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屍怪人 GUYコツの受難  作者: 恐竜列島
復讐に生きる怪人
63/214

心の深層

 ――落ちる。

 ―――どこまで落ちる。

 何もする事も出来ずに、そのまま落下して行く。


 終わりを突然やってきた。何かの降り立つ感覚。

 ただし、辺りは暗くて何も見えない。勿論、床も。

 下の方は真っ黒な空間が延々に続いている。


 GUYコツは、額から垂れる冷や汗を拭う為に顔に手を当てる。その時、違和感があった。

 触れた感触が骨の硬質はものではなく、懐かしい柔らかい感覚がそこにはあった。

 肌の柔らかい感触と温もり。


 見えてはいないが、今、俺は人間の姿に戻っているようだ。

 ここには鏡もなく、暗くて見えないが、きっとそうなのだろうと、直感で理解できた。


 そう自覚した時に、空間に穴が空いた。

 暗い場所に穴が空いたという表現が正しいかは分からないが、そうとしか言えない現象を小宮は見た。

 暗い空間の中に出てきたさらに黒い場所。


 そこに映像が映る。

(子供の俺だ。)


 テレビで見たヒーロー番組を目を輝かせながらかじりついてみている。


 悪を倒して、ポーズを決めるヒーローを真似て、映像の中の俺も同じようなポーズを取り笑う。

 無邪気な頃。善も悪もはっきりとわかるものだと思っていた。未来は明るいとそんな気持ちを持っていたはずだ。

 懐かしながら見ていると、映像が急に飛んだ。

 そして、少し成長した自分が写りだされる。


(そういえばこのくらいの時だったっけ……)


 この頃、一つの事件が起きた。それは、規模としては大した事件ではないが、思春期の俺にとっては人生を変える事件。


 俺はヒーロー番組が好きだった。それを良く周りにも話していたし、ヒーローになるんだと恥ずかしげもなく公言をしていた。

 そんなところが目立っていたのだろう……と思う。


 この時にある衝撃的なニュースが取り上げらる。

 それは、男によって小学校で起こされた大量無差別殺人事件。

 ただ、この事件自体がどうと言うわけじゃない。犯人もすぐに捕まり、悲惨な事件は歴史になった。


 ――本来はそれで終わるはずだった。

 その犯人が捕まった後、色々なメディアは犯人の人物像を面白いおかしく取り上げ始めたのだ。

 その中に、男は児童向けのヒーロー番組が好きだったという事が分かり、その事が論点に議論が活発化し始めたのだ。


 ――男の幼稚は行動はヒーロー番組が好きだったから

 ――だから幼児向けの番組が好きな奴はヤバイ


 根も葉もない話だ。


 だが、それがきっかけとなり、俺はヒーロー番組が好きという事で次第に偏見の目で見られる事になりはじめた。

 最初は俺の事を庇ってくれていた人も居たが、そういった行動も裏目に出てしまい、噂が噂を呼んでしまう状態だった。

 そんな時に、親が死んだ。原因は交通事故だったのだが、悪評が更なる悪評を呼び、俺が両親を殺したと噂が流れ出してしまった。


 そんな事があり自分の中にあった熱はどんどん冷めていき、目立たないようにしようと人とは関わらず、ひっそりと過ごすようになった。


 人と関わりがなくなってから、数ヶ月が過ぎた頃には自然に落ち着いてきたが、一人っきりの人生を歩む事になった。

 中学生3年生になり、受験というイベントが始まると周りの空気がどんどんピリピリとしてきて、悪い意味で緊張感が出てくる。

 そんな現実の空気感がたまらなく嫌だった。それは、子供の頃に夢見ていた世界と大きな隔たりを感じてしまうから。

 しかし、嫌で嫌で堪らないが、それでも生きていかなくてはいけない。

 それでも声を上げる事も出来ずに自分を殺して、周りに同調するように生きていた。


 俺はそこそこ勉強ができた。正確には、それ以外に何もなかった。

 だから、そこそこの良い学校にも進学できたし、そこそこに良い会社にも就職ができた。

 中学生以降、俺は波乱万丈な人生とは無縁の波のない人生を送っていた。

 良くもないが悪くもない、そんな人生だっだと言えるだろう。

 もしかしたら人から見たら贅沢だと見えるだろう。それも一理ある。


 すると別の場所に暗い穴が開き、別の映像を映し出す。

 それは俺がGUYコツになってからの物だった。


 不思議な感覚だった。

 たしかに短い期間で色々な事があった。

 俺が人間の20分の1も生きていないのに、こちらの生活の方が濃度が高い。


 楽しいか?と聞かれると、楽しいかどうかはわからないし、今俺が置かれている状況は、あまりに酷い状況ではあるが、無意味な事などないのだと答える事ができる。


 しかし、今は子供の時の熱を感じる事が多い。

 俺は今生きているのだ。


 ――俺はずっと、小宮司とGUYコツという存在を別々に捉えいた。

 別々に映されたこの映像はそれを意味しているんだろう。そう感じた。

 二つの映像に手を伸ばす。


 すると、二つの映像が混じりあい……身体の中に溶けていく。


(どちらも俺なのだ。)


 そう思ったと同時に心臓の鼓動が早くなり、胸の奥底が熱くなるのを感じる。


 ――そして、意識は再び闇の中に落ちていった。


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