた。どういうことだ?


 これには同行していたグランツの悲劇を経験していた武官や神官も困惑している。


 草は徐々に増え、花が咲き、低樹が生え、さらに進むと、森になった。とても、清浄な空気で満ちていて、まるで神聖な空間のようだ。


 森の奥で、巨木の根元でボロボロの防具に身を包んだリーゼロッテが横たわっている。意識がないのに小さな声で歌っている。

 大量の魔物を相手にしたというのに、体は傷一つついていない。戦いをにおわせる痕跡はぼろぼろになった防具だけだ。

 黄金色の光は彼女を囲うように放たれ、広がっていく。


 もしかして、この光は彼女が放っているのか?


 神官は感動して泣いている者もいる。もしや、彼女の中に神を見出したのかもしれない。


 俺も知らず知らずの内に彼女に近づいていく。まるで、彼女の神聖さに引き寄せられるかのように。


 テオバルトたちもこの光景に唖然としたようだったが、すぐに、

「リーゼロッテ! 貴様が諸悪の根源だったのか!」

 この神聖な光景を見てもよくそんなことを言えるな。頭と目が腐っているのか?

「さぁ、マーヤ! この辺り一帯をその聖なる力で浄化するんだ!」

「で、でも、王子様。この黄金の力……」

 聖女は何かは感じているようだな。

「いいからやるんだ」

「は、はい」

 聖女は自信なさげに力を振るうが、聖なる浄化の力はリーゼロッテに吸収されていくだけだ。


「そんな……やっぱり」

 聖女は狼狽えるばかりだ。そうだろう。


 この空間は聖属性の魔法を超える何かで満たされている。

 テオバルトはイラつきながらリーゼロッテに、

「なんて邪悪な女なんだ!」


 ロヴィナが前に出て、

「テオバルト王子。見損なったぜ」

「なんだと! 庶民の分際で」

 ロヴィナが被っていた駱駝色のフードを外し、

「アール王国の王子ロヴィナだよ。あんたとは何回も会ってるんだがな」

「ロ、ロヴィナ!?」

 テオバルトが驚愕の声を上げた。

 驚くのも無理はない。本来いるはずのない他国の王子がいるんだから。


 俺だって驚いているが、テオバルト一行のバカさ加減とリーゼロッテが生きていた以上の驚きはこの世に存在しないから、もう動揺はしない。


 リーゼロッテの異母弟が剣を抜き出して、

「クソ女、クソ女! お前が生きてる限り、僕は本当の領主になれないんだー!」

 そう言って、襲いかかった。


 俺は慌てて彼女の前に出た。

 ナイフを抜く時間がない。ツマラナイやつの剣で斬りつけられるのかと覚悟したところ、セバスチャンの剣を俺のナイフが受け止めていた。


「手癖が悪くてごめんあそばせ。何せ今は剣を握っていないもので」

 俺は声の主を見た。


 リーゼロッテが凛とした様子で立っていた。俺の腰元の鞘にナイフを仕舞い、セバスチャンに向かって鷹揚に、

「セバスチャン様。その方はアルフォンス殿ですよ。ちゃんと見てください。私は殿方ではありませんよ。間違い探しにもならないレベルで大きな違いがあるのですわよ」

「あ、姉上……」

「別にクソ女でも構いませんわよ、お貴族様。アンブロス家の直系じゃないあなたが次期当主になったから領民たちから不満でも噴出したのでしょ」

「あ、あ……」

 図星のようだな。


 俺は素直にたまげている。学校で戦闘術を習った程度だった元侯爵令嬢がこんなにも素早く動けるようになるなんて、一体どういう仕組みなんだ?


 リーゼロッテは右手と右腕を見てから、横に生えている大きな木を見た。

 木に剣の持ち手部分が刺さっている。


 彼女はその剣を抜こうとしたが、

「まぁ、抜けませんわ。にしても。腕がこんな木になっちゃうなんて」

 彼女は彼女で何を言っているんだろうか。


 彼女は自分の防具を見て、

「まぁ、すっごくボロボロ。なんというか、エチエチで、あ、なんて破廉恥でハシタナイ格好なのでしょう」


 やっぱり君は時々、貴族令嬢らしからぬ言動をするよな。

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