第7話 突き付けられる死
俺がラミリアの家に着いたときにはまだ何も起こっていなかった。
俺は安心したものの、家も人も失ってしまった現実にこれからどうすべきか悩んでいた。
疲れていたので俺はとりあえずラミリアの家の窓のそばに座り込んだ。
「家を飛び出してきたけど、さすがにやりすぎだったのかもな」
だって、この世界は日本とは違う。
生きていくためなら仕方なかったのかもしれない。
でも、やっぱり人殺しに加担するのは……。
俺の中で解けない問題が混ざり合い渦を巻いていた。
俺はラミリアに逃げるよう説得するのが先決だと割り切って、立ち上がった。
すると俺の視線が高くなるにつれ、眼前に人の顔が出来上がっていった。
「――ぅおおわ!!」
俺は驚き後ろに尻を打った。
上を見上げるとそこには、壁に手をつき上から見下ろしてくる『誰か』がいた。
その顔は20代半ばくらいの女性で恐ろしく微笑んでいた。
彼女の格好は暗くてわからないが、おそらくほぼ黒のマントをまとっている。マントには赤色で何かのマークが描かれている。
彼女はさらに不気味に笑い、顔を近づけてきた。
「僕ー、よくないわねぇ。こんな夜中に外を出歩くなんてぇー。お仕置きしないとだわねぇー」
「――なっ!」
彼女は目を大きく見開き、さらに不敵に笑っている。
すると、彼女は雑に手に持っている大きな『何か』を俺に差し出してきた。
暗くて何なのかよくわからない。
俺は目を凝らして確認する。
赤い?
血の臭い?
人か?
意識がない?
まさか……、死んでいる、のか?
俺はさらによく見る。そして絶望のどん底に落ちた。
――あれは、フィリムだ。
全身が血にまみれている。
……死んで、いる?
「そんな……。フィリム、なのか? 嘘、だろ……」
俺は顔を絶望一色に染めながら震える声で『何か』に尋ねる。
「死んでいるのよぉー」
彼女は楽しそうに笑っている。
「へ……? そんな、こと、あるわけ……」
「あなたが家を飛び出してから後を追っていたこの子を、私がゆっくり殴って蹴って刺して斬って殺してあげたのよぉ」
……そんな。そんなことって、死んでいるって……。
「あの絶叫恐怖苦痛の顔と声はさぁあいこうだったわぁ」
彼女は口元に手を置き、とろけそうな顔をして言った。
彼女は嬉々として人を殺しているのだ。
俺は差し出されたフィリムの遺体を急いで受け取り、確認する。
目は閉じられたまま一向に開く気配がない。顔に、いや全身にところどころ斬られた跡があり、打撲の跡もあった。そして、体の中央部に貫かれた穴があった。
何より出血がひどい。死んでもなお出血が治まっていない。
「――なっ……、フィリム! おいフィリム! 起きて、くれよ……」
フィリムは揺さぶる俺のうでに抱えられ、人形のように首が動くだけだった。
――死んでる、死んでる! フィリムが、さっきまで生きてたのに……。やっと救われたはずのフィリムが!
「そんな……。なんでだよ……。なんでなんだよ!! フィリム!!」
俺はフィリムを強く抱いて、泣きながら叫んだ。
――ずっと一緒って約束したのに……。
俺が破ったのか……。俺のせいで、フィリムが……。
「その顔いいわねぇ。なんでって、情報屋としての守秘義務を破ったからでしょう。当然のお仕置きだわぁ」
俺は気力も体力も一気に失った。『彼女』への怒りすら消えてしまい、頭が真っ白になっていた。
それに伴いフィリムの亡骸は消え、血まみれの衣服だけになっていた。
しかし何も考えられなくなっていた俺には、そのことに気付く余裕はなかった。
早速鬱展開になりましたが、読んでくださりありがとうございます。
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