妄執の果てに
渾身の力を込めた一撃。
俺の攻撃をまともに喰らって吹き飛ばされたスラッシュは壁にぶつかり倒れている。
スラッシュは動く気配もない。
ようやく、長い戦いが終わった。
ギリギリの戦いだった。もしも、アレグラが来なかったならば、俺はやられていただろう。
スラッシュの注意がアレグラに向いた事で、最後の最後、とどめが刺されずに済んだのだ。
俺は安堵と疲れを吐き出すために大きく息を吐くと、どっと疲れが俺を襲った。
しかし、まだ倒れるわけにはいかない。
最後に、スラッシュの一撃がアレグラを入った事を見ていた俺は、「アレグラは大丈夫か?」と声をかけながら、身体を引きずりアレグラの元に近寄る。
返事はなく、身体を見ると、腹を斬られており、大量の出血をしていた。
心配になり顔に耳を当てると小さくだが息をしている事は確認できた。
安心をして、座りこむ。
「はぁ……災難な一日だ。」
そんな事を思い、俺は目を瞑ると、体中が痛みでしびれ始めるが、疲れがまさっていたのでだろう。
俺は深い闇に落ちていった。
☆☆☆
ゆさゆさと身体が揺らされる。「ねぇ、……!!」
身体が揺らされるのと同じタイミングで誰かが俺を呼ぶ声がする。
どのくらい寝ていたのだろうか?
視界の先には、アレグラが心配そう顔を浮かべて除き込んでいた。
服がボロボロで、出血の跡が黒く変色している。
「司!!目が覚めたのね!よかったわ!!」
目が覚めた俺に抱きついてくる。
「アレグラは大丈夫だったか?」
「わたくしは……なんとか……司が寸でのところで助けてくれたおかげですわ。わたくしよりも司の方がボロボロですわ。」
俺はふらふらっと体をよろめかせながら立ち上がる。
「助けられたのは俺の方だよ。」
アレグラの頭を撫でながら、そう答えた。
辺りの惨状を見るに昨日のことは夢じゃないらしい。
「ねぇ司。それにしてもこの惨状はどうなっているのですか?おじい様達は無事なのかしら?」
「バイロン候は……」
俺の声色から察したのだろう。「……そんな……」と絶句して固まってしまう。
「俺が来た時に間に合わなかった……すまん。」
「いえ、司が謝ることじゃないですわよ……」
寂しい表情を浮かべながら、フォローをしてくれるが、俺も後悔の念が押し寄せてくる。
そんな俺を察してか、アレグラは話題を変えてくれる。
「美衣子や鉄男はどうしたんですの?」
「キャットシーは先にやられて人質になってた。テッペキンはスラッシュの元についていたようだ。スラッシュとの攻防の時に、スラッシュの盾になって俺の『正義の鉄槌』の一撃を喰らわせてしまった。」
「そうなんですのね。」
「あいつらを救護して話を聴こうか。」
「分かりましたわ!それじゃ二人を見つけに行きましょう!」
その時、スラッシュの方でほんの少し邪気を感じた。
「アレグラ、ちょっと待っててくれ。」
俺は吹き飛ばしたスラッシュの元に向かう。
☆☆☆
スラッシュはその場に倒れたままだった。
しかし目を見開いており、俺を見たので、意識が戻っていることは伺えた。
「よう、スラッシュ。目が覚めたんだな。」
「まさか、貴様が我の障害になるとはな……貴様を殺す機会などいくらでもあったんだがな。今考えれば、最初に対峙したときに、貴様をたたっ斬っておけば良かった。」
「そうだな。あの時の俺だったら間違いなくやられていただろうな。そうでなくてもあの最終局面で、アレグラに気をひかれなきゃ、俺に最後のとどめをさせただろうに。」
「で、貴様はなぜここに?我にとどめでも指しに来たか?もう我には戦う力すら残っていない。好きにするが良い。」
「いや。」
スラッシュは訝し気な表情を浮かべて俺を見る。
「では何をしに来た?」
「話をしに来た。なぜ、お前は吸血鬼を執拗に狙う理由を。吸血鬼と友好に過ごす方法はないのか?」
スラッシュがぽつりぽつりと話し出す。
「我にはみゆきという愛娘がいたのだよ。その娘が、吸血鬼の餌食になったのだ。それも有ろうことか、吸血の儀という悍ましい儀式の生贄になったため、遺体する戻ってこなかったのだよ。」
「そんなことが……!?しかし、その吸血の儀ってのは、吸血鬼が生きていくために必要なんじゃないのか?」
「さぁな。我にはその儀式の重要性は分からぬが、吸血鬼を作り出す禁止された儀式だ。だが、この時はそもそも犠牲者が出ることがおかしかったのだよ。」
「そもそも、なんで儀式が禁止になっているんだ?」
「貴様は知らぬかもしれぬが、吸血鬼と怪人は第一次世界大戦という戦争によって全てをかけて戦かったのだ。その結果、怪人側の勝利となったのだ。貴様みたいにあの戦争を経験していない怪人には分からぬかもしれぬが……な。」
「つまり、その戦争で怪人に負けた腹いせにその儀式が行われたってところか?」
「そうではない。怪人側は勝利する事によって吸血鬼には様々な厳しい制限が掛けたのだ。禁止事項に新しい吸血鬼を生み出す事、つまり吸血の儀があったわけだ。」
「そうなのか。つまり、禁止された儀式の生贄にお前の娘が犠牲になったって事か。」
「戦争における陣営の勝ち負けとは、買った側が負けた側の自由を奪えるという事だ。両者合意の上で規制に異論の余地はあるまい。はじめは吸血鬼達も要求を呑んでいた。しかし、時間が経てばたつほど奪われた自由に不満の声がどんどん溢れてくる。それが溢れたのだろう。」
「だから、吸血鬼を滅ぼすのか?」
「そうだ。ルールを破る獣は完全に消し去らねばならん。吸血鬼は強大な力を持っている。だからこそ力がある我らが滅ぼすのだ。」
スラッシュの過去が分かり少し同情する気持ちも出てくる。
だが、今は仲間のためだ。
「スラッシュ、約束をしろ。ぎりぎりだったとはいえ今回は俺らの勝ちだよな。」
「だから何だ?」
「アレグラの命を、吸血鬼を狙うのはやめろ。それが約束できるなら見逃してやる。」
スラッシュは目を丸くする。
「フハハハハ、そんな約束が何の役に立つ。」
「お前がルールを破る獣に落ちるのか?」
「……」
「アレグラは吸血鬼でありながら鬼ではない。いい子だよ。だから、見逃してやって欲しい。」
「……そう」
スラッシュが口を開いたときに、「でりゃあああああああああ!!!!!」と大きな声を聞こえた。
「しねええええええええええええええええええええ!!!!!!!!!!!!」
降りてきたのはテッペキンだった。
テッペキンは金属に覆われた体を大きく膨らませて、スラッシュを押しつぶす。
「テッペキン!」
俺の叫びを無視してをテッペキンはあてつけるようにスラッシュを何度も何度も何度も蹴り上げる。
それは怒りなのか、何のか分からなかった。
「お前が!お前らが!被害者ぶるなよ!!!」
俺がテッペキンの体を抑えるも興奮した様子は全く止まらないようだ。
「おい、テッペキン!どうした!やめろ!」
俺に静止されて、テッペキンはその場に崩れ落ちてしまう。
「俺は、俺は……」
ぐちゃぐちゃになったスラッシュ達の躯の上にテッペキンは笑みを浮かべて立ち尽くす。
この戦いの最後はテッペキンの怒号のみがあたりを漂った。
いつもお読み頂きありがとうございます。




