第6話 信頼関係はとても脆い
それから俺とラミリアは俺が買い物に行くたびに会うようになった。
初めは俺が一方的に会いに行っているだけだったが、買い物で使える読み書きを教えてほしいと言ったら悩んではいたもののOKしてくれた。
しかし会って1週間後、ことは急激に動いた。
家で俺とフィリムがいつも通り夕食を食べているときのことだった。
「それで、ミナトは私に秘密で女でも作ったんですか?」
「――ブフッ」
俺は盛大に吹いた。
「なんで!? てか言い方よくないでしょ!」
「質問に答えてください?」
笑顔で聞いてきて、非常に怖い。
「女は作ってないけど、女の人とは知り合ったよ」
「それがだめなんです! ちなみになんて名前ですか?」
頬を膨らませているフィリムも可愛いのー。
「ラミリアっていう人です」
俺はフィリムの圧に縮こまって答えた。
途端、フィリムが硬直した。
「ラミリアって、あの白金の髪の、ですか?」
「おう。そうだけど、どうかしたのか?」
俺が答えるとフィリムはより青ざめた顔をした。
人生の最悪を目の当たりにしたような青さだ。
そして顔を両手で覆った。
しばらく黙り込んだ後、フィリムは震える声で喋りだした。
「あの人は、もうすぐいなくなります」
「は?」
フィリムがこんなに深刻そうな顔をして、いなくなるって、え?
意味が分からない。
「どういう、ことだ?」
俺の言葉にフィリムは一瞬肩を震わせ、顔をうつむかせ両手で覆ったまま、さらに震えた声で言葉をゆっくりと紡ぎ始めた。
「こ、殺され、るんです……」
――ガタンッ!!
俺はあまりの衝撃に跳ねるように立ち上がっていた。
「なっ!! そんなわけ――」
「――あるんです」
人が、死ぬ?
知り合いが死ぬ?
なぜ?
意味わかんねぇ。
俺はそこで思い出した。ここは日本、いや地球じゃないと……。
そして知った。
ここは人が殺し殺されるような世界であると。
日本のようにぬくぬくと安全安心に生きていける世界ではないと。
そういった甘い考えが通用する世界ではないと。
「ほんとにラミリアは殺されるのか?」
「……はい」
フィリムはいまだに震えた声でそう答えた。
「なんでフィリムがそのことを知っているんだ?」
「そ……、それは……」
フィリムはまたしても一瞬肩を震わせ、うつむいた。
「なぁ、おい……。なんで……、知ってるんだ? なぁ!」
俺はフィリムの肩をつかみそう言った。
今度は俺の声も震えていた。
フィリムはまた肩を震わせてから、涙目になって話し始めた。
「私が、あの人の情報を、売ったからです……」
俺の中に衝撃が走った。
「売ったって……。え……。なんで……?」
――なぜ? フィリムが人の情報を売る? は?
「仕方ないんですよ! 私だっていやですよ。人を殺す手助けなんてするのは。でもそうでもしないと生きていけないんですよ。私たち吸血族は!」
フィリムは泣きながら俺に言った。
その顔には怒りと悲しみが渦巻いている。
俺は絶望した。
信用していた人が、理由があったにせよ人殺しに加担していたのだから……。
「そんな……。フィリムがそんなことするなんて……」
俺は数歩後ずさってそのまま家を飛び出した。
そして街を――ラミリアを目指し静寂に包まれた真っ暗な、整備なんてされていないでこぼこの道をひたすら走るのだった。
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