修行-心の祠-
「ここですわっ!」
アレグラの声は、大きな水音にかき消されてあまり聞き取れなかったが、アレグラが止まったことで、案内したかった場所がここなのだと理解した。
アレグラに案内されて到着したのは、川の先にある崖の下。
そこは川から流れた水が勢いよく落下し、滝を作っている場所である。
「……――」
スルメンの言葉は全く聞こえない。水温にかき消されてしまっている。
アレグラも耳を傾ける仕草をしているがうまく聞き取れていないようだ。
俺は大きな声を出すために、少し息を吸い込んだ。
「アレグラ! スルメン! 一回離れよう!」
そして、俺は二人に滝のそばを離れるように指で合図をした。
互いが会話できるくらいの距離を取った後、「それで、原、滝行でもやるのか?で良かったですわね?」っとアレグラは確認を込めて確認をしてきたので、スルメンが軽く相槌を打つ。
「違いますわ! 吸血鬼は流水は弱点なのですわ。滝に打たれたそのまま消えてしまうかもしれません。」
(やはり、吸血鬼は流水が弱点なのか……)
「……では何やるんだ?」
「そうですわね。滝に近づくと、会話できなくなりますし、ここでお話ししましょうか。」
何かを思案したあと、アレグラはここで何をするのかを話始めた。
「あの滝の裏に、洞窟があるのですわ!その中にわたくしたち吸血鬼が心を鍛える聖なる祠がありますの。【吸血の儀】を終えて溢れそうになった魂を鎮める場所。すなわち、自分と向き合うことが出来る場所なのですわ。」
「【吸血の儀】?」
「それは、吸血鬼になるための忌々しい儀式ですわ。」
アレグラは声のトーンを落として答えた。
その顔と声とは明らかに嫌悪感を漂わせていた。
「気に障ったらすまん。」
「いえ、気にしないで。わたくしも【吸血の儀】を話題に出したのは軽率でしたわ。」
こほんっと小さく咳払いをしてアレグラは続けて話を続ける。
「その祠に血を捧げる事で、自身の心の中に入れます。」
「心に入る?」
「そうですわ。瞑想の凄いものって考えて貰えれば良いと思いますわ。ここで、自らの最も深層に触れることが出来るのですわ。深層に触れる事で、二人の心は鍛えられ、心が生み出す自分の力がコントロールができるようになると思いますわ。」
「深層に触れる感覚ってのがいまいちピンとこないな。」
「……俺もだ。」
「アレグラは自分の深層に触れるって事はやったのか?」
「ええ。不思議な感覚ですわ。終わりのない底なし沼を落ちていくような感覚。深層に触れた後、見えなかったり、感じなかったことが理解できるようになると思いますわ。それはいいことか悪いことかはわたくしにはわかりません……ただ、そうしなければ、わたくしは――いえ、吸血鬼という種は既に息絶えていたでしょうね。」
「そんなことで、強くなのか?」
「そんなこと?」
ぴくっとアレグラの眉を顰める。
俺は後悔してフォローの言葉を考えていると、スルメンが話題を変えてくれた。
「……その吸血鬼にとって重要な場所に俺らが入っていいのか?」
「わたくしは構わないと思ってますわ。だって、既に同胞ですもの。ただ懐疑的な司はどうしましょうか。」
「あぁ!すまん。悪かった!疑ってるわけじゃないんだ。つい言葉が出てしまった。」
手を口に当てて高飛車な笑い方をしながらアレグラは俺に言葉を返してきた。
「司、冗談ですわよ。それではもう少し先に進みましょう。」
☆☆☆
細道を渡りながら滝の裏にある洞の入口までたどり着いた。そこはとても狭く人一人がやっと進めるくらいの道になったいた。
アレグラの手招きで、一列に並んで洞穴を進む。
結構な距離を進んだ後に、少し開けた場所にたどり着いた。
既に水温は聞こえなくなり、静かで厳かな雰囲気を醸し出している。
ぽつんと目立つ中央にアレグラから聞いていた祠があった。明らかに回りと違う異質な雰囲気を感じた。
雰囲気にのまれている俺たちにアレグラは指示をする。
「二人とも、その祠に座り、備えられているお椀に自身の血を入れるのですわ。血の量は少しで大丈夫ですわ。」
そう言いつつ、アレグラは持っていた針を俺とスルメンに差し出す。
少し緊張しつつ、俺は自分の人差し指の先にピンセットを突き立てる。
ポタポタと垂れる血をお椀の上に持ってきて、その中に垂らす。
すると不思議なことに目の前が真っ暗になった。




