第6話 救い
1つの小さな部屋。そこに住む少女の名は来栖出雲。見た目はお嬢様のように美しいが、体には沢山の傷がある。そして中身はどこか脆くいつ崩れてもおかしくない。そんな彼女の部屋は現在床が血だらけで、そこら中に『殺す。殺す』と書かれていた。
「どう?私の部屋以前よりも汚く。そして怖くないかしら?」
「怖いも何もねえよ。雑巾どこにあるか教えてくれ」
とりあえず、掃除をしてやろう。床の血を踏み足跡が出来てしまっているが、こんなの放置しておくとそのうちハエが集ってきてしまうしな。普通の出雲だよな?昨夜と何も変わらない出雲だ。
「馬鹿みたいね。救いが見えたのにも関わらず、自ら死のうとするなんて・・・。本当に本当にごめんなさい」
「謝るな。お前は何も悪くない。それに俺も中途半端なアドバイスをしてしまった。そのせいで追い込まれてしまったのなら原因はお前なんかじゃない」
「この偽善者が余り生意気なことを言うのはやめてくれる?」
「いきなり何を言い始めると思ったら、一宮先生と同じことを言い始めやがったか」
「私達は救いを求めることをしても救われることなんて絶対にないわ。もし仮にそれがあるならばとっくにあの教室から出ていってるはずだもの」
「だからといって見捨てたらそこで死ぬだろ?」
「それはどうかしら?私は親に捨てられようが、社会が敵になろうが生きてきたわ。まだ何も知らない新人さんが人を救おうとする前に、自分のことについて知るべきじゃないの?」
冷静になれ。冷静に!ここで言い返してしまうと喧嘩になってしまう。そしてその後はストレスが溜まりまた体を切ってしまうかもしれない。そんなことになったら、また同じことを繰り返すだけだ。
「ねえ篝君。今の私をみて何を思うの?気持ち悪い?クズ?それとも死ねって思う?」
「仲間がいなくてずっと苦労してきたんだなって思うよ」
「それは良い意見ね。そうだ!今日は特別に傷を入れる瞬間を見せてあげるね」
出雲は、果物ナイフのようなものを取り出し、服を脱ぎ始めた。
「おい、だからそれをやめろって言ってるんじゃないか。少し落ち着け」
「落ち着いてるわ。それに、これくらいで死ぬはずなんてないから安心してちょうだい」
「だからな、そういうことを言ってるんじゃない。お前がこれ以上傷を追うようなら、俺も同じことをしてやるよ」
「そう?じゃあこれかしてあげるから同じようにやってみない。出来たら偽善者じゃないことを認めてあげる。出来なかったら二度と私のことに口を出さないでね」
どうしてこうなる。しかし、ここでやらなければ、この女を救えないじゃないか。俺はあの日出雲に助けてもらった。でも・・・・。でも・・・・。
「迷っている顔をしているわね。最初から出来ないなら言わなきゃいいのよ。偽善者さん」
「うるせええ。こうやればいいんだろ」
「待・・・って」
果物ナイフで自分の腹を切る。出雲は止めてきたがそれを無視した。これで偽善者じゃなくなるならば、受け入れてくれるのならば、救いならば痛みなどどうでもいい。
「こ・・れでいいか?」
「馬鹿!そこまでして救いたいなんて思うの?」
「じゃあーあの日、お前はどういう思い飛び降りようとしてたやつを止めたんだよ。お前も本当は体なんて切りたくなかったんだろう。昨日だって泣いていた。泣いていたけど、それ以外の方法がわからなかっただけじゃないのか?」
「・・・・・・」
「俺だって、こんなこと二度とやりたくないと思うほど、痛いがお前はそれもなれてしまったか?それともまだ痛みを感じるか?」
「・・・」
「もし、痛みを感じているならまだ手遅れなんかじゃない。偽善者だと思うなら言ってもらっても構わない。俺はこれで腹を切って痛い思いをしても来栖出雲を救いたいんだよ!!」
「本当にどうしようもない馬鹿な人ね。とりあえず、こっちに来て応急処置してあげる」
始めて来栖出雲が心から笑ったように感じた。いつも見せない笑み彼女の中で何か変わったのだろうか?それともただの偽善者の言葉で下らないと思ってしまったのだろうか?
偽善者ビーム!!
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