怪人の試験
……い。
……ーい。
………おーい。
誰かに呼ばれているような気がして目を覚ます。ぬーっと只野博士がこちらを覗き込んでいる。呼び主はこいつか…あと、ライオンのやつもいる。
「やっと起きよったな。GUYコツよ、君は随分とのんびり屋さんだのぅ。もう他の新人怪人は出て行ってしまったぞい。」
怪人の試験とかあったな……すっかり熟睡してしまったようだ。夕焼け空の光がワゴンの中をオレンジ色に染め上げる。
博士やライオンへの挨拶はそこそこにして、のそのそと起き上がり、外に出る準備を始める。
まぁ、なんとかなるだろう…という、軽い気持ちになっていた。
「ホッホッホッ、その余裕良いのぅ。せいぜい頑張る事じゃ」
そんな博士の応援を聞き流し、外へと向かう。
GUYコツが出て行った後、只野博士とライ雷オンが会話をする。
「やっと、全員試験に向かいましたね。して只野博士、色々今回の試験には疑問があります。博士の突飛な行動はいつもの事ですが……切り裂きジャンパーという危険因子を今回の試験に入れた意味はあるのでしょうか?あと、博士はGUYコツ君に注目してるんですか?彼はなんともやる気のない感じがしますが?」
「ホッホッホッ、ライオンよ若いのぅ。全てに意味があるぞい。主にも今にわかるじゃろうて。今晩の楽しみにしとくといいぞい。」
「はぁ…そうですか。博士の真意は楽しみにするとして何はともあれ、後は成り行きを見守るだけですね。」
***
骸骨の顔隠すために深めの帽子やマフラーで隠しながら、試験会場であるホテル近辺に来た。ホテルの周りはかなり騒がしい事に様子だ。人々の悲鳴や助けを呼ぶ声が聞こえ、逃げ惑う人や野次馬みたいな奴らが慌ただしく動いている。
何が起きているのだろう?こんな状況で怪人の試験はできるのだろうか?なんて考えていると、慌ただしく動いている野次馬の群れでも、特に大きな声で話す煩い男がいた。
「おいおい、なんかこの辺で怪物が出てたんだってよ、ヤベーって!怪我人も何人か出ちまってる。こりゃスクープが大漁だ」
男は怖がっているの喜んでいるのかよくわからないテンションで何やらまくし立てている。
怪物……試験どころじゃなさそうだ。
状況を詳しく聞くために煩い男の後ろから肩を軽く叩く。男は煩いといった感じで肩を動かし俺の手を払われてしまう。むむっと思い再度、男の肩を叩く。さっきより強く肩を動かす。もう一度と思い、さっきより強めに肩を叩いた。
と、同時に俺の体は後方へ吹き飛ばされ転倒してしまった。そして男はこちらを振り向ながら言い放つ。
「うるせーな! おたく、さっきからなんなん……あっ、あっ、あぁぁぁぁぁぁ!!!」
俺と視線が合うと、突如男は大きな悲鳴をあげ、色々な人にぶつかりながら物凄い勢いで走り去ってしまった。その男がいた場所から青色の靄が飛び出して俺の周りを漂う。
「あっ、おいっ……なんなんだよ。危ない奴だな…」
小さく悪態を吐く。辺りを見渡すと自分が身につけていた帽子やマフラーが落ちてしまっている。つまり、骸骨の顔面を公衆の面前で晒しているわけだ。
体を起き上がらせようとすると先の男の悲鳴を聞き集まってきた野次馬達も悲鳴をあげる。
正直、視線が痛い。注目を浴びて恥ずかしい事や、自分が世間とあまりにもズレてしまった事を実感して悲しいやら複雑な感情になった。ただ、今すぐここを離れたいという一心で、人が少ないであろうホテルの裏側の方へ走り出す。俺を囲んでいた野次馬は俺が移動しようとしている方向に通り道を作ってくれる。俺はモーゼのように人混みの間を走り抜けていった。
周りの人から青色や緑色の靄がでていて、それが俺の周りをうようよ漂っている事は気になったが、取り敢えず悪影響はなさそうなので後で考える事にした?
***
ゴミ箱しかない人気のない裏路地に逃げ込むと俺はぺたりと座り込んだ。はぁはぁはぁ…疲れた。なんなんだ。試験はどうなったんだ? 何か怪物も出てるらしいし、試験も中止になったのか……
ニヤリーとか凹凹マンとか何してるんだろうか?
ん? 怪物? 怪我人? あっ、もしかしてあの男が言っていた怪物って怪人なのか?そう考えると色々と辻褄があうな。
試験とか何をするのかもよくわからなかったが、人を怖がらせれば良いんだっけ。そうすると、この騒動は怪人の試験って訳か。あそこにいた怪物ってのは昨日のあのミーティングにいた誰かなのか。推測も多いがやっと色々と状況を飲み込めてきた。
そういえばニヤリーが言ってたな俺の「見た目が有利過ぎる。」って。確かに骸骨が目の前にいたらびびるもんな。あの青や緑の靄が恐心ってやつなのか?
色々と考えていると、先程騒がしかった方角から爆発音と大歓声が聞こえてくる。
今度はなんだ?本当に騒がしい日だ。俺らの所為ではあるのだけど。
ふぅ……俺はもう少し休むとしよう。目を瞑り視界が真っ暗に……
一息つこうと思ったのも束の間。
「見つけた! 骨の怪人さん、あなたが最後だよ!この町の平和はあたしが守る!」
その声の主の方へ視線を移す。三つ編みに眼鏡をかけたセーラー服を着た地味目な一人の少女の姿が目に入る。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
☆ ☆
☆ 変 ☆ 身 ☆
☆ ☆
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
少女の姿が光に包まれると、姿が変わっていく。三つ編みが解け長い髪になっていく。更に至る所が徐々にファンシーなアイテムを身につけていく。セーラー服からピンクや白でデザインされたファンシーな服装にどんどん変化していく。光が消える頃には先程立っていた地味な少女の面影は微塵もなく、ファンシーな服装に身を包んだ少女が立っていた。その少女はポーズをとり口上を詠みあげる。
「あたしは魔法少女タマキキャット! 町の平和を守る為、怪人さん、あなたの悪行をバニッシュするよ!!」
その少女は、家庭教師の初めての仕事で出会った教え子であり、屈託のない笑顔や人懐っこい性格や可愛らしい仕草で俺を癒してくれた玉置梢の姿であった。
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