理想 1
目を覚ますといつもは感じない体に痛みとだるさを感じる。その感覚が昨夜の出来事が夢ではなく現実のものであることを物語っている。横を見ると裸で眠る少女、いやもう立派な大人の女性である愛弟子のリアリがかわいい寝息を立てて寝ている。昨夜はまんまと愛弟子の策にはまってしまった。実に巧妙であった、というのも数か月前から少しずつ、変化に気づかれないように行われていた。この世界にきてこれほど考えさせられることはなかっただろう。
俺はシン、と名乗っている。もうかれこれ100年以上前にこの世界、アガレリアに転移させられた。当時の俺はぎりぎりで大学に入り、1学年の授業を2年かけて覚えるという落ちこぼれであった。その帰り道に2人の女子を率いたガタイの良い男子高校生とぶつかった途端、足元が光りだしこの世界へと転移させられたのだ。俺を含め4人は勇者や賢者などの特殊なジョブがありガタイのいい男子高校生は勇者、女子A、Bがそれぞれ聖女とビーストテイマーで俺が賢者であった。俺は何とか3人についていきこの世界の魔王を討ち果たした。3人は元の世界に戻り、俺はこの世界にとどまった。元のところに行っても自分は活躍できる未来が見えない。ならいただき物でも今の自分でならやれることができるこの世界にいた方が自分の存在意義が持てると思ったからだ。どうやら俺のすることは今の今まで罰が当たったことがないので大丈夫なのだろう。魔法で襲われている村を救ったり、冒険者としてモンスターを間引いたり、時にはダンジョンにもぐってお宝を目指したり。そしてある時気づいてしまった。俺は魔王を倒したからというもの体が老いなくなったのだ。賢者だからと言ってそういった魔法に手を出したわけではないことは確かである。でもそれはあまり俺にとってはデメリットではなかった。旅をするため一期一会で仲良くなるぐらいでずっとそばにいるそういった人はいなかったためだ。
だが、そうではなくなったのはフェリル侯爵領の孤児院を訪ねたことで変わった。依頼内容は孤児院に現れたファットラットの駆除であった。しかしこれが思いのほか手こずることになり、3か月ほど孤児院にお世話になることになった。そこにいたのがリアリある。当時7歳で無口で人の輪に入ることが出来なく、過去の自分を見ているようでほっておけなかったのだ。積極的に声をかけて、魔法も教えた。才能はごく普通であったが、次第に真面目に教えを乞うようになり、愛弟子とし、教えていたのだった。ファットラットを駆除し終わり孤児院を出るとき、俺は別のところへ向かうためすでに荷造りしたキャラバンを用意していた。お別れの時にリアリがみられなかったのを残念に出発した。しばらくすると荷物の中からグゥとおなかが鳴る音が聞こえた。そう、リアリが隠れていたのだ。
「私、ししょーと一緒にいたい。」
俺にとってもこの短い期間だったがリアリに教えることが楽しかったのだ。俺は使い魔に手紙とお金をくるんで孤児院へと送った。この日から俺は1人ぼっちではなくなった。
リアリは順調に魔法も体も成長し、16になるとこの世界では成人として扱われる。リアリももう立派な女性となっていた。自分で何でもできるようになり少し悲しい気持ちになることもあるがリアリは反抗期もなくむしろ今も一緒にくっついてくる。今も一緒に寝ていて、出るとこが出ている愛弟子に手を出さないようにこっそりと家を抜け出し夜の街に出たりしていた。が、数か月前から徐々にリアリの寝巻が過激になっていき、寝ていても腕にしがみつき離れてくれなくなったり、理由をつけて俺が夜出かける時間をつぶすようにしてくるようになった。それに加えて夕食に媚薬を混ぜられたらどうなるだろうか。23歳で止まった体は欲を放出するすべがなくなり、よりにもよってその日に狙ったであろう肌が透けて見えるネグリジェをつけたリアリがとなりにいるとなると…はい、そうですね。
「やっと、手を出してくれた。これでししょーのものになれた。」
無茶をさせたリアリはというとこう言っていつも以上に上機嫌である。
「これでもう夜に出かける必要、なくなったね。これからはわたしが相手する。最初は下手だけどししょーがわたしに教えて(調教)してね。わたしはししょーだけのもの。そしてししょーはわたしだけのもの、だよ。」
愛の重たい愛弟子は今宵から恋人となるのであった。
愛弟子で愛人となったリアリの巧妙な作戦に見事に引っかかったあの日から俺とリアリの生活は一変した。1度手を出してしまうと2度目からは簡単になっていく。朝から、食べるときも、風呂も一緒になり、無いようであったネグリジェもいまや完全にない時もある。それとともにリアリがいわばヤンデレの面を徐々に出してきている。一夜を共にしたことのあるほかの女性冒険者が話しかけてきたときは、最初は握る手が強くなるぐらいだったものが思いっきり爪を突き刺してくるようになり、ベッドで「わたしだけだよ。」とうるうるした目で訴えかけてくるのだ。まぁ、あの日以来、俺はリアリしか抱いていないのだが。数日たつとあの女喰らいのシンが全く誘ってこなくなったと冒険者仲間にムスコを心配されたが、どうやら隣にいるリアリの態度ですぐに察しがついたようであっという間に、ついにシンが愛弟子に捕まったという話に切り替わった。このうわさが広まってからというもの少しリアリは落ち着き、前のただの甘々のリアリに戻った。万が一再び遊んだりすると俺のナニかが失われるといったことも考えられる。これが尻に敷かれるというやつなのだろうか。
今、俺たちはラウィンソン侯爵領の森の中に家を建てて住んでいる。山の上なので街を一望でき自慢の場所だ。移動も箒があるので何も不便ではない。近くには大きめのダンジョンもあり山の奥の森にはモンスターが住み、腕がなまることはない。王都からも近い位置で港町にも近いため町の商店は品ぞろえが豊富で見ていても飽きない。たまにリアリと一緒に街でデートをする。まだ表情は硬いがたまにふっと見せる笑った顔がつかんだものを離さない魔性の能力を持っている。つかまれているのはこの俺だが…
可愛くも女性らしいワンピースを着こなして俺の左手を握っているリアリと今日はデートの日である。いつもは魔剣や杖を持ち戦うが、今日はオフの日である。商店の親父さんたちに煽られながらも2人のラブラブっぷりを見せびらかしながら進んでいく。服屋に行っては似合った服を身繕いリアリに着てもらう。少し恥ずかしながら褒められるのに照れるのがかわいい。だからついつい調子に乗り怒られてここでの買い物が終わる。昼食はバーガーを食べる。体はいつも動かしているためカロリーを気にすることはない。魔法使いは動かない?そんなわけがない。魔剣を使うときは剣士と同じ動きであり、杖による魔法も離れる分、射線を通すための移動距離は長くなる。体が動かないとそもそも命を懸けている冒険者は成り立たないのだ。小さめな口を頑張って大きく開け大きなバーガーに食らいついているリアリもかわいい。
「ん。口にソース、ついてた。」
そして、ぬぐった指をそのまま口へ。
「こっちのソースも、おいしい。」
「そうか。こっちも一口食べるか?」
「うん。あーん。」
パクッ
「ん~ こっちもおいしい。じゃあ、こっちも一口いいよ。あーん。」
ハムッ
「おぉ、こっちもいいなぁ。」
「おい、いつものバカップルが今日はここにいたよ。」
「ほんとだぜ、くそっ、なぜか負けた気がする。」
「負けてるんだよ。いいなぁ、オレも強くなって愛弟子とってみるか。」
「教えるほど強くねぇよ、俺たち。愛弟子とれるなんていつになるのやら。」
「ほんとだぜ、はぁ…」
気にしない気にしない。リスにみたいにほおばる可愛いリアリを眺めていればこの2人だけの幸せ空間が何人たりとも邪魔をさせないようにする結界となっている。
食べた後は本屋へとよる。男手1つで育てたからボーイッシュで男向けのものに惹かれるのかと思ったがちゃんと女性向けの本を楽しそうに読んでいる。いくつか買っていくそうだ。最近のお気に入りは先輩研究者との恋愛小説らしく、その先輩を俺に置き換えて読むといいらしい。うれしいのかそのキャラに嫉妬すればいいかわからない。どうやら今回もお眼鏡にかなったものがあったようだ。
帰り際に夕食に必要となるものを見繕っていく。肉はモンスターを狩れば集まるが魚や野菜などはここでしか手に入らない。見た目が凶暴そうでも煮つけなどにするとおいしいものはたくさんある。生でいきたいが港町でないため怖さが上回りここではまだ手を出していない。買い物が終わると箒を取り出し家に帰る。そして2人で荷物を片付け夕食を一緒に作るのだ。そして一緒に食べ、一緒にふろに入り、一緒にベッドに入りまた2人の愛を確かめるように交わる。お互いがお互いのものであるという証をつけたり感じたり。そうやって夜は更けていく。
いつもより遅い時間に2人は目が覚めた。そしておはようのキスをする。ぶっきらぼうのその顔にわずかに緩むほほ。今日もリアリは可愛いらしい。遅めの朝食より早めの昼食といった方が良い飯を食べ服を着て冒険者ギルドへと向かうのだった。
「今日は2人とも遅かったなぁ。」
俺の担当の受付係りのマートンは俺たちを見るとニマニマしてこう言い放った。
「お前は朝早いなぁ、そっか、いないもんな。相手してくれる人が。」
「グフッ、そのカウンター、効くぜ。まぁ茶番はこのぐらいで、今日は何するんだ。大事な依頼はないみたいだから安心しな。」
「それが普通だよ。まぁ、いつもの素材集めでもしてくるよ。」
「わかった。いってこい、リアリちゃんも頑張ってねぇ~」
もうこのからかいにもリアリはなれたみたいで冷たくあしらうこともしなくなった。
門をくぐり2kmほど歩くと森の中にぽかんと空いた穴がある。これがダンジョンである。中にはいろんなモンスターがいる。時には普通の森にいるモンスターも現れる。しかし違うのは森ではモンスターはそのまま倒れ肉や素材をはぎ取るが、ダンジョン内にいるモンスターはダンジョンが作ったコピーモンスターで、倒すとそのモンスターから得られる素材の一部が手に入る。ポンと音がするとモンスターが消え、いた場所に素材が現れるのだ。ダンジョンでは森にはいないモンスターも現れるためここでしか手に入らない素材や時にはお宝があるため、多くの冒険者がこぞってダンジョンへと潜っていくのだ。浅い層ほどモンスターが弱く下へ行くほどダンジョンは広く、モンスターは強くなる。隠し扉やモンスターハウス、トラップ、逆に全く敵がわかない安全地帯なんかもある。とりあえず浅いところはかっ飛ばして下へと進んでいく。しばらく行くと箒でも十分に通れるようになっていくので下へと進んでいく。別になめてはいない。今通ったところもかつては地道に攻略してきたところである。しばらく進むとあたりにはだれもいなくなる。それもそのはず、攻略の最先端を走っているのだから。明らかにトラップが多くなっていき1つ1つ解除して進んでいく。モンスターも倒していく。時には全く魔法が効かないモンスターも現れる。そのために魔法使いだからといって物理攻撃の鍛錬もおろそかにしてはならない。9年目になる連係プレイはもう息の合ったものである。
ここでダンジョンとは何か説明しておくと、ダンジョンはそのもの自体が大きなモンスターである。その理由として最奥にあるダンジョンコアを破壊するとダンジョンは瞬く間に崩れ落ちる。ダンジョンは素材を核としたミラーモンスターをダンジョン内に配置し冒険者を餌とする。まったく動くことのできないダンジョンにとっては餌がないとただ餓死するだけなので浅い部分は弱いものを配置し、また所々で宝物を配置することで冒険者を誘っているのだ。我々冒険者もそれをわかってダンジョンに挑んでいくのだ。
今挑んでいる階層ではAランクのドラゴンも現れる危険地帯。かなりダンジョンコアに近づいているようだ。だが、ここのダンジョンコアは壊さないようにするつもりだ。ここは冒険者にとっては稼ぎ場所でダンジョンが空腹状態になって暴走するパンデミックを起こすのを防ぐには十分の冒険者や騎士がいる。田舎町に突如現れたものは破壊しないと危険な時がある。ドラゴンは魔王討伐の際にいやというほど戦わされたので倒し方は頭に入っている。ドラゴンのうろこは強靭で生半可な物理攻撃は効かず、それに加え高い魔法耐性もある。弱点は、よく言われるのは逆鱗と目であるが的が小さく当てるのは難しい。一番簡単なのは口である。ブレスを打つときに口に攻撃すれば簡単にダメージを与えることが出来る。ブレスを打つときは動きが鈍くなるので狙いやすいのもある。まぁ、高い防御力を持つうろこに耐えられないほどの威力の攻撃をすれば簡単だけどね。リアリも女性ならではの体のしなやかさを存分に使って鮮やかに倒していく。俺、意外と教えるのがうまかったのか、と思ってしまう。
目標のドラゴンのうろこを一定量手に入ったため無茶をせずに帰ることにする。
「やっぱ、お前たちはすげえよ。こんなもんなんて野良のドラゴンが襲ってきたときに生きていれば手に入るぐらいだと思ってたのによ。こうも簡単に持ってこられると驚く暇もないぜ。」
報酬はとびきりレアなものとして扱われているため高額である。まぁ、金はもう要らないんだけどね。亜空間収納にたんまりとはいっているのだ。経済を回すために使ってはいる方だけどそんなことを知らないリアリは倹約をちゃんと意識しているようでよくストップを食らうのだ。
ギルドを出てから箒に乗り家へと帰っていく。外から風呂へと直通する家の構造としてあるのでそのまま2人で風呂に入った。いつものように俺のまたぐらにリアリがちょこんと座って温まる。軽くキスをして風呂を出た。