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4.ずぶ濡れ坊ちゃんと女騎士

 剣持がボディーガードになった翌日。天気は雨。

 雨の日なんて、大嫌いだ。雨の日はろくなことがない。


「………………お前、その格好どうしたんだ?」


 朝、教室に入ってきた俺を見た剣持の最初の一言がそれだった。無理もない、今の俺は制服で泥水プールにでも入ったのかというくらいずぶ濡れで泥だらけになっているのだから。剣持の言葉に俺は無表情で答えた。


「いやまあ、色々あって…………」


 家から学校にたどり着くまでの道中は、それはそれは最悪なものだった。が、それ以上に嫌だったのは下駄箱から教室に来るまでの道のりだ。どんだけの人に引かれた目で見られたことか。しかも、「西園寺家の坊っちゃん、今日ヤバくね?」「何であんなびしょびしょで泥だらけなの? 何、いじめ?」「泥んこ坊っちゃんじゃん(笑)」とかぼそぼそと言われたし。俺は好きでこうなってんじゃねぇつーの、腹立つ。きっと剣持も絶対おんなじような反応すんだろうな、と思っていると顔にタオルを投げつけられる。


「ぶふっ!」

「頭を拭け、風邪引くぞ。着替えはあるのか?」

「え、あ、ある……」

「そうか。なら着替えてこい」


 そう言ってからぼそぼそと呟きながら考え込む剣持。この1週間で「見るな」「用がないなら話しかけるな」「やらないからな」など散々言われて来たおかげで、剣持は思ったことをはっきりと言うやつだと感じていた。だから、こんな姿の俺を見て何か言うんじゃないかと思っていたのに、遠巻きに俺のことを言ってくるような奴らとは違う反応に俺は驚いて固まっていた。それに気づいた彼女が不思議そうな顔をする。


「なんだ、どうした?」

「……え、あー……今の俺見てもっとなんかこう、言われるかと」

「……? なんだそれ。それよりもお前の身体の方が大事だろう?」


 さも当然のこととでも言うように彼女は言い放った。


「というか、早く着替えに行け。ついていくから」

「え、いや、いいって! 一人で行…………」

「着替えに行く道中にすっ転んで仕事放棄と言われるのが嫌なだけだ。それに…………クリームパン分はちゃんと働く」


 そこかーい! まあいいや、すっ転びそうなのは否定できねぇし。そうして俺は着替えを持って剣持と更衣室に向かうことになったのだが、教室を出た瞬間、俺がここに来るまでに落としてきた水が悪戯をしてきて、俺はつるっと足を滑らせた。


「うわっ!?」

「危な……っ!」


 やべぇ、受け身できねぇ!! 転ぶ……っ!


 と思って反射的に目を瞑ったのに、衝撃はなかなか来ない。不思議に思って目をそっと開けると、目の前に剣持の顔があった。


「…………お前な……。不幸というより、ただのドジじゃないのか?」


 すごく呆れた声でそう言う彼女とびっくりして状況を把握しきれていない俺。


 え、いや、待て待て待て、これ、転びそうになった姫を受け止める王子の図………………。どう考えても立ち位置が逆ーーー!! 転びそうになった坊っちゃんを受け止める女騎士のがしっくり来るな、てかマジでそれだわ……。つか、ここまだ教室だからすげぇクラスメイトたちが俺たちを見て盛り上がってるじゃん!


 恥ずかしさやら屈辱感やらでどうにかなりそうな俺は両手で顔を塞ぐ。


「………………誰か俺を殺してくれ」

「馬鹿なことを言っていないでさっさと立て、重い」

「はい………………」


 その後、剣持が「転んで怪我でもされたら面倒だから、腕か服を掴んでおけ」と命れ……こほん、言う(断っても無意味だった)ので彼女のブレザーの端を掴んで更衣室に向かった。

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