エレキテルガール vs 吸血怪人バンパイア
仲間たちから離れてしまった……
エレキテルガールは焦っていた。身を屈めてビクビクと辺りを見渡す。誰もいない……
ほっと一息ついた時、隣から幼い声が聞こえる。
「わたくしの相手は貴女かしら?」
エレキテルガールは幼くも何処と無く威厳のある声の持ち主の方をみた……
☆☆☆
エレキテルガール、菊水歴はヒーローとして名前が知られている爆雷エレキングの一人娘であった。
歴は仲間にも言っていなかったが、ヒーローを始めた時期は玉置梢と同じ時期くらいだった。
かたや、カズノコシティを代表するヒーローになり、かたや、技すらまともに使えないポンコツヒーローのままである。
そもそも、歴はヒーローよりもヒーローを支えるサポーターとして活動している方が好きだった。
サポーターは仲間とバディシップを組んで怪人に立ち向かう。それは戦闘の補助のみならず、敵の弱点分析、状況による的確なアドバイスなどの相手との信頼関係が大事になる戦い方である。
歴は直接怪人と戦うことは苦手だったが、仲間を補佐するときの動きは洗礼されていた。仲間と相手は動きを読み、もっとも嬉しい時に援護攻撃をする。歴にはその才能がずば抜けて高かった。
特に薫とは相性が良かった。まだ二人とも技は使えないけれど、強力な怪人相手も引けを取らない力が出せていた。
自分なりの戦うスタイルを見つけた……そう思っていたが、サポーターに力を入れれば入れるほど、歴は自分一人で戦う事が怖くなり、仲間に頼るようになってしまっていた。
いつも誰かと一緒に戦う。ヒーロー協会に入ってから、これが歴の戦闘スタイルになっていた。
勿論、自分がヒーロー研究会の皆に依存しすぎである事は自覚していた。
と、同時に自分の弱さを克服できない事に歴も一人苦しんでいた。
苦しみの原因は自明で、父、爆雷エレキングの存在である。
歴の父親は厳格な人物だった。常に一番であるように歴は教育を受けてきた。最初は期待に答えようと厳しい指導にも時には暴力を振るわれても、頑張っていた。しかし、頑張って頑張って、でも結果はついてこなかった。
ある時に、父親の歴に対する期待を捨てたのだと歴は考えている。
――突然、優しくなったのだ。
それは、ヒーローとして期待はしていないという父からのメッセージだったんだと思う。
何かを失敗しても、結果が出なくても、ただ微笑み、「歴、よく頑張ったなぁ」と労いの言葉をかけくれるようになった。
厳しい修行も、理不尽な仕打ちも、歴には覚悟ができていた。できていたつもりだった。
しかし、優しくなった父の姿を見て、歴は安堵していた。困難を乗り越えるよりも、壁を乗り越えられずに優しくされる自分の方が自分らしいのだと知らず知らずに無意識下のうちに刷り込まれいった。
もしかしたら、私はヒーローでは無い方が良いのかもしれない……
☆☆☆
ヒーロースーツに身を包んだ歴は、目の前に現れたお人形みたいな可愛い少女に驚愕が隠せなかった。敵は凶悪な怪人のはずではなかったのか?
「こんな子供が……」
その言葉は自然に出てしまった。
「あら?失礼な。わたくしはとっても強いのよ?」
そう自称する少女。
(でも怪人だよね……うん……ならっ……戦わなきゃ!)
「やぁ!!」
まずは軽い先制攻撃!そう意気込みエレキテルガールはパンチを放つ。
そのパンチは少女に当たり少女の姿が霧散する。
(えっ……本当は怪人じゃなかった……!?)
ヒーローにら行動制限がある。ヒーローは強力な力をもつ、その使用が許されるのは当然平和のためである。そのため、ヒーローが市民に危害を与えた場合、死刑よりも辛い罰が言い渡されることになっている。
「ふふっ」
驚き戸惑うエレキテルガールの背後からふとっ笑い声が聞こえた。
振り向くと、エレキテルガールの背後に先ほどの少女が立っていた。
「なぁんだ。ヒーローって大した事ないのね。怪人の皆様が恐れてるからどれほど強いのかと期待していましたのに。」
「貴方も怪人なんでしょ……?」
「えぇ。私は吸血怪人パンパイアと申しますわ。でも怪人になってからはまだ数日くらいですのよ。ですから、今の自己紹介はこうしましょう。」
「わたくしは吸血鬼の真祖アレグラ・バイロンと申しますわ。お見知り置きを。可愛らしいヒーローのお嬢ちゃん?」
吸血鬼の真相!?
エレキテルガールは息を飲む。以前に学校の課題で吸血鬼についてを調べた事があった。エレキテルガールは必至に記憶を辿り、その時に調べた知識を思い出そうとした
吸血鬼は過去の世界の統治者。
怪人やヒーローが現れる前から世界に君臨していた怪物。
更に吸血鬼の真祖の力はヒーローの中でも上位者にも匹敵する力を持っている。
真祖は5体いて、その内4体は既に討伐されているはず……。
残りの真祖の名前は……。
(つまりこの子の言葉を信じると、最期の真祖が私の目の前にいるって事に……)
大事な部分が引っかかってる。ポカポカと自分の頭を叩いて思い出そうとするも全く出てこない。
「嘘よ……!」
それでも、エレキテルガールは声を出す。
そう、吸血鬼の真祖は男性4人、女性1人である。
そして、女性の真祖エリザベートは既に討伐されている筈である。
「私、知ってるもの……女性の真祖エリザベートは既に討伐されたはずよ……」
「えりざべーと? あんな奴と同じにしないでくださる?」
「だから……あなたの本当の名前よ……」
「さっき自己紹介してあげたでしょ? わたくしはアレグラ・バイロンと申しますと。人様の名前も覚えられない失礼な貴女はなんてお名前かしら?」
「エ、エレキテルガール……」
「そう、よくできましたわ! エエレキテルガール様、わたくしと遊びましょう。」
「私はエエレキテルガールではなくエレキテルガールです!!!!」
エレキテルガールはアレグラに肉薄し、再度肉弾戦を試みる。
「もう一度!」
パンチがアレグラに当たるとまた霧散してしまう。
「ふふっ! 同じ攻撃が二度も通じるとでも?」
霧散したアレグラの後ろからアレグラが姿を見せ、拳を振り切り硬直ているエレキテルガールに蹴りが放たれる。
「きゃああああ!!!!!」
小さい身体から放たれたとは思えないほど強力な力がエレキテルガールを襲い吹き飛ばされてしまう。
エレキテルガールは地面を擦りながら遠く離されてしまう。
「なんて力……」
エレキテルガールは手を地面に当てて、立ち上がろうすると何かに押されて立ち上がることが出来なかった。
「もう終わりですの?」
「……!?」
その声は先ほど対峙していた少女のものだった。
体に感じる重みは少女が自分に座り体重をかけているためだった。
「はぁ。ヒーローってのはもう少し強いと聞いていたのに。これじゃ、弱いものいじめになってしまうわ。」
圧倒的な力の差にエレキテルガールは心が折れてしまった。
「やっぱり私なんて……」
変身が解けエレキテルガールは菊水歴に戻ってしまう。
「あらあら。こんな可愛らしい子がヒーローだったのね。」
アレグラは年齢に似つかわない微笑みを浮かべて、この戦いは決着がついた。




