吸血鬼の館へ
梢の姿も見えなくなったなる程、遠くにいる離れた場所で俺はしばしの休息を取っていた。
ふぅ……三人を担いで怪人協会に戻るには遠いよな……
「司、どこまで行きますの?」
ふと、話しかけられる。
声のする方を見るとアレグラがその場に立っていた。
「アレグラ!無事だったのか!良かった!」
「さっきから居ましたわよ?やっと姿を戻せるくらいには回復できましたわ。」
「戻った?」
「そうですわ。ヒーローの少女と一緒に寝転んだ辺りから、司の周りに居た蝙蝠がわたくしです。」
あの蝙蝠がアレグラ!?
「そうだったのか。まぁ何はともあれ、無事で本当に良かったよ。」
「それにしても……これからどうしますの?」
「全く何も考えてない……怪人協会に戻って、事の顛末の報告をしないとーーとは思っているけど。」
俺は一呼吸挟み、これからの方針を告げる。
「まずはこの三人を起きるまで、ここで待とうとは思ってるよ。目が覚めたら、少しづつ歩いて行くしかないよな。距離もあるし、数日はかかるだろうが……」
「ならば、わたくし達、吸血鬼のお屋敷に一度行くというのはどうかしら?」
アレグラがアイディアを提案してくれる。
「そんな所があるのか?」
「ふふっ。吸血鬼は旧時代の支配者。世界中に専用の移動経路を持っているのですわ!」
どこか誇らしげにアレグラは語る。今は感謝しかない。
「専用の入り口もここから近くにありますし。」
「おお!」
「更に、怪人の拠点も吸血鬼のお屋敷と近いてわすわ!」
自然と拍手してしまう。
「いいな!」
「わたくしに感謝してくださいませ!」
「凄く助かるよ!ありがとうな、アレグラ!」
「どういたしまして。」
スカートの裾を持ち上げて丁寧なお辞儀をしながらアレグラは答える。
「なら、早速行きましょう!」
「了解だ。」
三度、俺は三人を背負いあげようとした。
背中からアレグラの小さく溢れるような小さな声で質問が飛んできた。
「ねぇ?司、もしもわたくしが今ここにいなかったらどうしたかしら……」
「ん?そうだなぁ……」
震えるような声で聞こえた質問に、俺は出発の準備を一度やめて考え込んだ。
そして、ゆっくりと答えを返す。
「アレグラが戻ってこなかったら、ここに探しに戻ってただろうな。」
「そう……それは数日かけて協会に戻ってから?」
「そうだな。リンドウが死んだ事を伝えないといけないしな。それに、何をやるにも人手が必要だ。」
「そしたら、わたくしは干からびちゃってるかも……」
「それなら蘇生させる方法でも探してたさ。」
「そんな方法あるのかしらね?」
「どうだろうな?だが無いとは思わないぜ。現に俺も一度死んだはずだがこうしてここにいる。」
「そうなの!?初耳だわ。」
「あぁ。」
アレグラの方に向き直して近く。
晴れた目で俺を見ていた。
「ごめんな。心配したよな。」
「うん……司はわたくしのこと、忘れちゃったんじゃ無いか?って……」
「俺がアレグラを忘れるわけないだろ。でもあの暗闇の中、良く無事だったよ。頑張ったな。」
震えるアレグラの頭をくしゃくしゃに撫でる。
……んっ……
アレグラは目を瞑り、されるがままに頭を委ねる。
「忘れてなければよろしいですわ。でも次はもっと真剣に探してくださいね?」
「本当にごめんな。」
三人を担ぎ、アレグラの案内を従い移動し始めた。
☆☆☆
アレグラに付いていくと何やら一枚の扉があった。
「この先に吸血鬼の住む場所に繋がっていますわ。」
扉の先に進むと開けた森の中にたどり着いた。
鬱蒼と茂る木々は光を遮蔽し昼間にも関わらず陰気な空気を醸し出していた。
「これは、どういう原理なんだよ。」
「さぁ?わたくしも良くわからないのですけれど……おじいさまが言うには、昔、飼っていた技術者に作せたとかなんとか……?」
「へぇ……それにしても、外に出るんだな。家に直接つけた方が良く無いか?」
「屋敷に直接移動場所をつけると、侵入者が居た時危険だとかなんとか……?でも、すぐそこに見えますわよ!」
それもそうかと思いつつ、アレグラの指差す方向を見ると、森の先にある崖の上の1棟の城が建っていた。
「あれが吸血鬼の住む場所……雰囲気あるな。」
「そうでしょ!?わたくし達、吸血鬼の屋敷、バイロン城ですわ!」
「なんかちょっと緊張してきた。」
「ふふっ、司はお子ちゃまね。それじゃ、早速向かいましょう!」
悪戯に笑うアレグラに誰がお子ちゃまだ!と突っ込みを入れつつ、「おう。」と返事をした。
☆☆☆
吸血鬼の城、バイロン城の前、荘厳な空気感の漂う扉を開くと白髪に白髭を生やした壮年の男ごアレグラに近寄ってきた。
「アレグラちゃーん!!」
見た目とは裏腹にアレグラを呼ぶ。
「おじいさまー!」
アレグラも慣れた様子で男に近寄ると抱きついた。
アレグラの言葉でこの男がアレグラの祖父である事がわかった。
アレグラに吸血鬼の儀式を行うきっかけとなった人物。
少しだけ警戒をする。
「で、アレグラちゃん。そっちの人は?やっと、従者を使うようになったの!!?」
「この人は司。怪人のお仲間ですわ。」
「そっか。でも吸血はしたんだよね?」
「いいえ。何度も言うようにわたくし吸血は致しません。これはおじいさまがなんと言おうとわたくしが決めてる事ですわ。」
「そんなぁ……」
男は眉を下げて悲しそうな顔をする。
俺が見ていることに気がつくと咳払いをして、態度を改める。
「えー、いつもアレグラ候がお世話になっています。」
急な態度の変わりように戸惑いながら、俺も社交辞令を返す。
「……いえいえ、私の方こそいつもアレグラ……アレグラさんにはお世話になっています。」
「二人ともなんか気持ち悪いですわ……」
「これが大人の世界ってやつだよ。」
俺はアレグラにひそひそと説明する。
「ふーん。」
「おっほん。私はベクター・バイロン。皆からバイロン候と呼ばれている。吸血鬼の真相にして、アレグラ候の祖父だ。宜しくやろう。」
そう言ってバイロン候は手を差し出しきた。
「俺は屍怪人GUYコツ。アレグラさんとは怪人仲間だ。宜しくな。」
バイロン候の手を取り握手で返す。
「先にアレグラ候が司と呼んでいたのは?」
「あぁ。それは俺の人の姿での名前だ。呼ぶのはどっちでも構わないさ。」
「そうか。なら、私もアレグラ候と同じく司君と呼ぼう。ところでなぜここに?」
「それはですわね――」
アレグラがバイロン候に経緯を説明した。
☆アレグラ説明中☆
「ふぅむ、成る程。そんな事が……」
ベクターはアレグラの方を見る。
そしてなにかを思ったのか、大きく頷いた後に「そう言うことなら、暫し休んで行くと良い。」と俺たちに回答をしてくれた。
「ありがとうございます!」
「おじいさま、ありがとうございます。ですわ!」
俺とアレグラはベクターに感謝を述べる。
広いお屋敷で空いている部屋を一部屋貸してもらい、俺とアレグラで気絶しているスルメン、キャットシー、テッペキンの三人を運び込み、寝かせた。
なんとか落ち着いた時間が流れる。それでどっと疲れと睡魔が俺を襲う。
一波乱も二波乱もあった今回の騒動の事を思い出しながら、俺は深い眠りについた。




