人と怪人
「なぁ、少年ヒーロー君。少し話をしないか?」
縄で雁字搦めに縛られた俺は近くに立つ俺を捕えたヒーローに話しかける。
「話? 何さ?」
訝し気にしながらどうやら話には乗ってくれるようだ。
「いや何、君は仲間を助けに行かなくていいのかなぁって、思ってな。」
「うーん……皆も心配だけど、あんたも捕まえておかないとだし。それに……多分、あんたくらいの怪人なら皆も大丈夫だと思う。あんた、雑魚かったもん。」
少年ははっきりとした口調で述べる。
「おいおい、はっきり言ってくれるなよ。流石にへこむぞ……」
「僕からも聞きたいんだけど、あんたって怪人らしくないよね。怪我人を助けようとしたりさ。」
「そりゃ助けられる人は助けたいってのは誰しも思ってるだろ? 人を助けるのはそんなに変かよ。」
少年は声を出して笑い出す。
「なんかおかしいこと言ったか?」
「ごめん、怪人から人助けって言葉を聞くなんて思ってなくてさ。」
「そうか、やっぱり怪人ってそんなイメージなんだな?」
「うん。優い……僕のヒーローの先輩が言ってたのは良い怪人は人前に出てこない怪人だけだって。」
「そりゃ、酷い言われようだ。」
「怪人なんて自分の欲とか自分の感情とかコントロールできない人がなっちゃうんだから。」
「そうなのか?」
「僕はそう聞いているけど……? あんただって怪人になったのはそうだからなんじゃないの?」
「俺の場合、気づいたら怪人だったよ。少なくても怪人になる前は社会のために自分を殺して働いていたんだけどな。」
「えっ!? 知らずに怪人になってたなんてあるんだ……」
「そうそう。怪しいクソじじいの手によってな。だから。俺は悪い怪人ではないよ。寧ろ良い怪人だよ。」
「ふぅん。あんたの事情はなんかよくわからないし、悪い怪人ではないかもしれないけど……やっぱり良い怪人ってのは人の前に出てこない奴だけだよ。こんなにも街を、日常を、壊してさ。」
「確かにこの混乱具合は……否定できないな。」
驚かすだけ。俺はそのつもりだったが、それでも怪人が出れば街の機能は止まる。
自分の行動による他人への配慮は欠けてしまっていた。
「それにここから少し離れた場所にある魚河岸市場を襲ったのもあんたの仲間なんでしょ?」
「……市場が襲われるって、何かあったのか?」
少年の体がピクリと震える。
「昨日の夕方頃に市場が怪人に襲われたんだ。何人も死傷者が出てるって話だよ。」
「んなっ!? なんでそんな事がっ!?」
本心からでた疑問だった。
「とぼけんなよ!!! あんたらのお仲間の仕業だろ。どうせ、今日、この襲撃の為の準備だったんだろ。」
昨日の夕方、俺たちは街の偵察を行っていた。
スルメンとアレグラも待機していたはずだ……
そもそもそんな事をする理由もない。
「……」
答えを探して頭を悩ませていると、少年は悲し気な含みのある声でつぶやいた。
「死んでしまった人の前で自分は良い怪人だって言えるのかよ。」
何も言い返す事が出来なかった。怪人も人との共存は可能であるという事を考えていたが……
いや、俺は見ないようにしていた。
多分、怪人協会の面々やチンピラ怪人の様子からなんとなくではあるが察していたはずである。
「……あんたがどうかは知らないけどさ。怪人なんてそんなものだよ。」
少年はボソリと呟き、俺との会話を打ち切った。
悲しみなのか、呆れなのか、怒りなのか、少年のマスクで隠れた顔の下での心情は読み取れないが、その言葉に怪人と人の間にある壁を感じられた。
俺と少年の二人の時間を邪魔したのは聞きなれた仲間達の声であった。
「GUYコツー!! ってにゃにゃ! あにゃたやられてるのー? ププー」
「……はっは。」
「姉御、スルメン、笑っちゃ駄目ですよ。」
「だらしないのは司だけのようね。」
俺が口を開く前に話始めたのは少年の方だった。
「なっ!!? お前たちは!!! 皆はどうした!」
テッペキンは担いでいた4人の少年少女を放り投げる。
ヒーローの姿ではなく、変身が解けた姿。全員、ボロボロで怪我もしている状態であった。
「梢、陽平、薫、歴、……お前ら!!!! 『ビットチェイ』っっっ!!!」
やられた仲間の少年少女たちを見て、少年は早速、技を使おうとしたようだが地面から這い出た触手により足をつかまれ持ち上げられてしまう。
「うわっ!」
持ち上げれた少年は掴まれたまま振り回され、勢いよく壁に叩きつけられる。
「……怪人の力ってのはここまで凄いんだな。」
「おお! スルメンやるにゃー!」
どうやらあの触手はスルメンの物らしい。凄まじい力だ。
数回ほど壁に激突した後、ぐったりと頭を垂れる少年が地面に叩き落される。
変身が解けてメガネの少年に戻ってしまう。
俺が倒せなかった少年をたったの一撃で倒してしまった。
「おーい! 誰か俺を縛っているロープも切ってくれ!」
「はぁ……あにゃた、にゃんというか……仕方にゃいにゃー」
俺に近寄るキャットシーが途中で横に吹き飛ばされる。
「にゃ!!!」
「おい! キャットシー!?」
キャットシーが立っていた場所に見知らぬ男が立っていた。真っ赤なヒーロースーツ。
「ふぅ……怪人ども。よくもここまで自由に暴れてくれたもんだ。ここからはヒーロータイムだ。畏れろ。」
新たなヒーローの登場。




