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第4話 初めてのデート

 この家は木造1階建ての古びれたちっぽけな家だ。

 玄関から入って正面がすぐリビング兼ダイニングで、右にかまどなや炊事できるところなどがある。いわゆるキッチンだ。リビング兼ダイニングの奥に部屋が右から寝室、空き部屋、水浴びの場所とある。


 寝室を分けようと言ったが、一緒がいいと聞いてくれなかった。


 家が汚かったのは、しばらく外出していたかららしい。

 普段はとてもきれいだ。

 まだ住み始めて2日目だけど……。


 料理はそもそも俺はできないが、いつもフィリムに作ってもらっている。

 

 …………俺なんもしてねーじゃん!!

 怠惰を貪るニートじゃん!!!!


 フィリムにとって唯一の人かもだけど、ただで何にもせず居座らせていただくのは、さすがに気が引ける。

 何かしなくては。


 フィリムと向き合って朝ご飯を食べているとき、俺はふとそう思った。


「フィリム、俺になんかしてほしいことある? 手伝いとか」


 フィリムは食事をする手を止めて、即答えた。


「ないです。私が全部しますから」


「なんか手伝わせてくれよ。受け取りっぱなしなのは、さすがに悪いからさ」


 フィリムは少し考えるしぐさをした後言った。


「じゃあ、一緒にデー……、買い物に行きませんか?」


 ――フィリムが少し赤くなってるし、最初聞き捨てならないこと言おうとしなかったか?

 まぁ買い物くらいなら俺でもできそうだし、手伝わせてもらおう。


「買い物くらいでよかったら、いつでも行くぞ。何なら1人でも」


「私と行くんです!」


 フィリムがむっと怒った。


「荷物持ちか?」


「それもありますけど、一緒にいてほしいって……」


 後半小さくなっていって聞き取れなかった。

 そしてフィリムが赤くなっている。

 色が白いから赤くなるとわかりやすい。


「わかった。食べたら行くか?」


「はい!」


 元気のいい返事が返ってきた。

 そんなに陰キャ高校生と行きたいのか……。



 この家から街までに家はなく、簡易的な道に沿って歩いて40分と、かなり遠い。

 それでもフィリムと他愛無い話をしながら歩けば、ほんの少しにしか感じなかった。


 街に入る前にフィリムはコートのフードを深々と被った。

 

 ――かわいそうに。


 俺はそう思ってフィリムを見つめることしかできなかった。


 街は賑わってはいるものの、小さい町なのか特に人が多いわけではなかった。

 この街もぴかぴかの建物でできているわけではなく、古い木造の家がたくさん集まってできており、1階で店主が商売をしている。

 広場には出店をしているところもあった。


 俺とフィリムは静かな裏通りをさっさと進んでいく。そして、裏通りの奥にあった古ぼけた店に入った。


 中は薄暗く、中央に吊られている1つのランプだけがゆらゆらと店内を照らしていた。

 店内には1人、白髪の爺さんだ。顔は青白く、骨が浮き出るほどにやせ細っている。


 フィリムは店内に並べられたものを1つ1つ手に取って見ている。

 俺も無造作に置かれた商品らしきものを手に取って見る。


 ――人参か? これ? 指2本分ほどの細さでひん曲がっているが、色だけは鮮やかとは冗談でも言えないが人参だ。


 どの商品もそのような日本ではまず捨てられそうなものばかりだ。


 フィリムはその中から、人参と玉ねぎなど5つほど抱えてお会計へ行った。

 爺さんは淡々と会計を済ませ、持ってけとぶっきらぼうに言い放った。


 この買い物は俺の想像していた買い物とは程遠かった。

 けれどもフィリムは上機嫌で今日はいいのを買えましたと言っている。


 もっといい店ならいくらでもあるのに。経済的に行けないのか、世間体的に行けないのか……。どちらにせよ俺はフィリムを囲う悲しい現実を目の当たりにしたのだった。



 帰り道、太陽が1日の仕事を終えてオレンジ色となって沈んでいく頃。俺がフィリムの横でゆっくりと歩いていると、フィリムがそっと柔らかな手で俺の手を包んだ。


 視線を落としながら横にやると、フィリムはほんのりと頬を赤らめながら上目遣いで俺を見ていた。

 その眼には初めて会った時のような警戒の色はなく、優しい色で満ちていた。


 俺の心臓はすでに制御不可能な状態にありふと、どちらかといえば守ってあげたいという意味でこれからもフィリムと一緒にいたいと思った。

 そして俺はまだ少し小さくて可愛らしいその手を、壊れないようにそっと握り返した。


「これからも、ずっとずっと一緒ですよ!」


 フィリムがそう言いながら俺に見せた笑顔は夕日に照らされ、その何とも言えない可愛らしさに心臓の鼓動の速度と音量は否応なく跳ね上がった。


「おう!! 約束だ!!」


 そうしてお日様が完全に帰ってしまう前に、俺たちも家まで少し速足で帰るのだった。


お読み頂きありがとうございます。

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