【ヒーローズ】スクリッドマンvs暴食怪人バーガード
アレグラの爪が怪人の喉元を的確に切り裂き、画面を赤く染めた。
『突如、現れた謎の人達―――えっと、今現場から連絡がありました! どうやら、謎の集団は【ヒーローズ】というらしいです! その一人が怪人を倒してしまいました!!!』
画面から、アナウンサーの声が明るく聞こえる。
そして、歓声が沸いた。
アナウンサーは子供にマイクを向けて、声援を聞かせる。
『【ヒーローズ】、がんばってー!!!』
画面越しに見える高まる希望。
俺はそれが嬉しくて、顔が笑みでほころんでしまう。
「あいつら、あれで変装のつもりかよ。」
顔を上げて前を見る。
「俺も、俺も行かないとな!!!」
そして俺は再び、駆け出した。
☆☆☆
アレグラは何もなかったかのように、手を振りはらいながら、爪先に着いた血を飛ばす。
「ダサいとは失礼な方ですね。」
的確に切り裂かれた喉から大量の血がとどめなく溢れる。
倒れた怪人に顔面が大きく、顔から手足が生えている歪な丸っこい怪人が近寄り声をかける。
「おいぃ!? 大丈夫かぁ!?」
ひゅーひゅー
倒れた怪人の喉からか細い呼吸音だけがしており、それはまだ生きている事を表していた。
「お仲間なら、早く手当をしてあげなさいな。」
アレグラは声をかけた怪人に告げる。
――しかし、怪人は倒れた怪人を助ける訳でもなく、その怪人を持ち上げると、大きな口の中にペロリ頬張り、口を動かし始める。
ボキボキ
グチャグチャ
嫌な咀嚼音が硬直した空気をゆがませていく―――
「んな!? お仲間を食べるんですの?」
アレグラは驚愕で声を上げる。
「ゲップゥウウウウウ」
顔面の怪人は喉を鳴らして、腹を叩きながら大きなゲップ音で返事をする。
そして、その視線がアレグラにむく。
「仲間ぁ? ぐふふ。倒れたものは他の奴の糧になるぅ。それがオラたちのルールぅなのだぁ。オラたちはシラセ様の作った蟲毒の中で生きてるだけだぉ。 でも、お前、旨そうだなぁ……」
顔面の怪人はじゅるりと舌を舐めまわしてアレグラを見つめる。
「ひぃ……!?」
あまりの醜悪さに、アレグラは顔を青ざめながら、後ずさりしてしまう。
「お前。オラが喰うぅ!」
そう告げた瞬間、顔面の怪人が消える。
より正確言うならばには、顔面の怪人は残像が残るほど、素早く動きだした。
そして残像が徐々に消えているだけなのだ。
アレグラはキョロキョロと辺りを見渡す。
床が削れる音が四方八方から聞こえる。
そんなやりとりを見てたテッペキンが声を上げる。
「あいつは!?」
「……知ってるのか? テッペキ――キンニクマスク?」
「暴食怪人バーガード……S級に近い力を持っているシラセの部隊のヤバイ奴ですよ! お嬢が拙いかもです。俺っちの壁の中に戻ってこれないのかも?」
「あんたたち、怪人に詳しいのね。本当に一体、何者なの?」
二人の会話に疑いの視線を込めてSUMOライダーが話かけた。
「……すまんな。嬢ちゃん。そんな事は後だ。後。今は――」
テッペキンの張った壁を中々破れずにフラストレーションを溜めていた怪人達は、一人乗り込んできたアレグラとバーガードの戦いに好奇の視線を送ってる。
暴食怪人バーガードのその素早い動きでアレグラの退路を塞いでしまっていた。
残像がその場に残ったまま、動かれてしまい、正確な居場所が捕らえられない。
突然、アレグラは背後から濁った空気の流れを感じた。
息できなくなるほどの悪臭。
「このっ!」
アレグラが振り向こうとした時、時すでに遅し。
「きゃあ!」
そして、アレグラを背後から掴み上げられてしまう。
「ぐふっ。いっただっきまーすぅ。」
バーガードが大きな口を開くと、怪人達から歓声が上がる。
――やっちまえ!!!
――食え! 食え!
――そいつらを丸裸にしてやれ!
怪人達のテンションが盛り上がりを阻むように、急にバーガードが転んでしまう。
ドンッ!!!
「んあぁ?」
何が起こったのかとバーガード自身も混乱をして呆けた声を出してしまう。
それは、スルメンの触手がバーガードの足に巻き付き、それを思いっきり引っ張ることで、体を倒したのだ。
スルメンは解放されたアレグラの元に駆け寄り、お姫様抱っこで持ち上げて声をかける。
息も絶え絶えながらアレグラは答える。
「はぁ……はぁ……」
「……大丈夫か? お嬢――スカーレッド。」
「スクイッドマン。あ、ありがとうですわ。」
「……なに、気にするな。テッペキンの壁の中に戻れ。」
そう言って、アレグラを投げ飛ばす。
そんなアレグラをテッペキンが受け取った。
それを見ていて起きあがったバーガードは急に現れたフードの男に怒号をぶつける。
「おめぇ、オラの楽しみを邪魔しやがってぇ!」
バーガードが動き出そうとするも、脚に巻き付けられた触手がそれを邪魔する。
「なんだこの触手ぅ? おめぇ、人間じゃねーのかぁ?」
「……俺はな。ヒーローは嫌いだが、お前みたいなゴミ怪人がもっと嫌いなんだよ!!!!」
スルメンの体からどんどん触手が伸び始める。
バーガードの手を足を顔に、どんどん巻き付き始めていく。
既にバーバードに自由はなく、なすがままに宙に浮かびあげられてしまう。
どんどん宙高く。
空に空に。
それはセントラルタワーの中に隠れいる住民達が視認できるほどの距離。
急に見えた怪人に驚きや悲鳴で成り上がり、混乱が巻き起こる。
それを見学していた怪人達がスルメンに攻撃するも、器用に触手によって近づくことも遠距離攻撃も阻まれてしまう。
「貴様の自慢のスピードもそれならだせないな!? 自由を奪われた痛みを知れ! お前には未来も自由も与えない! 落ちろ!!!!」
スルメンのテンションが上がり、話し方もどんどん荒くなっていく。
(あの話し方! あの触手……あいつ!!!)
SUMOライダーは以前、イクラシティで戦ったあの怪人を思い出していた。
バーガードの巨体が数百メートルの高さから地面に叩きつけられる。
ドンッ!!!
砂煙で映像は完全に見えなくなってしまった。
『が、画面が隠れてしましました。どうなったのでしょうか?』
しばらくすると煙が晴れていく。
バーガードは気を失いっているようだ。
そして巨体で大くの怪人を巻き込んで、近くに来ていた怪人が数体の怪人も倒れている。
☆☆☆
「くかか。バーガードがやられるか。」
シラセはワインを片手に上機嫌で、流れる映像を見ていた。
ここは、カズノコシティにある大きなアインの屋敷の内。
もともとは怪人協会の物だったのをシラセが私物のように扱っていたのだ。
「それにしても【ヒーローズ】。こんな切り札を隠していたとは。儂も目が衰えたかの?」
そんな上機嫌なシラセの横にはカメラを構えた青年が一人たっていた。
「あの……私はいつまでここに居れば……」
青年の顔は恐怖で歪んでいる。
「なぁに。これから面白いショーが起こるでな。君にはちゃんとそれを発信してもらいたいのだよ。」
「面白いショー?……」
「絶望ショー。」
ニヤニヤと笑いながら、短く答えると、ワインをくいっと軽く飲み込む。
それを見て青年はがくがくと足が笑ってしまう。
(【ヒーローズ】、確かに彼らのおかげで希望を見た人もいるかもしれない。でも……俺には無理だ。目の前のこいつは異次元すぎる……誰か……誰か来てくれ……)
情報を発信するためのメディアの仕事。
それなりに誇りを持ってやっていたし、トシさんの元で、色々とヒーローや怪人についても教えて貰っていた。徐々に怪人の放つ異様なオーラにも慣れてきていた……つもりだった。
でも、こいつはどれでもない。
異質・異様・異常
こんな怪人がいるなんて聞いていなかった。
青年が絶望感に心が蝕まれていると、突然、窓が割れる。
「やっと見つけたよ!!! シラセ!!!」
現れたのはこの街の象徴ヒーロー――魔法少女、タマキキャットだった。
「タマキキャット……さん!!」
「くかか。小娘。やっと来よったか。 やれやれ待ちくたびれたぞ?」
「貴方はあたしが絶対に倒す!!!」
相対するタマキキャットとシラセ。
本来ならば、光輝く象徴ヒーロータマキキャットの登場に、安心をしていただろう。
しかし、青年の心の中には期待よりも不安の色が強くなっていた。




