貴方が~、破棄したいのは、どの婚約ですか?
一発ネタです。出オチとも言います。
「この場をもって、私の名のもとに婚約を破棄する!」
私は自身の成人を祝うパーティーで、婚約破棄を高らかに宣言した。私の前にいるのは、当王国三大公爵家のご令嬢たちだ。
「貴方が~」
そう言ったのは、私の婚約者のファース公爵令嬢。
「破棄したいのは」
そう言ったのは、私の婚約者のセカン公爵令嬢。
「どの婚約ですか?」
そう言ったのは、私の婚約者のサルド公爵令嬢。
「もちろん、全部だ」
かっこよく決められただろうか。せめてこれぐらいは、かっこよく言わせてもらいたい。
「「「全部!」」」
顔に手を当てたり、腕を振り上げたり、小さく跳ねたりして、各々嬉しさを表現する公爵令嬢たち。
「「「「いぇ~い!!」」」」
貴族のパーティーらしからぬ参加者全員の歓声が、会場に響き渡った。
「愚父が大変ご迷惑をお掛けしました! 婚約がトリプルブッキングって何なんだよ! この度は大変すみませんでした!!」
歓声に負けない大声で、私は平謝りだ。頭も下げまくった。
王太子である私にはつい先程まで、婚約者が三人いた。これは明らかにおかしな状況だった。何がどうしてそうなったのか、我が愚父は私の婚約トリプルブッキングをやらかしやがったのだ。当王国は国王でも一夫一妻制だ。そしてあの愚父は何を思ったか、一夫多妻可に法律の方を捻じ曲げた。普通は被った婚約をどうにかするだろう、普通は。
今までは未成年であったため、自分の力ではこれら三つの婚約をどうすることもできなかった。成人を迎える今日この日を、私はずっと待っていた。婚約破棄し、彼女達を自由の身にするために。
「一旦静粛に。慰謝料はきっちり払わせてもらう。各々希望はあるか?」
「はい~」
お淑やかに手を挙げたのは、ファース公爵令嬢だった。
「はい、ファース公爵令嬢」
「将来兄様を宰相にしてほしいです~」
「大変優秀な方だから、言われなくてもなってただろうけど、はい喜んでー」
続いて元気に手を挙げたのは、セカン公爵令嬢だった。
「はい!」
「はい、セカン公爵令嬢」
「海辺の領地が欲しいわ」
「国内で海辺の領地となると、魔物が多い場所しかないが、そんな所でいいのならー」
喜びを隠しきれずに手を上げたのは、サルド公爵令嬢だった。
「はい!」
「はい、サルド公爵令嬢」
「殿下の弟を婿にください」
「それはあいつの意向も確認しないと」
ちらりと弟の方を見ると、満面の笑みでオッケーサイン。
「はいオッケーでましたー」
慰謝料のはずなのに、各公爵家とも気を使ってくれているのをひしひしと感じる。
「この場では口約束となってしまい申し訳ないが、後日改めて書面での」
私の発言がまだ終わっていないにもかかわらず、熱い抱擁を交わすサルド公爵令嬢と我が弟。
「え、待って。お前たち元々できてたの!? 私の目の前で抱き合うな。私の心をゴリゴリ削るな~~~! ぐすんぐすん」
我が弟よ、兄は再起不能だよ。
追い打ちをかけるように、ファース公爵令嬢が私に話を振ってきた。
「殿下は結婚どうするんですか~?」
「将来の国王が、結婚しないわけにはいかないわよ」
セカン公爵令嬢が追撃に加わる。
「結婚、ああ結婚かあ。今まで婚約破棄することに必死で、何も考えていなかった」
自分のことなど二の次になっていたが、私は必ず子孫を残さないといけない。いや弟がいるから、最悪弟か甥か姪に王位を譲るという手も無くは……。
「殿下にはフォルちゃんがいるではないですか~」
「フォルちゃんは辺境伯家の出身だから、家柄は問題ないわね」
「殿下はフォルちゃんのこと好きでしょう~? この場で婚約しちゃいましょうよ~」
「フォルちゃんも殿下のこと好きなんだから、遠慮することなんてないわよ」
「三大公爵家はフォルちゃんと殿下の仲を、応援させていただきます」
つまりは三大公爵家が、フォルの後ろ盾になってくれるということだ。サルド公爵令嬢、そんな大事なことを、弟の腕の中で言わないで。
「そうは言われても、私のこんな姿を見せたくなくて、今日は呼んでいないぞ」
ファース公爵令嬢が意味深な笑みを浮かべた。
「出てきて大丈夫ですよ~」
パーティーテーブルにかけられたテーブルクロスが不自然に動き、テーブルの下から現れたのは、ドレスを着たフォルだった。
「サプライズだわ」
してやったりという顔でセカン公爵令嬢が、立ち上がろうとしたフォルに手を貸した。
注目を集めて恥ずかしそうにするフォルに、私は歩み寄った。ここまでお膳立てされれば、言わない方が男が廃る。
「フォル辺境伯令嬢、私と婚約してくれるか?」
「ごめんなさいです」
私の時が止まった。
そんな私を見てフォルは、慌てて言葉を続けた。
「あわわ、一度断った方が、盛り上がると言われたのです。私で良ければ、傍で殿下をお支えしたいです」
誰だ、フォルに変なことを吹き込んだのは。一瞬本気で死にたくなったじゃないか。容疑者である公爵令嬢たちを思わず睨んだ。
「ここにいる全員、殿下が頑張ってるのを知ってるわ」
「これからも応援してます~」
「そんなこと言われたら、怒るに怒れない。みんな、ありがとうー!」
父はどうしようもない愚か者だけれど、良き臣下たちに恵まれて私は幸せ者だ。
国王は強制療養中でした。