迷子
何かの提案があるらしいアレグラに連れられて、訓練場所よりも更に森の奥へと進んでいく。
「良いですか?感情のコントロールとは言うほど簡単には出来ません。喜怒哀楽。それは自然に出てしまうものなのですわ。みなさんが、きちんとコントロールすれば、必ずや光明が開けると思いますの。」
喜怒哀楽の感情か。
力を出すなら怒りの感情なのかな?
つまり、常に意識しただけで怒り状態になれるようにって感じなのか。
どんなトレーニングをやるんだ?全く想像つかないな。
アレグラの話を聴きながら、そんなことを考えている俺の後ろには皆がぞろぞろを歩いていた。
茂った長い草を待ち場所をかき分けながら、獣道を歩き続ける。
☆☆☆
「良いですか?感情のコントロールとは言うほど簡単には出来ません。喜怒哀楽。それは自然に出てしまうものなのですわ。お二人とも、感情がコントロールできれば、必ずや強くなれると思いますの。」
(ん?この話、さっきも言ってなかったか?)
俺がそう思ったのと同時に、スルメンがアレグラに声をかける。
「……アレグラ嬢、俺たちは一体どこに案内されてるんだ? まさか森の探索がトレーニングとか言ってくれるなよ。」
「もうっ! 原はせっかちさんですわね。」
「……文句があるわけじゃないんだがな。ただ、同じ道を通っているような気がしてな。」
「文句がないのなら、静かにわたくしの講義を聴きながら、着いてくれば良いのですわ。」
なんとも我儘なお姫様のような物言いのアレグラに突っ込む為に、二人の会話に割り込む。
「そうは言いながら、既に2時間くらい歩きっぱなしなんだけどな。キャットシーとテッペキンの奴は訓練場に戻っちまったよ。」
「そろそろ着く筈なのよ。」
「どうも様子がおかしいと思ったら、アレグラ、お前……さては道が分からなくなってないか?」
後ろから見ていて、アレグラの身体が少し飛び上がる。
これ程、ギクッのいう擬音が似合う動作もないだろう。
「いや、嫌です、わ。お家で迷子なんて、わたくし、そんなに阿呆の子ではないですわよ。少し同じ道を通ってるだけ出すわ!」
「……つまり、迷子なんだな。」
スルメンが悟ったようにつぶやく。
「もうっ! 言い直さないでくださいまし! 違いますわ。これもトレーニングなのですわ。そう! 忍耐のトレーニングですわ!」
ツンッとした態度でアレグラはぷりぷりとしている。
「こういった事態にも穏やかな心で冷静に考えれば良いという実践編なのですわ。」
「……そうか。」
「あっ! その感じは疑ってますわね!」
俺は話題を変えた方が良いと思い、アレグラに問いかける。
「で、アレグラは何を探していたんだ?」
「川を探しているんですわ。」
「川? それってあそこに見えてる奴か?」
左手の方向を指さして、草木のわずかな隙間から見える水を示してアレグラに聞き返す。
「あー!!! ありましたわ! そう! あれですわ! ずっと探してんですの! 司、褒めて差し上げますわ!! やっと見つかりましたもの!!! わたくし、少し道がずれてしまっていたんですわね……」
やっぱり、迷子だったのかと、心の中で突っ込みつつ俺は言った。
後ろにいるスルメンの顔を見ると苦虫をかみつぶしたような顔をしている。
小声でスルメンに大丈夫か確認すると、「……強くなるならいいんだ」という事だけを答えた。
真面目についてくるあたり、スルメンは強さにはなんらかこだわりがあるのだろう。
やはり赤いヒーローにやられた事を気にしているのだろうか。
「アレグラ、川では何やるんだ?」
「うふふ。川で何かをやるのではなく、川の先に行ってからのお・た・の・し・みですわ。」
「また歩くのか……」
「大丈夫ですわ! 目的地まではもうすぐですわよ!」
そう言ってアレグラはドヤ顔でこちらに向き直り笑顔を見せた。




