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追放悪役令嬢は戦女神の力で世界を救う  作者: 桜雨実世


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リーゼロッテの才能の開花

 魔物の波は途切れることはなく、兵士たちは当然、疲弊していく。

 日没を迎え、兵士や冒険者たちは夜の部隊と入れ替わる。

 私は踊りのお陰で疲労はなく、魔力も減っていないため、踊り続けることにする。本当に眠る必要も食べる必要もないくらいに元気だ。


 カスパーが私を連れて行こうとするが、私の手すら掴むことができない。

 私はただ体を動かしているだけだ。だが、自然とカスパーを避けることができる。思考はしていない。

 意識はあるが、不思議な感覚がする。

 違う境地へと意識が向かおうとしているような。

 ただただ、私の心は静寂に支配されていく。

 外は魔物との激戦で騒がしいが、私の心の中は何一つ音がせず、言葉一つも思い浮かばないのだ。


 モーリッツがアルフォンスと入れ替わる。

 アルフォンスが出てきた瞬間、無数の火の玉を上空から振らせ、魔物どもを焼き尽くした。町から五百メートル先まで魔物が消え去った。


 だが、魔物はどんどん向かってくる。

 

 これを見た魔術師たちは驚愕している。

 私も普通だったら驚愕しただろうが、今はそういう感覚がない。


 スヴェンが風向きを確認後、粉薬をばら撒く。魔物たちが痙攣して動きが鈍くなる。強烈なデバフ効果があるようだ。


 アルフォンスとスヴェンのお陰で少しの間なら、魔物は町に近づけないだろう。

 私はクルクルと踊り続けている。


 アルフォンスが私に近づいて何か魔法を放った。瞬間、私の意識が元に戻った。

「あれ……私……」

「トランス状態になっていたみたいだ」

「トランス?」

「少し休んだほうがいい。腹くらいは減ってるだろ」

「あまり……空いてませんわ。飲まず食わずでも大丈夫な気がしますわ」

「歌舞魔術の優れた使い手はそうなるとロヴィナが言っていたが……。習いたての君がそこまで熟練するはずはない。何はともあれ、少し休むべきだ。俺も魔法の乱発はできないが、少しの間なら町に魔物を近づけさせないことはできる」

「僕もいるしねー!」

 二メートルもの魔法剣を持っているヒルデベルトがニコニコしながら言った。


 私はお言葉に甘えて少しの間だけ、休むことにした。でも、本当にお腹も空いていないし眠くもないし、喉すら乾いていない。自分でもどうしちゃったのかなと心配になる。


 街に戻ると、日中に戦っていた兵士たちが往来だと言うのにぐったりと倒れている。カスパーやロヴィナは拠点となっているレーヌ城に戻ったが、何かを食べる気力もないくらいに疲れ切ってしまっているようで、廊下で大の字で眠っている。


 ロヴィナはハープを引きすぎて、指が赤く腫れ上がっていて痛々しい。

 そういえば、原作の乙女ゲームでは彼が中心となって町の人々を叱咤激励して、魔物の迎撃にあたっていた。


 原作で町の人々から英雄扱いと感謝をされてもいいものなのだが、駆けつけた聖女マーヤと王太子テオバルトが瘴気を散らし、魔石を壊して、街を救うため、イマイチ活躍が霞んでしまっていた。

 原作でも彼はこれくらい指を赤く腫らしながら人々を率いたのなら、もうちょっと報われてもいいものなのだが。

 シナリオライターはロヴィナに厳しい人だったようだ。


 怪我をしている人は神官たちによって治療室に運ばれ、治癒魔法をかけられている。私も頑張って踊ったんだけど、どうしても行き渡らない人もいた。

 それに、治癒魔法を使っても体の疲労まで完全になくなることはないのよね。やはり睡眠にまさる疲労回復はない。


 食堂ではモーリッツが手のひらサイズの大きな黒パンにたっぷりのジャムとバターを塗ったものを頬張っている。私も彼の向かいに座って、パンにジャムを塗り、チーズを乗せて食べ始めた。

 モーリッツは黒パンばかりを何枚も食べていて、すごい食欲だ。

 私が驚いた表情でモーリッツを見てると、

「……精霊を召喚すると、……お腹が減る……」

「そうなんですのね」


 神官の一人が私のもとにやって来て、

「リーゼロッテ様」

「リーゼロッテで結構。もう貴族ではありませんもの」

「と、とんでもございません! 貴方様が踊ってくださったおかげで、今のところ奇跡的に死者はゼロ」

「私だけじゃなく、モケモケ術師のモーリッツ殿や旅の吟遊詩人ロヴィナ殿、町の人々の活躍もお忘れなきように」

「もちろんでございます。もしかしたら、もしかして、聖女様が来るまで持ちこたえることができるかもしれません」


「そのためにもレーヌの町の人々一丸となって戦っているのですよ」

「は、はい。おっしゃるとおりです」


 私は食べ終わってから、ちょっとだけ目を瞑ってから、また戦場へと向かった。


 ヒルデベルトと兵士たちが魔物との乱戦を繰り広げている。

 回復は後方にいる神官たちが担っていた。


 アルフォンスは町壁から攻撃魔法を使っている。そして、右手には防衛準備中から練っている魔力の塊がある。


「その魔力の塊はなんですの?」

「俺の魔力を凝縮させている。これを使って攻撃魔法を放てば、通常の何倍もの威力になる。いざとなったらこれを使って攻撃魔法をぶち込む。かなりの範囲が焼け野原になるだろうから使いたくないんだ。最悪、多少の被害は町にも出るかもしれない」

 どれだけすごい魔法なんですの。


「一番最初に放ったあなたの魔法だって、普通の魔術師では行使できないくらい強力な魔法だと思いますけれど……。もしかして、先程の魔法も魔力を凝縮させたものを放ったんですの?」

「さっきの魔法は俺の通常の威力だ。俺は母と同じく、人より魔力が多いし才能にも恵まれている」

「そうなんですの。自分で才能に恵まれてるってよく言えますわね」

「本当だからしょうがない。俺が自分のことを凡人レベルだと思っていたら、周囲の人間が大変な目に遭うぞ」

「そうですわね。自分の実力を自覚することは大切なことですわね」


 アルフォンスは私の顔を覗き込んで、

「それよりもういいのか? 朝まで休んだらどうだ?」

「大丈夫ですわ。本当に疲れていませんから。それに、踊りたいのです」


 そう言って、私は夜の戦場を踊り始めた。

 踊っていると、意識の中で誰かに見られているような気がした。


 魔物の間を縫って私は踊って、前線の兵士たちを回復させる。

 夜の部隊はロヴィナのバフがないことも考慮に入れ、戦闘経験豊富な者たちで多く構成されているが、夜になったせいか日中より強い魔物が出現するようになり、負傷兵も多い。


 意識の中の誰かが私に囁いた気がした。なんと囁いたのかわからないが、私は囁かれたとおりに踊りながら、剣を持った手を振り上げ、魔物に切りつけた。

 そして、意識の中の誰かの指示に従って歌う。歌詞の意味はわからない。そもそもどのように発音しているのか自分ですらわからない。


 だが、私の歌によって仲間たちがバフされた。

 私は魔物に切りつけながら、踊り歌っていくだけだ。

 思考はしない。

 ただ、ねじ巻き人形のように機械的に動くだけだ。


 回復の踊りから違う踊りへと切り替わった。

 魔物を斬りつける。

 魔物の傷から黒い光が上がり、私に吸い込まれていく。

 力がみなぎってくる。


 魔物の力を吸い取り、自分の力や生命力にする踊りのようだった。


 私の踊りと魔力ポーションで魔力を回復したアルフォンスが魔法を乱発できたこともあり、大きな被害が出ることなく朝の部隊へと交代することができた。


 私も一旦休憩だ。

 魔法を乱発して疲れた表情をしているアルフォンスが困惑しながら、

「有り余る魔力を持て余す俺も大概普通じゃないと思っていたが、たった二日間だけの実戦で回復とバフと攻撃の三役もこなすとは君も普通の魔法使いじゃないな」

「そうかもしれませんわね」

 私は遠い目をしながら言った。


 意識の中で私を見ていたのは彼女だった。私に戦い方を教えてくれた。

 そして、戦いが終わると私が身にまとっていた黒い光を持っていった。どこに持っていったのかはわからない。

 だが、姿をまだ私の前に表さない。

 じゃぁ、なぜ彼女と呼ぶのかだって?


 それはね、声が女だったからよ。

 あと少しだと言っていた。

 それが何かはわからないけれど。


 その後、アルフォンスは部屋に行き、眠りについたようだ。

 私は女性が持ってきてくれたアーモンドミルクを飲み、チキンのローストとパンを少し食べた。


 食べながら、魔物の叫び声が昨日とは違うような気がした。外ではカスパーやモーリッツが戦っているから大丈夫だろう。


 あと二日持ちこたえれば、聖女であるマーヤがやって来て、瘴気を消す。それまでの辛抱だ。


 私は肉体はそんなに疲れていないが、精神が疲弊しているようで目をつむりたくなった。


 うたた寝をしていたら、ドゴォーンという轟音が聞こえた。

 私は急いで立ち上がると窓の外を見た。


 町を覆う壁の一部が崩壊して、魔物たちがなだれ込んでいた。

 そこに、デニスが泣きそうな顔で私のもとに来たが、今はかまっている暇はない。


 私は急いで走り出した。

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