第四話 二一号室にて
鳥の鳴き声が森の隅から隅まで響く。薔薇の匂いがして、気温は涼しい。鳥の囀りに目覚められた雄一はミナの佇まいを見取った。ミナは気がつき、雄一を見返す。
「おはようございます」
「ああ、おはよう」
雄一は挨拶を交わすと座る。彼のすぐ先に焚き火の痕跡が残り、煙が舞い上がる。欠伸をしたあと、自分の腹を擦る。
「……腹減ったな」
そう言う雄一にミナが笑みをしながら彼女のそばに置いてある物を差し出す。よくみると、雄一は林檎だと分かって林檎を受けた。
「はい、ごゆっくり食べてください」
「……ありがとう」
そう言って、林檎を食べ始めた。甘い味に雄一が「美味い」と囁いて、全部食べた。食べきったあと、数分に座るっぱなしにいて、やっと立ち上がった。
「じゃ行こうか」
「はい。私、案内します」
ミナそう宣言して雄一の前に歩を進める。
雄一はあっちの世界の自分のこと何も覚えなくてもあっちの世界に森へ行くと動物があるはずだ。それは一般智識なのだ。こっちの世界にはそれは同じはずだ。でも、この森にいる数時には一匹の兎とか兎みたいな物とか見たことがない。そうだとしても、注意しなくてならないのだ、と。
「……ここって動物とか魔獣とかなどがいないのか」
「いますよ。でも大丈夫です。魔獣は魔力を怖がちなので、私の魔力を匂うと私達の位置に近づけません」
「へー、そっか」
魔獣が魔力を匂うという概念に驚いた。便利だな、と。でも、一番驚いたなのは別なものだ。
「以外だな。役に立つもんがあるんだ、お前は」
「……何か言いましたか?」
そう言うが早いか、ミナが振り返って、毛先が赤くに染まっていきながらミナが言い返すと、嫌がる顔を顰める。雄一の気分は驚愕から恐怖に変わり、何も言わなかったことにした。
「いや、別に」
雄一そう言った途端ミナの表情が緩んだ。そして、もう一度振り返って歩く。
歩けば歩くほどくたくたの感覚が体中に走る。暑くはなかったけれど雄一は汗まみれだった。ミナを見ると、彼女は汗疲れの気配もなくて、順調で速いペースで歩く。ミナなりにすごいなと、雄一が思った。
どうにか、数時間のあと、木ではないの何かが遠くような近くような場所から雄一の視線に入った。
「あれは村じゃねーか」
「村です。シルデスという村です」
村の形を初めて見たところから約二キロメートルを歩くとシルデス村に着く。
「着きました」
「やべぇ、疲れてるな」
膝に両手をかけて息を吐く雄一。シルデス村は木製の家ばかりで村の広場の真ん中で菊花の彫像があった。
雄一は頭を上げて聞く。
「……で、ここにどうする」
「そうですね……宿屋を探す方がいいと思います」
ミナそう言う理由として、雄一は空を見上げ、太陽が西に沈んでいくところを見れた。宿屋と書かれてる大きな黒板へ行くと三階の木製建物に入って、受付嬢とミナが話しつつ雄一はロビーを見回す。
「すごいな、ここ」
階段に視線をやった瞬間にミナが彼の隣に立った。
「俺達の部屋の番号は?」
「二一号室です。二階にあります」
「じゃ、俺は先行くぞ」
雄一は階段を上り、二階の辺で左へ曲がって廊下を歩く。二一号室を見つけると入ろうとしたけれど妙なことに気がつく。
「え? なんでドアが開いてるのかな……ま、どうでもいい。寝たいな」
ドアを押す雄一は一歩を踏む寸前で、まぎれもなく泣き声を聞こえた。迷った子のような泣き声。部屋の中を窺うと、真っ暗な部屋のベッドの上で、体育座りをする女子がいるのを見取れた。カーテンをかけたから太陽の光が漏ることなくて、ただ女子のすすり泣きを部屋に響く。
「………………」
唖然たる雄一は何も言わず彼女の震える背中を眺めて女子の長い髪も揺ぐ。
「……何で……わたしは……怖い……死にたくない」
「……あの」
女子の泣き交じりの言葉に雄一は話しかけることにした。
「……誰だっ」
彼女は頭を振り返ったけれど雄一が女子の顔をさっぱり見られなくて、廊下から漏れる光を彼女の目に映りのをのみ見れた。
「あなたは誰なの」
女子の質問に雄一は自分に名前を言うために口を開く。
「あ、その、俺は―」
「出なさい」
「お、おう」
女子が叫びほどの大声で命じて雄一は従った。
「何なんだよ、あいつ」
混乱と共感交じりでそう言いながら頭を掻く。
「それより、俺の部屋じゃん」
足の音を聞こえて、雄一が階段のほうへ目線をやってミナが小走りでくる。
「ごめんなさい。間違いました。私達の部屋は一二号室です」
焦る声で話して謝罪をするミナ。
「さすがだな、ミナもんな……」
皮肉げそう言う雄一がため息をつく。でも雄一はミナともかく、女子のことだけが頭に浮かぶ。
「……失礼なことやったよな」
「ん? 何の話ですか?」
「いや、何でもねー」
雄一はあの女子のことばっかり考える。彼女の泣き声を覚えると背筋が寒くなり、不安を感じる。今では、彼女があの二一号屋にて一人でまだ泣いているのだろう。
その夜に昨夜よりも早く眠り込んだ。しかし、ずっと、あの女子の泣く姿の夢を見た。