カズノコ公園でのミーティング
集合時間まで久し振りの町を見回った。
活気溢れる繁華街をぶらぶらと歩き、町の雰囲気を楽しんだ。
町中を見回るのって、こんなに楽しかったっけ?などと考えながら、なんとも言えない心地よさを味わいつつ歩き疲れた体をお洒落なカフェで休めた。
***
ここがカズノコ公園か。
メールに描かれていた地図を再確認する。集合時間30分も前に到着してしまった……誰も居ないか。
仕方ない、と思い近くのベンチに座り待っていると1人、また1人とポツポツ集まってくる。ただ、集まってくる奴らに面識はないのか誰も他の人と交流するような素振りはない。
ドカドカと大きな足音とともに自分が座ってるベンチの横に柄の悪そうな若い金髪男が座った。気になったので、俺はその男にだけ聞こえるような声で話しかけてみる。
「なぁ、あんたも怪人なのか?」
「あぁ?いきなりなんだ、おめー?ふざけてんのかコロスぞ」
いきなり物騒な奴だ…こいつは怪人じゃないのか?しかし会話すら困難とは……俺の聞き方も悪かったかもしれないな。互いに話すこともなくただ時間が過ぎるのを待つばかりである。
***
集合時間になると真っ黒のワゴンが公園の中に入ってくる。そのドアが開き、中からあの只野博士と筋骨隆々のライオンのマスクを被った奴が降りてきて一声を発する。
「怪人達よ、集合せよ!」
あの変なライオンみたいな奴は怪人なんだろうか?案の定、集まっていた皆は同じ怪人だったのだろうライオンの言葉と共に公園に来ていた数人が博士とライオンの周りに移動し始める。隣に座っていた金髪男もおもむろにベンチから立ち上がり移動する。おい、やっぱりお前も怪人かよ。と心の中でツッコミを入れつつ俺も移動する。
***
「えー、皆さんお集まり頂き有難う御座いました。これから怪人協会の代表兼主任研究者であられる只野博士よりこの度お集まり頂いた理由について講釈頂きます。心して聞いてください。」
先程の粗暴な掛け声や見た目に反してかなり丁寧な口調で話すライオンである。紹介された只野博士が咳払いをして、言葉を発する。ってこいつは代表だったのか……この組織は大丈夫か?と一抹の不安を感じる。
「オッホン! 今宵は良い月ぞ。良い怪人日和じゃわい。お前ら新人怪人に今から試験をやってもらう。」
只野博士はカズノコ公園から見える大きなホテルを指差し言葉を続ける。
「明日のこの時間までにあのホテルにいる人々から恐心を取ってくるのじゃ。10人程度から取れれば試験に合格するには十分じゃろう。新人諸君、頑張るんじゃぞい。」
只野博士が、言い終わるとライオンが発言する。
「只野博士、有難う御座いました。 皆さん、今日が怪人としての一歩目です。これから怪人として頑張りましょう。質問がある方いますか? ある方は挙手を、無いようであればミーティングは終わります。早速試験に移りたいと思います。」
俺を含めて皆手をあげて質問をして良いものかと様子を伺っているようだ。
そんな中、一人の大人しそうな青年が手をあげる。
「あのー、質問が3つ程あるんですけど、良いですか? 自分、怪人ってのがそもそも何をするのかよくわからないのですが、教えてもらえますか?あと、博士の言っていたキョウフスルココロ?ってのは具体的にどうやって手に入れれば良いんですか?そもそもキョウフスルココロってなんなんですか?」
よく聞いてくれた。俺はこのおとなしい青年へ心の中で拍手をした。こいつとは後で話してみたいな。
「怪人協会の崇高なる活動理念は正式に協会員になった方のみに伝えます。現状、皆さんは野良怪人という位置付けにいます。野良怪人として生きていく方も今日の試験は良い経験になると思うので全力で取り組んで欲しいと思います。」
「恐心は、簡単に言うと人が怪人に対して抱く畏怖する、恐れる心です。怪人は人に対して恐れられれば恐れられる程、その力を増します。つまり、試験としては怪人とは恐ろしいものだと多くの人に思われるような行動をしていただくこととなります。恐心を得る為の方法については制限は設けません。」
「つまり、人をぶん殴って良いって認識でいいですか?」
大人しそうな好青年かと思ったらかなりぶっ飛んだ思考の持ち主のようだ。話すのはやめておこう……そんな事を心で思った。
「手段は問いません。ただし、怪人の先輩として殺人だけはしない方が良いとアドバイスをしておきます。 殺人は人に対して恐れの感情よりも憎しみ、悲しみ、又は正義感という感情を強く引き出す事が怪人業界の定説になっています。多くのケースにおいて恐心を得ることができずに、逆に憎っくき敵を強くする感情を生みます。また、殺人を犯した怪人にヒーローは容赦をしません。捕まるだけではなく、最悪その場で処刑される場合があります。」
「成る程…回答、有難う御座いました。」
一人目の質問が終わるとライオンは次の質問はないかを聞いてくる。先ほどの金髪が手をあげる。
「他に質問がある方は……そこの金髪の君。」
さっきの柄の悪い金髪が話し始める。
「おぅよ。おめーさん、名前はなんて言うんだ?あん?あと。ヒーローとかヤッチマッテモ問題ねーよな?」
「あっと、自己紹介がまだでしたね。私は百獣怪人ライ雷オンと言います。皆さんの先輩になりますね。」
「まずはヒーローというものについて説明しますね。ヒーローとは怪人と真逆の存在です。端的に述べると我々の敵と認識ください。ヒーローは怪人から人々を守る存在として怪人の前に立ち塞がります。怪人が人々の恐心で強くなるなら、ヒーローは人の応援する声や思いを受けて力を強めていきます。」
「はん、そりゃ随分と反吐がでるな。俺が嫌いな人種だ。ヒーローとは戦っても問題ないのか?」
「戦うのは自由です。しかし、貴方達のような新人は真正面で出会ったらすぐに退散する事をお勧めします。ヒーローをヤリたいなら人気のない通路で不意打ちをする事をお勧めします。」ジュルリ…と舌を這わせる音が金髪から聞こえた気がした。
「他に質問したい方はいますか?」
質問者はいないようだ。
「いないようですね。では、早速試験のために皆さんには怪人になってもらいます。必要ならば準備にこのワゴンの中をお使いください。また、疲れて休憩する場合もこのワゴンの中をお使いください。」
***
ワゴンの中は見た目よりも広い。俺は被っていた人皮を脱ぎ骸骨の姿になる。何度やっても、これは慣れないな…
「うひゃー、あんた骨っすか!?クレイジーっすね、パネェっすわ。」
着替えをしていると後ろから帽子にサングラスをかけたチャラそうな男が壁に立てかけてある大きな槍に寄りかかりながら話しかけてくる。
「お、おう…そう言うあんたは?」
ニヤッと口角をあげ、「俺、口角怪人ニヤリーって言うっす。」とドヤ顔をしている。
「俺は屍怪人 GUYコツだ、ここで会ったのもなんかの縁だ。よろしくな。」
「ウィーっす! よろしくっす。それにしても、試験を考えると見た目が骨とか超有利そうっすね!?ばり卑怯っすわ。自分ニヤニヤする事しかできねーんで、試験超不利っすよ。」
わははは、と互い笑いにあった。気さくな奴もいるものだ。俺は気になっていたことをニヤリーに聞こうと思った。
「なぁ、ニヤリーはどうし……」
ニヤリーに質問をしようとしたら、横からさっきのヤバい好青年が割り込んでくる。
「隣で歩いある人が急にニヤニヤしてたら十分怖いですからニヤリーさんも有利だと思いますよ?」
「ははは、言えてるーガイコツさん言いますねー。って、さっきの物騒な事言ってたヤバめの奴じゃねーっすか?」
「ヤバめの奴って…そうなんですかね?まぁ自分は見た目が割と普通なんでなんか行動で脅さないとダメって感じですからね。一応確認しただけですよ。」
怪人になった理由をニヤリーに聞こうと思ったが割り込まれてしまった。この青年の事でも聞いとくか。
「あんたはなんていう怪人なんだ?」
「自分、拳闘怪人 凹凹マンって名前です。ニヤリーさん、GUYコツさん、よろしくお願いしますね。」
「2人は今から出ますか?俺は今からホテル方にいこうと思うっすけど。」
「俺は久々の町巡りで疲れたから今日は休もうと思う。」
「今行っても人居なさそうなんで自分も明日ですかね。」
「りょーかいっす!健闘を祈るっす!」
そう言うとニヤリーは外に出ていった。危なそうな凹凹マンと二人っきりとは落ち着かないな。とか考えてると、凹凹マンが話しかけてくる。
「GUYコツさん、自分に感謝してくださいよ?」
「ん?なんのことだ?」
「自分が会話に入る前にニヤリーさんに『どうして怪人になったのか?』って聞こうとしてましたよね?」
「まぁ……そうだが…。 もしかしてなんかマズかったのか?」
「マズいっていうか下手したら殺されますよ。怪人になるって事はあまり人生がうまくいっていないか、脳みそのネジがぶっ飛んでるんで。」
そうなのか……だが、考えればすぐにわかりそうなものだった。自分の考えなしのところは昔からだな。と反省しつつ、凹凹マンに感謝を伝える。
「確かに、その通りだ。ありがとうな。凹凹マンって意外に優しいんだな。」
「意外って酷いなぁ。いやー、公園で見てた時から、危うい人だなぁって見てたんですよ。あの金髪の男、あいつ切り裂きジャンパーって怪人なんですけど、既に10人近いヒーローを殺してるらしいですから……、そんな奴にいきなり話しかけるのですもの。」
「うわー……そんなに有名な奴なのか?って怪人同士既に知り合いなんだな。」
「いや、初対面ですね。知り合いはライ雷オンさんくらいですよ。自分は雑魚戦闘員からの成り上がりなので、色々噂は聞いてますね。」
「そんなのもあるのか? 因みに俺はなんか噂があるのか?」
「GUYコツさんはなんでも、あの博士のお気に入りとかなんとか?確かにその系譜はあるなぁと思いましたけど。」
これほどまでに嬉しくない噂や評価もそうはないだろう……
そんな談笑をしていると「そろそろお時間ですね。自分は休みます。GUYコツさん、共に頑張りましょう!」と凹凹マンは備え付けられていたベッドルームへと消えていった。そんな凹凹マンに再度お礼言い、俺は今日出会った様々な出来事を逡巡しつつ、床に寝転がり休息を取り始めた。




