SUMOライダー vs 烏賊怪人スルメン
「ふぅーん、いきなり分断とか姑息じゃない。で、貴方が私の相手ってわけね。」
体の線から女性であるとはっきりと分かる白いヒーロースーツを身につけたヒーローは、突如自分の目の前に降り立った季節外れの真っ黒なトレンチコードを着た怪しい人物に話しかける。
「……そうだ。」
「認めるんだ、ならさっ……」
ヒーローは強く地面を蹴り上げて深く帽子を被った男に近づく。
「大人しく捕まってよね!」
刹那の間に距離を詰めると、ヒーローは掌打を放つ。
(……さっき食らったやつか……このヒーローは見た目とは裏腹にパワータイプなんだな。)
スルメンはギリギリでその攻撃を避けてヒーローから距離を取る。さっき程とは一撃をくらわせた白いヒーローは驚く。
「へぇ、今の避けるんだ?さっきみたいに吹き飛ばされてくれば良いのに。」
(……全くヒーローって奴は、どこまでも傲慢だな。)
心の中で悪態をつきながら、諦めとも取れる気持ちを捨て去るかのようにスルメンは大きな息を吐き、目の前の立つ自分よりもふた回りは年下であろうヒーローに問う。
「……ヒーロー、名前を聞いてやる。」
「急に何よっ? なんで、怪人なんかに……」
「……なんだ? 自己紹介してくれないのか?」
「やらないわよっ! ふざけてるの!?」
「……そうか。ヒーローなんて聞かなくても自己紹介してくるもんだから、自分の事が好きなのかと勘違いしてたよ。」
「好きとかじゃなくて、カッコいいからやるの!」
「……では、お前はカッコ悪いヒーローだな。俺は烏賊怪人スルメン……お前とは違ってカッコいい怪人だ。」
「そう、スルメンね。言葉遊びが上手いじゃない。いい度胸ね。その挑発に乗ってあげる。」
白いヒーローはワナワナと震えながら、言葉を返す。そして、ヒーローのポーズを取り、自己紹介を始める。
「私はSUMOライダー! 超カッコいいヒーローなんだからっ! 私は悪を討つ!」
「……悪ね……」
何かを思うようにヒーローには聞こえない声でスルメンは呟く。SUMOライダーは三度、地面を蹴り、怪人に近づく。
「私はまだ技も使えない新人ヒーローだけど、怪人には遅れを取らないわ!」
ヒーローの連続の張り手攻撃をスルメンは驚異の身体能力で攻撃を避け続ける。
「なんで当たらないのっ!」
「……攻撃が単調だからだ。」
ヒーローの攻撃の合間のわずかな隙を突き腹部に蹴りを入れる。
「う゛っ……」
ヒーローはうめき声をあげながら、その場に崩れ落ちる。
そんなヒーローを見下ろし、スルメンは挑発をする。
「……どうした? ……もう終わりか? ……まだ軽く蹴っただけだろう?」
「このっ! 怪人が私を見下ろすな!」
SUMOライダーは身体を回転させて、スルメンの足を払う。その攻撃も難なく避けられてしまう。
しかし、距離が離れた事で起き上がる。勢いよく四股を踏み、力任せに地面を揺らす。
「……おぉ、そんな事もできるのか。」
脚に力を込めて、バランスを崩さないように体制を揺らす。
そこに生まれた一瞬の隙、SUMOライダーはバランスを保つために神経を使っているスルメンに掌打による一撃を食らわさんとする。しかし、その攻撃も空をきる。
しかし、力を込めたヒーローの渾身の一撃によってスルメンの被っていた帽子は吹き飛ばされてしまう。
そこにある顔は紛れもなく人であった。SUMOライダーは怪人に扮した人に問う。
「貴方、人なの?」
「……そうだ。……俺はまだ異形化をしていない。……だから俺自身は怪人ではないとも言える。」
「そんな、なんで人が怪人の仲間になんてやってるの?」
「……人が怪人に与する理由か。……君が聞いても理解できないだろうさ。……しかし、俺が人であると分かると態度を変えるんだな。」
「そりゃ……人は守らなきゃでしょ。怪人に騙されてるなら助けないと!?」
SUMOライダーが回答した後、目の前の男から何かが折れる音が聞こえる。
こめかみがピクピクと動き、怒っていることがわかる。そのためか、顔が少し紅潮している。
スルメンは口から大量の血が吹き出し、スルメンが口から何かを吐き出した。それは赤く濡れた折れた歯であった。
「な゛っ!? 貴方、何してんの!?」
「……人を守るとは……何から?」
「そんなの理不尽からに決まってるでしょ。って、貴方それどころじゃないじゃないわ! 早く手当しないと。」
突然の自傷行為に困惑をし、SUMOライダーは目の前の相手に近寄ろうとする。
「綺麗な言葉で飾るな!! ヒーローが守りたいものは、己の人気と保身だろう? 人に守る価値もない救いようも無い奴がいる。それら放置して怪人を倒す事だけを考える貴様らは一体なんだ?」
全てを断絶する感情任せの言葉を投げつける。
スルメンは過去を夢想する。
☆☆☆
スルメンこと三田源次郎は一児の父であった。
少し内向的なところがあるが、絵に描いたような誠実さと真面目さを併せ持つ気質の人間であった。幸いな事に良い配偶者や仕事にも恵まれ、それなりに幸せな生活を送ることができていた。
源次郎の子供、理奈は当時13歳の少女だった。アイドルやヒーローに憧れる、どこにでもいる子供であった。勿論、源次郎は理奈を愛し、成長を願っていた。
妻や娘のためにも頑張らないといけないと、自分に言い聞かせて、深夜遅くまで仕事をしていた。
しかし、その日々は一本の電話により容易に壊されてしまう。
「えー……三田理奈さんのお父さんでしょうか?警察の者なのですが……」
いつもの様に、肉体労働の仕事に励んでいるときに、警察からかかってきた電話。
「はいっ。三田ですが、娘がどうかしましたか?」
電話口で告げられた内容。それは……
「―――――」
その後、どうやって帰路についたのかわからないが、その後思い出せる記憶は、源次郎の目の前に置かれた、白い布で顔が隠され、白い着物――死装束を着た娘の姿だった。
源次郎の横では妻は娘の名前を呼びながら、泣き叫び崩れ落ちている。その泣き声は今でも耳に残っていた。
警察は三田夫妻に淡々と説明をする。
「娘さんは自殺されました。」
「死因は、首吊りです。学校にある桜の木の下で首吊りをしたようです。近くに遺書が置かれていましたよ。」
「娘さんの身体を調べると、乱暴された痕跡がありました。」
源次郎達は黙って聞くしかなかった。
しかし、取り調べは変な方向に傾いていく。
「おふたりと理奈さんとの関係はどうでしたか?」
「理奈さんはどんな子でしたか?」
理奈の行動を疑うような事情聴取が始まる。
無意味なやりとり。強い口調になる質問の数々に妻は泣き出してしまう。勿論、辛さもあるのだろうが、理奈の事を聞かれる、思い出が溢れて来ているのだろう。泣き出してしまった妻を庇うように源次郎は言った。
「あの……妻はもう限界です。妻はもう、返してやれないですか?」
「こっちも仕事なんでねー。駄目ですね。」
警察の態度に苛立ちを覚えつつ、源次郎は声を荒げる。
「そもそも、理奈に乱暴を働いた奴が悪いでしょう!そいつは誰ですか!?教えてくださいよ!」
「それは教えられないですね。」
「何故!?」
「ではその人を見つけたらどうするんですか?」
「勿論、殺してやりますよ!?悪いんですか?」
「でしょう?なら教えられないですよ。こんな親に育てられてまともに育つのかねぇ。」
警察はまるでわざと挑発をするような話ぶりであった。源次郎は疲れと怒りで見えなくなっていた。この取り調べがより悪い方に向かうことを。
次の日、『家庭環境の不和によって非行に走る少女が自殺』という全く知らない内容の報道が飛び交っていた。
この報道を見た妻は娘のあとを追うよう自殺してしまった。
娘と妻を失ったショックにより、源次郎は精神障害と言語障害に陥り今も苦しんでいる。
仕事を疎かにして、娘の死の原因を作った犯人を探し回っていると仕事を首なった。何もない自分。何度も死ぬことを考えた。仕事を首になっても必死で探して、探して続けて、なんとか手に入れたのは顔写真が一枚。
これから復讐をしようと決めた時に、源次郎の住む街が怪人による大襲撃が起こった。
ふと、思い立って、怪人が闊歩する危険な荒れた街を彷徨い、娘の死んだ学校にきてしまった。
「助けてー!!」
誰かが助けを呼ぶ声がする。声の方へむかうと、壊された校舎。ひとりの男子生徒が壊れた校舎に挟まれて動けなくなっているようだ。
「……今、助ける。」
源次郎は助けを呼ぶ男子生徒に近寄ると見覚えのある顔だとわかった。それは夢で何度となく殺した顔。娘を死に追いやった男の顔だった。
「ありがとう親切なおじさん、はやく助けて!!」
源次郎は動揺を隠せず、立ち止まってしまう。聞きたい事がたくさんあった。言いたい事がたくさんあった。いざ相手を目の前にすると固まってしまう。
「……」
「はやく助けてよ!」
「……理奈という娘を知っているか?」
なんとか出せたたったの一言。
「理奈?なんで?今は関係ないだろ!」
「……いいから話せ。」
「…………知らないよ。」
長い沈黙の後、出てきた返答。
「……そうか、嘘だな。俺はお前が理奈の死に関わってる事は知っているか。」
「………………」
「……俺は理奈の父だ。……だった。」
「……!?」
男子生徒はぽつりと話しだす。
「……遊びだったんだ……たっくん、僕らのクラスのリーダーなんだけど、たっくんが遊ぼうって……」
そこで聞いた話は悍ましいほどの醜悪なものだった。乱暴されたなんて話ではない。娘が受けた恥辱を想像するだけで、源次郎は吐き気が込み上げてきた。しかし、その男子生徒の話を一語一句聴いた。
「たっくんは……ヒーローなんだよ。警察の偉い人の息子なんだ。僕らは逆らえなかった。たっくんの遊びに僕らは付き合っただけなんだよ。」
ヒーロー?何がヒーロー?愕然と崩れて落ちてしまう。
「僕が知ってる事は全部話したよ。はやく助けてよ!」
源次郎の復讐するべき相手は、目の前で助けを求める少年ではなく、この社会全体だったのだ。見えない強大な敵を相手が見えた事で源次郎は肩を落とす。
「すみません。込み入った話をしているところ、割って入ってしまいました。お話は聞かせてもらいました。」
ライオンの頭部を持つ筋肉の発達した男が二人の間を割って入ってくる。
「怪人!?」
思わぬ来訪者に男子生徒は叫んだ。
「貴方は絶望してるのですか?」
「……あぁ。」
「方法はありますよ。怪人になれば良いのです。怪人は無法の存在。言ってしまえば、ヒーローや社会こそが我々怪人の敵でもあるのです。」
「……怪人に。……怪人にはなればやれるのか。」
「出来ますとも。怪人の万能の力があればね。でも、そうですね。まずは、この少年を殺しましょう。無法には無法を。」
「ひぃ……」
少年の怯える声は消された。
☆☆☆
「……ヒーロー如きが俺をわかった風に言うな!!!」
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★ 異 形 化 ★
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さっきまでそこに居た人は消え去り、未知の怪人がそこにたっていた。突然の事態にSUMOライダーは一瞬硬直してしまう。
「きゃぁ!」
すると、SUMOライダーは突如地面から這い出た触手に捕われてしまう。
「……これが怪人の力って奴なのか。……あぁ、素晴らしい。」
怪人にはなったスルメンの顔は醜い化け物になっているが笑みを浮かべ万能感に酔いしれているようだ。
SUMOライダーを捕らえた触手は身体を弄るながら絡みつき、拘束をきつく締め上げる。
「ひゃぁっ!!! 変な所を触るなっ!」
SUMOライダーは拘束を解こうと体に力を入れるが絡みつく触手の力は更に強く、びくともしない。
「……終わりだな。」
SUMOライダーの体は簡単に持ち上げられて空に浮いてしまう。
自慢の脚力も使えず、掌打も効かない。もはや何も出来なくなった状況にSUMOライダーのマスクの下にある薫の顔中に冷や汗が垂れる。
そのまま、地面に叩きつけられてしまい、薫は視界が薄れていった。




