理想 3
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「いくぞ、ルゥ!」
「ガウ!」
俺はライ、冒険者をやっている。この前、ようやく一人前とされるCランク(ランク:E~)の冒険者になったばかりである。そしてこいつは相棒のフォレストウルフのルゥ。本当は白や銀色の毛色なのだがルゥは真っ黒なのだ。ある日、薬草採取のクエストで、薬草を追って森の奥に入ってしまったときに、けがをしたルゥを見つけたのだ。かなりの傷だったけど治療をしたら元気になって、俺になついてしまった。ルゥは変わったことに生肉は嫌いなようで焼いたものを好む。魚も同様だ。それに野菜も食べたりする。ちょっと人族臭い一面がある変わった相棒だ。今日狩ったレッサーボアもルゥが誘導してくれて俺がとどめを刺すという連係プレイで狩れた一匹だ。ちなみにルゥは真っ赤な目で体高130㎝ほどもあるため、狩ってきた後に甘えてくるときの突進はなかなか威力がある。
狩ったレッサーボアをルゥに背負ってもらってギルドへと帰ってきた。ギルドの隣には解体施設があり、そこで狩った獲物を解体してもらうのだ。
「おう、ライか。獲物はそのボアでいいか。」
「はい。お願いします。」
「おう!でもいつ見ても、フォレストウルフがなつくなんて不思議だよな。別のウルフの死体があってもびくともしないし、オレたちがいてもおとなしいしな。」
「ルゥは賢いんですよ。ね、ルゥ。」
優しく頭をなでると気持ちよかったのかすこし顔が緩んだように見えた。
報酬をもらって家へと帰る。ルゥはさすがに宿に泊めるには目立ちすぎるので少し高いが小さな家を借りたのだ。家に着いたらまずはシャワーで血などを洗い流す。ルゥは最初からシャワーを浴びるのを怖がらなかった。口元や手足は重点的に。俺も一緒に浴びる。夕食は今日狩ったボアの焼肉である。レッサーボアの肉は柔らかく油もあり上質な肉として高値で取り扱われ新一人前冒険者にとっては重要な稼ぐ方法である。ルゥもおいしそうに食べている。
食べ終わると道具の整備を行う。ルゥも横に座ってみてくる。いつもの光景だ。ときたま、頭をなでてあげると喜ぶ。そんな気がする。寝るときも一緒である。秋の寒くなってきた今ではルゥの温かさが気持ちいい。
そんなある日、いつものように一緒に寝ていた。ふと目が覚めるといつものもこもこしたものとは違うふにゅっとした柔らかいものに俺の腕が挟まれている。そしてその何者かが俺の胸元に頭を突っ込みスゥ~ハァ~と息を深くしている。
「えぇっと?」
俺が声をかけるとビクッとしてギギギっという効果音が聞こえてきそうな感じで頭を上げ目と目が合う。
「や、やあ。」
その顔は月夜でもわかるほど真っ赤になっており、でもその瞳はまっかでルゥと同じ真っ黒な髪。俺は疑いつつもこう聞いた。
「ルゥ?」
すると、目がカッと開いて急に笑顔になった。そして、
「おう!」
そう満面の笑みで答えたのであった。
それはそうと少し目のやり場が困る。整った顔立ち、腕に伝わる柔らかいアレの感触。たとえ目の前にいるのがルゥであったとしても、だ。
「ルゥっていったい何者なの?」
俺が今一番思っている質問を聞いた。
「ボクはね、獣人族なんだ。」
「えっ!!」
獣人族、俺たち人族と獣の姿や能力を共に持つ山奥に住むめったに現れない幻の存在。その能力は人族×獣ほどの能力を有するといわれる。でもなんでけがをして倒れていたんだろう。そう思っているとルゥが続きを話してくれた。
「獣人族の中にも種族があってボクは狼人族なんだ。そんなある日、ボクにお見合いが来てさ、そいつがボクが昔から嫌いなやつだったのさ。それでも無理やりさせられそうになったから逃げてきた。でも森の中でおなかが減りすぎて動けなくなって、その時にジャイアントボアに襲われちまった。何とか追い払えたけど、傷もあってもう動けなくてもうダメだってところに旦那様があらわれたのさ。そのまま殺されても仕方がなかったのに手当をしてくれてごはんまでもらって。傷がふさがるまでいつも手当してくれて。旦那様のごはんがみるみる質素になっていくの見てて分かった。そんな状況でもボクを直そうとしてくれたのがとっても嬉しかった。だからさ、旦那様にずっとついていくって決めた。そして、いつかはね、ボクの、本当の、旦那様になってくれたらなって。」
そうなのかという納得感と急な変化やルゥが獣人族であったことへの驚きとで呆然としていた。
「もし、前のままでいてほしいていうなら、オオカミの姿なままでいるよ。しゃべれなくなるけどさ。」
ボンという音とともにルゥの姿が今までみていたオオカミの姿になった。でもその表情はどこかさみしそうだった。俺はルゥの頭をそっとなでる。
「確かに、ルゥがあの獣人族だったなんて思ってもみなかった。だけどルゥはルゥなんだろう。だったらさ、いつもみたいに一緒に狩りに行ってさ、この小さい家で暮らそう。そして家ではさ、お互いおしゃべりしよう。これからはいつもより楽しくなりそうだ。」
すると、ボンという音が鳴り、ルゥが人の姿になった。
「じゃあ、これから話し合うことが出来るってことか。」
「あぁ。」
「うぅ、よかった。」
「これからも一緒にいてくれるか?」
「うん!もちろん!」
そして俺とルゥは抱きしめあった。
獣人族は珍しい種族のため外にいるときは今までと同じようにオオカミの姿でいてもらうようにお願いした。そしてルゥにあう女性ものの服を買った。これがおそらく人生で一番緊張したことだろう。かえってきて、旦那様はこういうのが好きなのか?と言われてさらに恥ずかしくなった。
森に入るとルゥは人の姿となり、服で耳と尻尾を隠して俺に体の動き、剣の扱い方、薬草の生える場所などいろいろ教えてもらった。ちなみに何でもできそうなルゥだが料理だけはからっきしダメらしく、そのため狩でモンスターを狩っても料理できず、空腹で動けなくなってしまったらしい。ただ焼くだけのなのにダメになるのはある意味才能なのかもしれない。
家に帰ると2人で風呂に入る。お互いにお互いを洗いあう。身長は同じぐらいだが性別によっての体の違いは一目瞭然だ。普段のしゃべり方は少しボーイッシュだがその話し方から甘えられるとつい構ってしまう。
「いつか2人で、足が伸ばせるぐらいある浴槽がある家に住んでみたいな。」
「そうだな。でもその時にはもう2人ではないかもしれないぞ。ボクはそう思う。」
獣人族と人族との子供は歴史的に見て生むことが出来るが、できにくいらしい。昔、勇者とよばれた人族の英雄は嫁の中に獣人族がいてその間には子供がいたそうだ。また、奴隷として捕まった獣人族も子をなし、生みはしたが命を絶ったそうだ。でも、今の俺たちならそう遠くない未来のことだろう。明かりを消し、2人でベッドへと入っていった。
時は立ち、今俺たちは2人で旅をしている。今いるところはルゥの故郷、狼人族の村である。
「へぇ、ルゥは人族に捕まったのか。」
「はい、つかまってしまいました。」
「おばあさま、だったらこの人族をさっさと殺して…」
突っかかってきたのはルゥの元婚約者だろう。ついてからずっと俺を睨めつけルゥをちらちらとみている。
「ほっほっほ。ガロウは何か勘違いをしているそうじゃな。捕まったというのは奴隷のようにではない。心をつかまれた、つまり恋じゃよ。」
「なっ!」
「それに、それだけじゃないのじゃろ、え?」
「はい。」
ルゥは優しくおなかをなでる。
「ほっほっほ。まるで父上と母上を見ているようじゃ。よかろう、ソチの名は?」
「ライと申します。」
「では、狼人族の長、ライラックが2人の婚約を承認する。そして、ライのこの村の出入りを今日以降自由とする。可愛い子を見せておくれ。」
ルゥはこの村で可愛い女の子を生んだ。ルゥにそっくりの整った顔に赤い瞳、髪は俺に似たこげ茶色。耳と尻尾をぴくぴくと動かしている。可愛いわが子は今、この村に笑顔を振りまいている。
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