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5.向き合ってくれる人

 更衣室に行くまでの間に剣持が質問を投げてきた。


「それで、朝から何があったんだ?」

「え、それ聞く?」

「聞かないとボディーガードとやらがまともにできない気がするからな」

「…………聞いて驚くなよ?」


 俺は剣持に念押しをして、彼女が頷いたのを確認してから話し始めた。


「朝、家を出て傘を開こうとしたら壊れてて、取り替えようと思ったら傘が一本もなかったんだ。でも小雨だし走って行きゃなんとかなると思ったら、急に雨が強くなってさ。で、道中、車からの水飛沫を浴びたらこうなったんだよ……」

「…………不幸体質がどうの言っていたが、本当だったのか」

「信じてなかったのかよ!?」

「人ってそんなに不幸に遭うものなのかと半信半疑だったから。まあ、お前の姿を見て、話を聞いてそれも信じざるを得ないな。あ、着いたぞ」


 剣持はここで待っていると言って、俺は更衣室に入って着替え始め、扉越しで剣持にふと思ったことを告げた。


「…………悪く言わないんだな」

「何を?」

「普通あんな泥だらけになってる奴見たら引くか陰口言うじゃん。お前は言わないんだなって。それに、こんな不幸話聞いたら嘘をついてるだとか、気色悪くて関わらないようにしようだとかするのが普通だろ?」


 そう言うと、扉の向こう側から返事が来る。


「見た目だけで判断するのは好きじゃない。それにお前はしつこい所はあるが、嘘をつくような奴だとも思わない。私は私の見たもの、聞いたものを信じる。こういうのが普通とか、勝手に決められたくない」


 剣持のその言葉が俺の心に響いた。

 今まで不幸体質のせいで、人から気味悪がられてきたし、「疫病神」と言われたことだってあった。それに、人を巻き込むような不幸にあったことはまだ一度もないが、これから先起こらないとも限らないと思って人との関わりは必要最低限にして、友達も作らずになるべく一人でいるようにしてきた。だから、剣持は俺にとって初めて深く関わりを持った人で、嫌とかやめたいとかそんなふうに言われた時は受け入れようと思っていた。


 それでも、剣持はちゃんと会って間もない、変な頼み事をした俺と向き合おうとしてくれる。


 家族以外で俺に向き合おうとしてくれる人がいたことがなかったから、それがすごく嬉しくて笑みがこぼれた。


「ははっ、剣持かっけー」

「かっけーって……そう大したことじゃないだろう」

「でもかっけーの」


 着替え終わってガラッと扉を開けると、名前の通り凛として廊下に立っていた。俺は剣持の方を向いて、彼女の頭をぽんぽんと撫でてお礼を言う。


「あんがとな、教室戻ろーぜ」

「…………ご機嫌だな」

「お前のおかげ」

「私? ……見張り以外何もしていないぞ」


 教室に向かって歩きながら頭にハテナを浮かべている剣持を見て、なんだか正直に俺の思ったことを言うのは照れくさくて、頭を撫でて誤魔化した。


「へいへい、そうだな」

「おい、子供扱いしてるだろう」

「してねぇよ、可愛いなーって」

「は!? へ、変なことを言うな馬鹿者!」

「いてっ」


 頭叩かれた……。照れてんじゃん、可愛い。って言いたいけど、また叩かれそうだから黙っとこ。結構痛え。

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