第六話 約束の裏
三人が階段を上がり、一二号室の中へ入った。ミレイとミナはベッドに座って雄一は腕を組み壁にもたらす。雄一が沈黙を破った。
「ミレイって、お前も精霊ってもんか?」
「言ったばかりでしょ」
「そうだけど……なんか、今ショックの中って感じ」
壁にもたらすまま、雄一が頭を掻くとミナが話した。
「私は気がつきませんでした。でも、確かにミレイちゃんに近づくと違う霊気を感じます」
「あたしはミナちゃんが精霊だとすぐに分かった。ミナちゃんは言う通り精霊の霊気は人間や他の種類と違う……まあね、たまにその霊気を隠すこと出来るけどね。なんで前に気づかなかったの? あたしは精霊のことって」
そう言うミレイに、ミナは困るような笑顔を浮かべて自分の頬を掻く。
「実は……ミレイちゃん以外、他精霊と会ったことがありません」
「……そうなんだ……そうね、大事なのはこれから真正の精霊を認識できるのね」
ミレイのセリフを聞くと、ミナと雄一が不思議そうな顔をしながら雄一は口を開く。
「真正の精霊? 偽者の精霊でもいるか?」
「いるよ……偽精霊がいるよ」
厳たるに聞こえたミレイの声に、雄一が頷くことしかできなかった。
「……そっか」
「でもそれは後で話す」
ミレイが話題を変えるようにそう言いながらベッドを立ち窓へ歩く。窓のグラス越しの景色を眺めているミレイに雄一が声をかける。
「そうだな……ミツキと彼女の呪いについて説明してくれ」
『呪い』という言葉に好奇心を感じた雄一がそう言うとミレイが両手を窓際に置く。
「話すよ。けど、その前に、約束をしなくちゃ、ミナちゃんとあんた」
「約束?」
「どんな約束ですか?」
ミナと雄一は視線を合わせ、すぐに二人の視線がミレイの背中に集まる。ミレイは動きもなくそのままに話した。
「ミツキちゃんをできる限り守ること。呪われているとしても襲われることってあり得るんだ」
「いや、でもあいつとずっと近くいられないぞ」
そう言う雄一に、ミレイがやっと振り返り、もう一度ミナの隣で座る。
「それは問題ない。あたしは生きる限定で必ずミツキちゃんの近くいるからミナちゃんたちをその場所に呼べる。というと、あたしの位置へ瞬間移動できるの」
「そうですか? それはどうします?」
小首を傾げるミナにミレイ黒くて長いスカートのポケットから何かを出し、ミナに差し出す。
「簡単だよ。はい、これ」
「これは何ですか?」
「これはあたしの精霊の宝物なんだ」
ミナがその何かを受けると、簪だと分かった。ミナの手のひらよりも小さくて菊の形を覚えさせる。
「精霊の宝物ですか?」
「知らないの? ミナちゃん」
「知りません」
さっぱり知らないミナに雄一が微苦笑を浮かべて皮肉る。
「これは普通だ。ミナだからな」
「からかわないでください!」
雄一のからかいにミナが文句を言った途端ミナの髪の毛先が桃色に染まった。それを見たミレイが口を開く。
「ミナの特徴って髪に気持ちを表現するよね。やっぱり可愛いね」
「……ありがとう」
ミレイの褒め言葉に恥ずかしそうな表情をしながらミナがお礼言って拗ねる。
「精霊はそれぞれの特徴を持つか?」
「その通りだ」
「じゃあ、お前の特徴は」
ミレイがため息をつき、ミナの顔を指差す。
「他人の気持ちを察せるの。察す時にその人の感情をあたしも感じる。ミナちゃんは今、超恥ずかしいでしょ」
「ミレイちゃんまで!」
「あははは、ごめんごめん……あ、そうだ、精霊の宝物の話」
ミレイはそう言うと、ミナの手のひらにある簪を見て話す。
「精霊の宝物を手に入れるため、『何か』を一番大切の人からもらわないと。もちろん、あたしたち精霊にとって一番大切な人なのはあたしたちが守るべき人なの。あたしの場合はミツキちゃん、ミナちゃんの場合はこいつ。でも、その『何か』に二人は強い絆を共有しないと」
「……そっか」
「そうですか」
ミナと雄一はほとんど同時にこっくりと頷きミレイの次の言葉を待つ。
「それで、その宝物を精霊同士にあげれば友情の証になる。たとえば、今あたしが死んだら、ミナちゃんがあたしの精霊の宝物を持ってるからミツキちゃんの守る精霊になるということだ」
「え? 精霊って死ねる?」
ミレイの科白が雄一を驚かせて彼は問った。雄一の問いにミレイが答える。
「…………死ねるよ。というより、殺されることが不可能でもない」
「…………」
そう宣言するミレイ。雄一は呆けるように何も言えなくて、ミレイが話し続ける。
「だから、ミナちゃんはあんたを守る精霊だとしても、あんたも、彼女のことちゃんと守ってください」
「あ、ああ、守るぞ」
真面目そうな顔でそう言う雄一は、また話す。
「じゃ、俺は約束する、ミツキをできる限り守る」
「うん、私も約束します」
「ありがとう」
ミレイの視線は雄一にやる時にいつでも冷たそうだったとしても今の彼女が微かに口角を上げた。
「……そうね。ミツキちゃんの呪いなの、か」
ミレイは微苦笑をしながら語り始めた。